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「さん」づけ文化

最近あるオンライン講演会で、ある大学とある企業が行った長期インターシップの紹介がされていました。その中で、その企業の人が、「うちの会社では、すべての人を〜さんと呼ぶことがルールです」と発言していました。このインターシップにも同じルールを適用したことで「学生さん方に、自由に色々な発言をしてもらうことに役立ったのではないかと思う」とも付け加えておられました。これであることを思い出しました。

それは、ある電器メーカーのオフィスに入れてもらった時のこと。私は、そのメーカーに勤める人にオフィス内を歩き回って様子を見せてもらったのですが、廊下である人とすれ違った際に、お互いに「あ、〜さん。こんにちは」と皆さん挨拶していました。私のホストがある人とすれ違ってしばらくした時に、「さっきの人、本社の専務なんですよ」と言いました。

私がかつて働いていた銀行では、そんな場合「〜専務」あるいは単に「専務」と呼ぶことになっていましたし、多くの場合、役職で人を呼ぶ習慣がありました。「〜部長」「〜課長」といった具合です。その方式は、外部の人に向かっても適用されますから、先ほどの専務を呼ぶ際も「〜専務」と呼んでいたと思います。それで、この電器メーカーの廊下での出来事にやや驚きました。

また、これは30年くらい前の話だと思いますが、大手銀行の頭取に就任した方が、新聞に「今後は、行内の呼び方をすべて「〜さん」にする」と宣言されました。しかし、程なくその「新方式」はなくなってしまったとか。やはり人の呼び方は、その組織の文化そのものを反映するので、形から変えても、本質的な文化が変わらなければ変わらないということなんだと思います。

逆に、最初に就職した会社が「〜さん」文化だったら、敬称で人を呼ぶ文化の会社に転職したような場合には違和感を感じるんだと思います。

自由に発言する組織文化を醸成するには「さん」づけ文化にすべきでは…

ネットで「さん付け運動」「さん付け」などの語で検索すると、これに対する賛否両論、中にはあまり芳しくないニュースも出ています。しかし、私は、基本的には「さん付け」に賛成です。肩書きをつけて呼ぶ場合に比べて「さん付け」と呼ぶ方が、お互いを対等であるという姿勢を浸透させることにつながると考えるからです。

肩書きをつけて呼び合うことになると、コミュニケーションのベースに組織内における上下関係が最初から入り込んできます。そうするとどうしても、自由闊達に何でも言い合えるという雰囲気が醸成されにくいと思います。意識して「さん」にすることで、「この組織内では、誰もが対等に、自由に発言できるよ」というメッセージを発することになると思います。

もちろん「さん付け」だけでそれが解決されない場合もあると思われます。それは、「さん付け」にしたにも拘らず、組織内でのコミュニケーションを上下関係を基準に行う別の要因が働いて、お互いを対等とみる文化が出来上がらないこともあると思います。そういう組織では、「さん付け」もいつか終わってしまうことになると思います。

あらゆる組織で進める必要があるのでは

またこのことは、例えば学校の場でも適用できる考え方ではないでしょうか?もちろん、教師に対する敬意を維持してもらえれば嬉しいですが、教室での発言を活発にする、学生諸君のディスカッション能力を引き上げるためには、彼らを大人として、対等に見る文化を教室内で作り上げた方が良いのではないでしょうか。そういう意味合いもあり、昨年度から、私は学生諸君をすべて「さん付け」で呼ぶことにしました。(男子学生を「〜君」、女子学生を「〜さん」と分けることも止めました)

研究の場でも、そういう文化を創り上げている先生方も多いようです。東大の理科系の研究室での話を聞いたことがあるのですが、その研究室では、ノーベル賞級の学者さんも、一学生も、すべて「〜さん」と呼ぶことがルールなのだそうです。研究者となれば、ひとりは独立した大人として対等に議論すべきだという基本的な考えに基づくものなのでそうです。

今ひとつ、私が違和感をずっと持ち続けてきたのは、同窓会の場です。多くの同窓会で、先輩は後輩を「〜君」あるいは呼び捨てにする傾向が強いように思います。中には先輩風をふかせて、さまざまな「指示」「命令」をする人もいます。必ずしもお互いに親しい間柄でもないに拘らずです。学校を卒業したら、皆対等の大人同士であることを基本原則にすべきではないかと思います。

もちろんこれには反論もあろうと思います。「〜君」と呼ぶこと、あるいは「呼びすて」場合によっては「〜ちゃん」、あだ名で呼ぶなど。それらが親しさを表す呼称であり、愛着を持たれていることも真実だと思います。柔軟な対応も考える余地もあると思います。しかし大切なのは、基本的な姿勢として「お互いは大人なんだ」という考え方を入れていかないと、上下関係を基礎とする組織から遠ざかっていく人も多いのではないでしょうか。特に同窓会のような自発的、あるいは善意で皆が参加するような組織においては、そうすべきではないかと思います。実は私もその一人です。

色々書きつつも、迷い迷い書いたので、まとまりの悪い文章になってしまいました。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。Noteを通じて多くの方と交流したいと思います。「すき」も「コメント」も大歓迎です!

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