企業の副業解禁について(1)
最近では、上場会社であっても副業してもいいよという会社がどんどん増えているそうです。
こんな報道を見ると…「自分の都合で基本的な姿勢を勝手に変えるな」と言いたくなります。ふざけんなっていう感じ!
元々就業規則に副業禁止規定を入れることは、さまざまな問題を抱えていました。後で書きますが、これらの規定を解禁することは、決して従業員の幸せを考えてのことではなく、企業の都合で行っているに過ぎないのです。
私が最初に会社員を辞めニューヨークで起業したのは1996年。当時世のほとんどの企業は、「副業は就業規則違反」とのスタンスで、ほんのお小遣い程度であっても副業で稼げばクビも覚悟しなければならないという状態でした。それが、今はどうでしょう。手のひら返しで、副業OK、色々制約をつける企業もあるようですが、副業OKなんだそうです。
まず根本的には、大袈裟かもしれませんが、職業選択の自由という憲法で定められた原則に違反と感じます。いくら私的契約で、どんな契約内容もOKとは言いつつ、ここまでやるのは行き過ぎでしょう、と思ってしまいます。自分のキャリアをどんな組み合わせとするか、一つの企業で働くという選択も、サイドでの稼ぎを加えるかという選択も、本来自由であるはずです。
次に、元々企業の就業規則で副業を禁止することには、矛盾や不公平がありました。たまたま親から不動産や預金、債券、株式などの資産を相続した場合、そこから発生する収入(家賃、利息、配当金など)は副業収入といえると思いますが、これらについては目をつむっていたのではないでしょうか?親から相続していたアパート収入を会社に申告しなかったので、クビになったという話は、ついぞ聞いたことがありません。
親が会社を経営していて自分も株主として名を連ねているようなケースでは、そこから発生する配当金は、いわば副業収入。しかし、自分の趣味が高じて行った行為が収入につながった場合など、あるいは、企業活動の一環で業務として行っていたものに対して謝礼がある場合などは、副業とされて禁止となるということがありました。仕事の一環として行っていたものから発生するものは、その収入の一定部分を会社に返せということにはある程度納得できますが、自分の趣味で稼ぐお金まで会社にとやかく言われる筋合いはないでしょう。
個々にどれが副業でどれが副業でないかを線引きすることなく、企業が恣意的に副業禁止規定を使って従業員の自由な活動を制限したり、場合によっては黙認したり。質の悪い上司や同僚の中には、「〜君(さん)、そんなことでお金稼いでいたら、クビになることもあるよ。「遊び」はいい加減に止めた方がいいよ」と「忠告」(これは脅迫だ!)する人も多いとか(私の個人的体験でもあります)。
歌手の小椋佳さんが、第一勧業銀行の職員だった時代、創作活動をしていたことに関しては、上司が「暖かく無視してくれていた」というような発言を小椋さんがされていたのを何かの映像で見た記憶があります。それとて、上司が変わって、無視してくれない人になる可能性はいつでもあったわけで、そうなると彼の本来自由であるべき創作活動は禁止されていたかもしれないのです。そうなれば、大袈裟に言えば人類の(とりあえずは、世の小椋佳ファンにとっては)大変な損失でしょう。上司の個人的な温情が美談化することも健全ではないように思います。このように副業を禁止する文言を、本来会社と個人の自由な意思に基づいて行った契約であるべき就業規則に書くこと自体、企業の傲慢だと思います。
それが、理由はともかく最近では「是正」され、「副業解禁」とする企業が増えているのは、良い方向であるとは思います。副業を解禁することで、企業が受け取るメリットも決して少なくないと思います。
まず、従業員の世界が広がります。それまで接触のなかった人たちと繋がることによって、もちろん副業の活動が活発化するわけですが、本業(この言葉もあまり好きではない)にとっても有益な情報やアイデアが、「副業」を行うプロセスの中から生まれることは多くあるのです。あるいは、やはりビジネス展開に大きな影響を及ぼす「人脈」という財産が獲得できることもあります。
あるいは、副業をやってみて初めて本業で提供している商品やサービスを、それの受益者としての立場から見ることもできるようになります。私は、かつて、銀行で商品開発の仕事をしていました。その際に、節税目的で投資を行う人のためのローン商品の開発を考えていたことがありました。
その商品性をよくするためには、自分が不動産投資をした場合に、どんなメリットを得られるのかを知る必要があります。知っていた方が、開発される商品がより売れる可能性が高まります。そしてそれを知るには、自分が投資してみるのが一番の近道です。投資をしてみて、その収入を確定申告をすることで、どんなしくみで節税が可能になるのかが実感できるわけです。この「副業」という手足を一方で縛っておいて、「不動産投資をする人が喜びそうなローンを開発しろ」というのは、あまり賢いビジネスのやり方とは思えません。
企業が副業を解禁したのには、こうした自社の業務に跳ね返ってくるメリットを考えてということもありますが、本音のところは、かつての終身雇用の下、「黙って会社の言うことだけ、命じる仕事だけやっていれば、一生面倒見てやる、だから(副業で儲けるなど)余計なことを考えずに、会社の仕事だけやれ!」と言う余裕が、もはや企業にはないからなのです。「うちの会社では、君の生活を全面的に面倒見るのは無理だから、自分で他の収入源も確保してね」ということなのでしょう。手のひら倍返しです(笑)
こんな議論をすると、「戸田さん、今や副業禁止に賛成する企業なんて少数派ですよ。戸田さんの議論は時代遅れ」との反論が必ずあります。しかし、私が、副業解禁を社内外でも主張していた時代は、わずか20〜30年前です。そしてそういう時代が再来しないとは、誰にも言えないのではないでしょうか?世のトレンドだからと言う理由で自分の道筋を決めてはいけないのではないでしょうか?
この話題、また考えが浮かびましたら、取り上げたいと思います。自分の経験に即した話もたくさん書けそうな気がします。実は、最近、サラリーマン時代に、「就業規則」ゆえにペンネームを使って書いていた連載を「復刻」しました。隠れてこんな活動しなくてもいいよう、より多くの企業が、副業を認めて、個々人の才能が広く世に伝えられる傾向がより広まることを期待したいと思います。
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