優しい風が再び吹き抜けた~「ヴォーリズ建築・ツッカーハウス」~
アニメ「けいおん!」の学校のモデルで有名な豊郷小学校や京都の東華菜館などの建築で知られる、建築家のウィリアム・メレル・ヴォーリズ。
彼の建築の一つである、滋賀県近江八幡市に残る「ツッカーハウス」という建物が5月に期間限定で公開されたので、先日見学に行ってきましたのでご紹介します。
※ちなみに⇩の記事でも紹介した旧伊庭家住宅もヴォーリズ建築。
◆ツッカーハウス(近江療養院)
ツッカーハウスは、バームクーヘンなどで有名なたねやが運営するラコリーナ近江八幡にほど近い場所にあります。
すぐ近くには先日noteでご紹介した、水郷めぐりの発着場もあります。
さて、ラコリーナから琵琶湖側へとのびる道を進み、八幡山の斜面に沿って並ぶ療養施設群の中を分け入って進んでいくと、今回ご紹介する建物が見えてきました。
ツッカーハウス(当時は近江療養院)の完成は大正時代の1918年。
当時不治の病だった結核を撲滅したいというヴォーリズの想いのもと、メアリー・ツッカー女史という方の寄付によって建てられた結核療養所でした。
療養所としての役目が終わり、長らく老朽化が進んでいた建物でしたが、約10年にわたり修復作業が進められ、今年5月15~20日にかけて一般公開されました。
まず私が見たのは階段。
他のヴォーリズ建築でもだいたい見られることですけど、ツッカーハウスの階段も上る人の負担がないように、一段一段幅が広くて段差が低く、途中に踊り場が設けられています。
彼の些細な優しさが垣間見られるような、私のヴォーリズ建築の好きな要素の一つです。
階段を上がっていきます。
建物の2階には、病室として使われた広い部屋が2つあります。
写真を見てお気づきの方もおられるかもですが、建物の中がとにかく明るい。
これは、冬至期に最大熱量を得られるように日照の方角や時間を計算して建てられているためだそう。
大きな窓も、通風をよくするために効果的に配置、設計するという徹底ぶり。
自然の空気と採光に満ちたツッカーハウス。
まるで、結核が持つ暗いイメージごと吹き飛ばそうという、そんな強い意志を感じた建物でした。
◆五葉館
ガイドさんの案内でツッカーハウスを出て裏手へと進んでいくと、新緑の奥にこじんまりした建物が見えてきました。
こちらは五葉館と呼ばれる建物で、ツッカーハウスの小病棟として建てられました。
カエデの葉っぱのように5方向に突き出しているのはそれぞれ結核患者のための病室で、3面に設けられた窓から日光と空気をふんだんにとり入れることができます。
また中央の広間は患者たちの娯楽室として使われ、夏季などは暑い空気が天井から抜けるよう自然通気口が設けられています。
写真では、古い建物だけど状態がいいように思われます。
しかし立ち入れたのは5室中修復が終わった3室だけ。
修復が終わっていない2室のうちの1室を撮影したのがこちらです。
結核療養所としての役目を終えたこれらの建物は、改装も修復も行われず老朽化が進む一方だったそう。
一時、ツッカーハウス取り壊しの話もありましたが、有志の方々の強い要望で免れました。
しかし保存を続けようにも資金難が続き、クラウドファンディングなどを経てようやく長きにわたる改修工事が完了。今回の公開へと至りました。
「結核をなくして、多くの人々の命を救いたい」
そのためにヴォーリズがしたのは、些細だけど患者のことを考え尽くした工夫と、徹底した計算に基づいた設計。
明るくて、自然の空気に満ちるツッカーハウスに入ると、そんなヴォーリズの強い想いと優しさに包みこまれたかのようで。
でも、それを感じられたのは、ヴォーリズの意志に共感した様々な人たちの努力があったからで。
修復がなされていない部屋の内装が、古い建物を維持し続けることがいかに困難で、いかに人の手を必要とするかを物語っていました。
ヴォーリズ建築以外の古い建物も、きっとそう。
そこにあたり前にあるように見えても、その裏にあるのはあたり前じゃない。
ツッカーハウスの中を歩いていると、窓から窓へ優しい風が吹き抜けていく心地が何度もしました。
100年前にヴォーリズが吹かせた優しい風。
優しさも強さも増した風が、今、再びツッカーハウスを吹き抜けています。
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ここまで読んでいただきありがとうございました。
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