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電車でつながる瞬間


朝の通勤ラッシュが、いつも通りやってきた。新しい職場への通勤はまだ慣れていないが、会社の最寄り駅に向かうこの電車は、毎日同じ時間にやってくる。座ることはほとんどないが、窓の外を眺めて景色が変わる瞬間を楽しむのが日課になりつつあった。

ある日、いつものようにドアの近くに立っていた時のこと。次の駅に停まると、年配の女性が重そうな荷物を抱えて乗り込んできた。少し困った表情を浮かべながら、つり革を探していた。

「座りませんか?」

咄嗟に声をかけた自分に、驚いた。普段はあまり人に話しかけることはないが、その女性の疲れた様子がどうしても気になったのだ。

「ありがとうねぇ、助かるわ。」

女性は柔らかく微笑んで、近くの席に腰を下ろした。彼女はありがとうと言いながら、少しだけ目を閉じ、ほっとした様子だった。

次の日も、同じ電車で通勤していると、またその女性が乗ってきた。今度は荷物を持っておらず、手ぶらだったが、彼女は自分を見ると目を合わせて微笑んだ。

「昨日はありがとうね。また会えるとは思わなかったわ。」

「こちらこそ、またお会いできて嬉しいです。」

それからというもの、毎朝の通勤電車で女性と顔を合わせるのが楽しみになった。挨拶を交わすだけの日もあれば、少し会話をする日もあった。仕事のことや、休日に行く場所の話など、短い時間の中でさまざまな話題が飛び交った。

ある日、女性は自分に一枚の小さな手紙を渡してきた。

「いつもあなたのおかげで、朝が楽しくなったのよ。これはお礼。」

中には手書きのメッセージと、手作りのクッキーが添えられていた。電車という、ただの移動手段に過ぎない場所が、少しだけ特別な空間に変わった気がした。

電車は毎日同じルートを走っているけれど、乗る人たちが紡ぐ物語は、毎日少しずつ違う。時々、そんな日常の中で、人と人がつながる瞬間があるのだ。


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