
#17 HERO不在
名古屋地方検察庁、いわゆる名古屋地検に到着。
刑事の取調べは、逮捕前日と同じように、怒鳴っているだけ。私の話を一切聞くつもりはない様子でした。
そんな状況に諦めを感じていた私は、エリート検察官がドラマのように、事実と向き合い、真実を解明してくれるのではないかと期待しましたが...
■登場人物
私:藤井浩人
K検事:検察官取調べで私を担当した検事。
Y刑事:愛知県警刑事、任意同行から私を担当。逮捕前の取り調べから、積極的に恫喝。
A刑事:岐阜県警刑事、任意同行から私を担当。同じように恫喝。
中森氏(仮名):私に30万円の賄賂を渡したと証言。 私に浄水プラントを提案しながら、その裏で数億円の融資詐欺を実行していた詐欺師。
>>>>>>>>>>>>
同行した警察官に連れて行かれた部屋には、正面に検察官、右手の奥には事務官が座っていました。警察署の取調べ室とは違い、広い部屋でした。
K検事と男性事務官。この2人とは、ここから約20日間向き合い続けることになります。K検事は、ノーネクタイで、トリコロールラインが首元に入った半袖のシャツを着ていました。
「藤井浩人、昭和59年7月25日、職業は美濃加茂市長、間違いないですか?」
「ここでの取調べは、カメラにより全て録音と録画がされています。よろしいですか?」
取調べの可視化と呼ばれ、当時は一部で導入されていた制度です。
【取調べの可視化】
2014年の当時はそれほど多く無かったようですが、密室での違法・不当な取調べによる冤罪事件の反省を踏まえ、2016年の刑事訴訟法等の一部改正により、裁判員裁判対象事件・検察官独自捜査事件について、身体拘束下の被疑者取調べの全過程の録画が義務付けられ、2019年6月に同法が施行されました。
(カメラがあれば、刑事のような理不尽な恫喝はされないだろう)
少し安心しました。
その他、黙秘権や、警察と検察の違い、弁護士を頼む権利があることなどを説明されました。
「あなたに、どのような疑いがかけられているのか、説明します」
手元には、この事件の" シナリオ "が用意されているようでした。
K検事「要は、ファミレスで10万円、居酒屋で20万円の賄賂を受け取ったという疑いがかかっています。内容は理解できますか?」
私「はい、事実ではないですが、内容は理解しています」
K検事「合計で30万円の賄賂を受け取った事実はありますか?」
私「全くありません」
K検事「事実は違うということですか?」
私「はい」
K検事「それでは10万、20万の現金を受け取ったという事実はあるんですか?」
私「いいえ」
K検事「賄賂以外の理由で現金を受け取ったことは?」
私「ありません」
K検事「ここには3月25日にファミレス、4月25日に居酒屋と書いてあるが、それ以外の時に中森から賄賂を受け取ったことはありますか?」
私「一切ありません。4月にあった記憶はあります」
K検事「あったとは?」
私「お会いしたということ」
K検事「誰と?」
私「中森氏と。余計なこと話さない方がいいですか?」
K検事「別に余計なことじゃないですよ。話してください」
私「事実として、日にちまでは定かではないですが、初めて会ったのは大手飲食店” I ”なのは間違いないです。N店なのかは分かりませんが。2回目のお店は記憶が定かではありません。ファミレスも正直記憶がない。ただ、最後の居酒屋は間違いない。その間にも会っていることは覚えているが、お店までは記憶にありません」
K検事「最初にあったのは" I "で間違いない?」
私「間違いない。始めて会った場所だと思う」...
私は与えられた情報によって思い出したことなど、記憶のままに、刑事の取調べと同じように話をしました。K検事は、私の話すことと手元の資料を一つ一つ確認しているようでした。
そんな態度でも、私にとっては冷静な判断によって、この事件が事実ではないことを判断してくれれば良かったので、望みを捨てずにK検事の言うことをじっと聞き、懸命に記憶を辿り、話せることを全て話しました。
しかし、その表情や仕草からは
「お前に寄り添う気持ちは全くない。いつまで嘘をついているんだ」
そんなK検事の気持ちがヒシヒシと伝わってきました。
残念ながら、私の目の前にいる検事さんは、真実を見抜いて事件を解決する、ドラマに出てくるような「HERO」ではありませんでした。