抗議デモが続く、米国政治が抱える出口の無さを考える。
抗議デモの始まり。
2020年5月25日に、ミネアポリス市内で起きた、白人警察官が黒人を拘束し死亡させたことがいま続く抗議デモの発端である。
https://www.bbc.com/japanese/52857950
「死亡させた」と書いたが、これはおそらく不適切だ。映像と証言を踏まえれば、白人警察官が殺害したことは明らかだからだ。8分間以上にわたり、息ができないと訴える人間の首の上を膝で押さえ続けることを、殺人と呼ばずしてなんと呼ぼう。これが起爆剤になって、特に都市部を中心に、全米で抗議デモが展開された。デモのマッピングはこちら。見てもらうと、やはり都市部において、非常に回数が重ねられている一方で、全国的なものであることもよくわかる。デモでは、「I can't breath (息ができない)」と殺害されたフロイド氏の最後の言葉や、「Black Lives Matter」と、黒人の命は価値がある、というスローガンが掲げられた。
Black Lives Matter
今回のデモは、主に1950年代から1960年代にかけて展開された公民権運動以来の大規模なものだ、と言われている。今回のデモはトランプ大統領のおかげで、拡大したと言っても、まぁ過言ではあるまい。トランプ大統領を、「病気の原因ではなく症状」、と見る見方は、民主党予備選挙でも革新派に広く共有されている。すなわち、トランプ大統領がアメリカを現状のような差別的で、米国第一主義にしたのではなく、そもそもアメリカ合衆国がそのようなものであった、ということだ。ただし、彼の言動が粗暴であるため、オバマ大統領がオバマ大統領のころに比べて、同じことをしていても批判しやすい、という環境がある。もし、オバマが大統領だったら、素敵な美辞麗句を並べて、それなりにやってますふりは取るだろうが、具体的な政策を変えることは何もせず、問題を「なぁなぁ」にしたのではないか。だからこそ、やっていることは一緒だけど批判しにくい人からしやすいことにかわったおかげで、世界中みんな平気でアメリカ合衆国の批判をしているわけだ。
そんなことはない、という人へは、Black Lives Matterがいつ生まれたのかを考えてみるとよい。オバマ政権時だ。米国で著名な人権活動家で、民主党予備選を争ったバーニー・サンダース氏の強力な支援者でもあった、ウェスト氏は、
"It's amazing to see Brother Barack Obama out there acting like he's part of the vanguard and struggling against police power when Black Lives Matter emerged under his administration, with his Black Attorney General, with his Black [Secretary of] Homeland Security," West said.
(そもそも、Black Lives Matterは、バラクオバマが大統領のとき、黒人の検事総長と、黒人の国土安全保障長官のもとで、始まったものであるにも関わらず、オバマ氏がまるで先陣を切っているかのように、まるで警察権力に抵抗しているかのように振る舞っている様子をみるのは、とても凄まじいことだ)
https://www.middleeasteye.net/news/cornel-west-black-lives-matter-fight-us-empire
そう、オバマ大統領はまさしく期待を裏切った張本人で、黒人大統領、黒人検事総長、黒人国土安全保障長官と重要な連邦政府レベルのポジションを黒人にしたにも関わらず、警察権力の暴走・暴力を一切止めなかったのだ。そのよい事例が、石油パイプラインである、ダコタ・アクセス・パイプライン建設の際に行われていた、ネイティブアメリカンを中心とした、抗議活動に対する、オバマの対応だ。以下の記事では、以下のようにオバマ氏が沈黙を保ったことが報道されている。
"despite weeks of increasing repression from authorities, Obama's near-silence about both whether Native Americans should have the right to decide what happens on their own tribal lands, as well as on the increasing brutality designed to quell the protests, isn't an accident. It's an indication of where his administration's priorities truly lie--with business, not with protecting the environment or the rights and sovereignty of Native Americans."
(何週にも及んでひどくなっていく権力からの抑圧があったにもかかわらず、ネイティブアメリカンが彼らの土地で何が起こるかに対して決める権利があるかどうかについてと、抗議活動を押さえつけるために悪化していく残虐な対応について、オバマがほとんど沈黙を貫いたことは、偶然ではない。これは、彼の政権にとっての本当の優先事項がどこにあるかを示している。それはビジネスであって、環境やネイティブアメリカンの権利や主権ではない、ということである。)
https://socialistworker.org/2016/12/01/obamas-cowardly-silence-on-standing-rock
以上のことより、警察の残虐性・暴力性・差別主義についていえることは、1.そもそも民主党・共和党関わらず、アメリカ社会に根強く蔓延る病気であって、オバマ時代も、ブッシュ時代も、ずっとあった問題だ。依然として、1000人に1人の黒人が警察に殺されているのは、なにもトランプが始めたことでもなんでもない。2.民主党・共和党それぞれが州知事を持っているところで警察による殺害をカウントすれば、2019年に発生した警察による業務中の殺人(人種問わず)事件数の半分近くを民主党州知事のもとで起きている。そしてその多くがまともに法的に訴追されていない。党にかかわらず、である。
誰が起訴させたり、警察を改革できるのか?
