#79 中森氏、法廷へ再び
一審と比べ、控訴審は一つ一つの日程の感覚が大きく空いていました。
最初に決められた日程は終了。
このまま結審するのかと思いきや、検察側でも弁護側でもなく、裁判長が自ら中森氏を法廷に呼び、質問するという異例の方向へと進んでいきました。
この展開、私にとっては事件の真相に近づく絶好の機会となるはずでしたが...
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予定されていた審理、X刑事の証人尋問も終わり。弁護人、検察官、裁判官の3者打ち合わせが行われました。検察、弁護人の双方の証拠は出揃い、控訴審は結審に向かうものと思われました。
しかし、村山裁判長から新たな方針が伝えられました。
「職権で中森の証人尋問を実施することを検討している」
基本的に、裁判では検察官側と弁護人側の請求した証人や証拠をもとにして、裁判官が判決を行います。今回のように裁判官が自らの職権で調べに乗り出すのは珍しいとのこと。
この時、既に無罪判決からは1年、中森氏への2回目の証人尋問からは1年半が経とうとする頃。
裁判長の提案に、検察官は
「時間もかなり経過し、記憶の減退もある」
そう言って、必死に反対の立場を取っていました。
唯一の証拠である中森氏の証言を裁判長が聞けば何よりの証拠となるはずなのにも関わらず、検察は反対の姿勢を取り続けました。
その反応は、中森氏には本当の記憶など存在しないということを証明するには十分でした。
やはり、一審の証人尋問の前には"1ヶ月に渡り、朝から晩まで行った打ち合わせ"があったから、中森氏はスラスラと証言ができたのでしょう。しかし、1年以上も経過してしまっては、中森氏が証言台に立つことは検察官にとって危険極まりないものでした。
後に分かったことですが、実際に、S検事は無罪判決の後、刑務所に服役していた中森氏と2、3回、面会していました。その目的は、中森氏を控訴審でも証人尋問に協力させることでしたが、何度説得しても中森氏は応じなかったということでした。
裁判官の職権による尋問が決定すると、検察官は方針を変え、検察官からも尋問を請求すると言い出しました。
その理由は、検察官からの尋問請求が認められれば、検察官は証人テストを行うことができるからでした。
しかし、この検察官からの請求を村山裁判長は
「検察官の証人尋問請求については、裁判所の意図に反しているので、もし、請求しても却下する」
と明言し、更に
「検察官は証人テストを控えてもらいたい。もし、証人テストを行った場合には、中森の証言の評価に影響する」
と検察官に釘まで刺しました。
中森氏が"1ヶ月、朝から晩まで打ち合わせ"ができない状況で証言台に立つ。体験に基づいた、生の記憶で話をさせることで、事件の真相が明らかとなる。
それは、私が心から期待していた内容でした。
そして検察官にとっては、全てのストーリーが崩壊する。まさに最悪の展開と呼べる状況だったのではないかと思います。
その中森氏の再証人尋問が、3ヶ月後の5月23日に決定。
もちろん、早く控訴審を終えて被告人から脱したい私。
待ち遠しい3カ月である一方、大きな期待感がありました。中林氏の尋問で、私の無実が証明されるだけではなく、事件における警察や検察の杜撰な捜査、中森氏の描いた恐ろしいストーリーが明らかになる。全ての真相が公になることを心から期待していました。
しかし、その期待は、ある人物によって意図的に打ち砕かれるのでした。
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