僕のターニングポイント
振り返りを振り返る
庵忠 茂作(あんちゅう もさく)さんの
企画【清水カップ】への参加です。
お題は『私のターニングポイント』
それではさっそくいってみよー
僕にとってのターニングポイントは
会社の先輩の死だった。
あれは確か、2012年の冬
僕は大型設備の立ち上げのため
出張で台湾に来ていた。
ちょうど正月前の駆け込みで
台湾全体がバタバタしてた頃
携帯に、上司からの電話📞が‥
んっ?部長?
なんで上役から
僕みたいな、下っ端に?
なんか、ヤバいトラブルか?
まあ、しょうがないか・・
緊張しながら電話を取る
「はいっ!武です」
「あっ!部長!お疲れ様ですっ!」
「えっ?、ごめんなさい
ちょっと電話が遠くて・・
ああ、はい!えっ先輩が?」
「えっ・・、なんで・・」
「あっ、はい!聞こえてます、はい!
はい!、はい!、わかりました。
他のメンバーにも伝えます。
はい!はい、では失礼します」
プー、プー、プー
・・・
そんな、ウソだろ‥
・・・
いや、ぜったいウソだ、
先月、本社で会った時
いつも同じ、大きな声で
「がっはっはー」て楽しそうに
冗談言って笑ってたのに・・
そんな・・ なんで・・
きっと、何かの間違えだ、
そんな、だって、死ぬなんて・・
べつに気分も、悪そうじゃ
なかったし‥ まだ若いし・・
あ、そうだ!
メンバーに伝え‥
・・・
なんで・・そんな・・
ありえない
ウソだ、ウソだろ・・
おかしいよ・・
ハハ、きっと何かの、間違え・・
そうだ、きっと先輩の手の込んだ
ドッキリかもしれない。
おちつけ、あのA先輩だぞ・・
ハハハ、そうか、こりゃ
ドッキリかもしれないぞ‥
まあ、先にメールでも吸って、
ちょっと落ち着いてから
現場に行くか・・
簡易の休憩所の
部材やら、図面が散乱する
机で、ノートパソコンを開けて
Outlookを開く
バーが伸びて
新しいメールが
10件ほど入った
えっ・・
なんだ、コレ、【訃報】って、
おいおい、おい
なんだよコレ!
しばらくパソコンの画面みて
立ち尽くしていると
後ろから、後輩が声をかけてきた
「武さん、メール見ました?
A先輩、亡くなったって・・」
「ああ、さっきオレも部長からも
電話あった・・」
「えっ?、でも武さん
A先輩ですよね?
だってオレ、A先輩に
出張前に声かけられたけど
めっちゃ元気そうでしたよ?」
「ああ、オレもちょっとまだ
ちょっと、よくわからない・・
ちょっと全員で集まって
ミーティングしよう
わるいけど
皆んなに声かけてきて、
ちょっと皆んなに、
伝えたいことがあるんだ‥
「わかりました・・でも
武さん?顔、真っ青ですよ」
その時は、お客様のところに、大型の設備を納品する日で、搬送業者やら、設備の立ち上げメンバーやら、10人くらいのスタッフで、作業中だったので、何人か残って、2、3人、A先輩と親しかったメンバーだけ、先に帰る事に、僕は班長的な役割だったので、現場に残ることに・・
長期の出張で運悪く、納入した設備に大きな不具合が発生してしまい、大規模な修理をしないと、復旧しない事態に、なんやかんやで、先輩が亡くなってから、一ヵ月くらいたって、ようやく客先での作業をすべて終えて、日本に戻りました。
すっかり、葬式にも、行きおくれて、もう、今更だなぁと思ったけど、A先輩のお墓参りに、一人で車で行くことに決めた」
A先輩のご実家は、長野県にあり、僕が住んでる場所から、車で5時間くらいの、山の中にある。
何度か、A先輩の家に、
遊びに行ったことがあった。
カーナビ、たよりに、
長野の山奥のお墓を目指す。
一人で車を運転し、FMラジオからは、陽気なノリで、音楽が流れている。
なんか、急に頭にきて、オーディオのスイッチを切って、無言で運転する。
うすらさみしくなり、iPhoneで音楽が流す、アジカンの『君の街まで』がエンドレスで流れ続ける
時折り、カーナビがなんかしゃべってる。後は、車のエンジン音と、エアコンの音だけがブォーと、鳴っている。
なんでオレ、一人で、長野の山奥になんか・・ふと、涙が、ダラダラ、とめどなく流れた
どのくらい走ったか、なんだか、おそろしく、早く着いたような気がする。
先輩のご実家がある、降りたことのない、インターで降りて、ナビにしたがい、くねくねと、山道を登ると、小高い山に、お寺が見えた。
あれか‥
だんだんお寺が、近づいてくる。
ああ、お寺だな
車が5、6台とまる、駐車場に
車を止めて、出かける前に
コンビニで買った、ライターと
ろうそくと、線香もって、
花屋で買った、白い菊を
コンビニの安っぽい
白い袋に入れて、
歩いて、寺に入る
真っ黒な、鏡面の黒い柱が
何本も立っている中に、
わりとわかりやすいところに
A先輩の家のお墓があった。
あまり、お墓参りしたことなかったので、いまいち勝手が、わからないけど、お寺の入口に、桶みたいな水汲みと、お杓が、並べてあって、小川から伸びた、灰色のパイプから、水が出ていたので、水を汲んで、先輩のお墓の近くまで運んだ。
しばらく、お墓をながめ、
それから、汲んできた水を
ぴしゃぴしゃと、黒い鏡面の
墓石にかけて、きれいに
ホコリを洗い流した。
ライターで火をろうそくにつけ
ろうそく立てみたいな所に刺す。
炎がたよりなく、ゆれながら
燃えている。
コンビニのビニールから
線香の束をだして、
豪快に火で炙っていくと
黒く焦げた後に、灰色にかわり
オレンジ色に先端が輝いた。
線香の束を
置き台みたいなところに
横に置いて
しばらく、煙が
上がっていくのを眺める
ふと墓石の右側面に目をやると
先輩が亡くなった日付けが
彫ってあった。
あっ、そうか
やっぱり、先輩は
亡くなったんだ。
ようやく、亡くなって
一カ月もたって
ようやく、本当なんだと、
本当に先輩は亡くなったんだと
あらためて、納得して
ぶわーと、涙が溢れでた。
「早いよ‥、先輩、早すぎるよ・・」
かなしいはずなのに、
どんどん涙が出るたびに、
ホッとしている自分に気がつく
なんで、涙が
止まらないんだコレ‥
ははっ、なんだこりゃ
止まらん、ヤバい・・
そうか、やっぱり
死んじゃったんだ、
本当に、死んじゃったんだ。
悪いことしたみたいな
気分になって、
あわてて手を合わせる。
その瞬間
確かに、何かが変わったと思う
僕にとって、あの日
あの瞬間、まったく、違う
生き物になったような気がする。
先輩の分も、ちゃんと生きなきゃ‥
心の中で、そう誓った。
今思えば、あの時が、
僕のターニングポイントだった。
-終わり-
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