テレビやソーシャルメディアで、アメリカ各地で起きている警察官による過剰な暴力の行使や、不法な拘束、またその状況での死、無抵抗の市民に対する火器の使用について、トランプ大統領の責任を問う声がよく見受けられる。確かに、彼の言動や、警察の悪行と止める努力の無さをみると、それはそれで責任はあると思われる。ただし、本当に責任を取らなければいけないのは、警察官を指揮できる地位にいる人間や、警察官が殺人や暴行を業務中に行った場合に起訴や法的に処分を行える立場にいる人間ではないだろうか。
アメリカ合衆国の政治体制は大変に分権的で、州や市の力が強い。アメリカの州知事や市長はもちろん選挙で選ばれるが、そのほかにもその選挙の結果次第で、行政の多くの人間が入れ替わる。例えば、Atterny General(司法長官)は州にも存在し、43つの州において選挙でえらばれている。つまり、今回の件でいえば、ミネアポリス市が位置するミネソタ州の司法長官が、訴追可能だ。
ではなぜ、トランプ大統領が、デモを抑圧しようとしているというような扱われ方をするのだろうか。メディアとしてもトランプ大統領を攻撃できるよい機会でもあるし、あくまで抗議デモを支援しているふりをして、これまでの自分たちの不都合な過去をすべてトランプ大統領のせいにしようとして、自らの責任をあやふやにしようとする民主党指導部の存在もある。彼らも同様に犯罪的だ。そもそも、現時点で民主党大統領選指名候補者としてほぼきまりかけているバイデン氏は、彼の政治家人生において、黒人と白人の差別政策に賛成し、公共サービスを切り崩し、健康保険制度を解体しようとしていたものだ。トランプ氏が一期目にした政策で、バイデン氏が推してこなかった政策は、北朝鮮やアフガニスタンでタリバンと和平交渉を進めることぐらいだろう。民主党は根っからの戦争好きだ。
これまで大統領にできることはない、というようなニュアンスで話を展開してきたが、大統領にもできることがある。それは、州兵に直接連邦命令を下して、警察や差別主義者の攻撃からデモを守ることだ。これには事例がある。
オバマ大統領が、ミズーリ州知事(ジェイ・ニクソン、民主党)が、ファーガソン事件で市民が抗議デモを展開した際、州兵を動員して制圧を試みていたとき、できるときは無かったのかという質問に対し、(事件の様子は、以下のリンク)
https://www.huffingtonpost.jp/2014/11/27/12-sobering-numbers-michael-brown_n_6230218.html
アイゼンハウアー大統領(共和党)が、1957年のリトルロック事件での事例を挙げている。その際には、融合教育に反対する有権者を支持獲得を狙ってアーカンソー州知事(オーヴァル・フォーバス、民主党)が州兵を動員して黒人生徒の登校を阻んでいたとき、リトルロック市長(ウッドロー・ウィルソン・マン、民主党)の要望に応じてアイゼンハウアー大統領は大統領命令を下して、州兵を連邦指揮下におき、黒人生徒を警護し、登校できるよう計らった。もちろん、それで学校生活がよく行くのかというのは別問題であるものの、人種差別者の民主党州知事に対し、融合教育を進めるよう下した最高裁の判断を尊重する民主党市長の要望に基づき、共和党大統領が実践したことになる。
このように、オバマ大統領もトランプ大統領もできることはあった。しなかったのは、したくなかったからだ。
今後。。。?
アメリカ合衆国ではいま、defund police - 警察解体ということが推されている。その事例として、ニュージャージー州・カムデンの事例が日本でも報道されていた。
https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000187117.html
2012年に警察解体を進めたが、これはオバマ大統領がしたことだろうか?いや、彼は関わってもない。このように、地域住民、市長、地方議会が一体となって動くことで、警察解体・改革は可能なのである。今後、このようにより地方自治機構の重要性が再認識され、地方の政治家がより説明責任にされされて、より住民にとってよい政策が展開されるようになるのではあれば、何よりである。
しかし、主題の通り、バイデンかトランプか。出口のない選択肢しか残っていない。時間があれば、今週結果がでたいくつかの民主党予備選挙で、長年座席をとってきた、いわゆるイスタブリッシュメント議員が敗戦した、希望もすこし見えてきたので、それでも書こうかな。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?