局所多汗症診療のいま
先月(8月30・31日)、日本発汗学会総会が久しぶりに名古屋で開かれるとのことで参加しました。
当日はあいにくの台風で新幹線が上下線ともストップ。遠方の先生方はオンラインでの参加となってしまいましたが、新しい知見も得られましたので、汗でお悩みのみなさんにシェアさせていただきます。
原発性局所多汗症診療ガイドライン
私は2020年9月4日、2010年に策定された「原発性局所多汗症診療ガイドライン」について紹介させていただきました。
その記事では「原発性頭部顔面多汗症の診療ガイドライン」が追加された2015年版を最後に載せています。
この後さらに、昨年(2023年)、2020年11月に抗コリン外用薬が保険適用となったことから、それも含めて改訂されていたので、新たに紹介させていただきます。
2023年版のガイドラインから、現在の「多汗症診療アルゴリズム」のチャートを引用し、ここに貼りつけておきます。
この時点では、まだ外用抗コリン薬の保険適用は腋窩多汗症に限られていましたが、その後、以下で紹介するように久光製薬が手掌多汗症で保険適用を取得したため、多汗症治療のバリエーションが増えている現状なのです。
いずれも対症療法ではありますが、汗でお悩みの方には朗報ではないでしょうか。
ワキ汗・手汗のおくすり
汗腺に作用し、汗を止めるように働く抗コリン外用薬について、製薬メーカーのサイト情報を少し載せておきます。
【手掌多汗症】
アポハイドローション
久光製薬が2023年3月「原発性手掌多汗症」の「効能又は効果」で、製造販売承認を取得した外用薬です。
エクリン汗腺に発現するムスカリン受容体にオキシブチニンが結合することで抗コリン作用を有することにより、抑汗作用を示す
とのこと。詳しく知りたい方は図入りのページがあります。
塩化アルミニウム液は保険適用のある外用薬がなく「院内製剤」として処方されている。
イオントフォレーシスは患者自身による機器の購入、または専用の機器を有する医療機関への通院が必要である。
これらの問題を解決すべく開発されたといわれます。
手汗の診療については、久光製薬が提供している「みんなの手の汗サイト」が参考になるでしょう。
【腋窩多汗症】
エクロックゲル
エクロックゲル5%は、科研製薬が2020年9月、「原発性腋窩多汗症」を適応症として製造販売承認を取得したゲル剤。Bodor Laboratories社が創製した抗コリン作用を有する新規化合物、ソフピロニウム臭化物で、M3を介したコリン作動性反応を阻害することで発汗を抑制することが期待できるとされます。
アプリケーターの上面に、右わき、左わき共にポンプ1押し分の薬液をのせて、わきの下に塗布して使用します。
ラピフォートワイプ
ラピフォートワイプ2.5%は、マルホが2022年1月に製造販売承認を取得した原発性腋窩多汗症に対する1回使い切りのワイプ製剤で、発汗に関与する神経伝達物質であるアセチルコリンのムスカリン受容体への結合を阻害し、汗の産生を抑制するとのことです。
1包に封入されている不織布 1枚分の薬液を両方のわきの下に塗って使います。
エクロックゲルは12歳以上から、ラピフォートワイプは9歳以上からの使用となっており、1日1回。
わき汗については、マルホが提供している「脇汗治療の総合情報サイト」を参考にされるといいでしょう。
日本発汗学会総会も今年2024年で32回。学会発足(当初5年間は研究会と称していた)から32年も経ったことに驚きます。
さらに遡ること5年、「精神性発汗現象に関する研究会」の事務局を、私は1988年から担当させていただき、発表記録集の編纂を行っていました。
そして発汗学会の創設に関われ、局所多汗症を取り巻く診療環境が大きく変化したことは、それでお悩みの方々にとって喜ばしいことではないでしょうか。
私が研究に関わっていた頃は、抗コリン内服薬か取り扱いの難しい塩化アルミニウム液、ボツリヌス毒素注射、あるいは東京医科歯科大学で行うイオントフォレーシスくらいしかありませんでした。途中、胸腔鏡下胸部交感神経節切除術( ETS:Endoscopic thoracic sympathetomy )という手術が保険適用となり、さかんに行われた時期がありましたが、術後、代償性発汗という体幹部の大量発汗に悩まされるという問題も露呈しました。このETSについては、今回の総会で山本英博先生から先進的な発表があったので、別の機会に紹介できればと思っています。
いますぐ知りたいという方は、山本英博クリニックのページをご参照ください。
多汗症の仲間
最後に、
として、2022年に設立されたNPOについて紹介します。
多汗症サポートグループ
手汗で書類を書くときに!「汗らないシート」が紹介されていますよ。
学会総会では、ここの運営メンバーである日比野莉里さんと、少しお話しできました。
2009年1月につくった、多汗症セルフヘルプ・ガイド「汗の輪」について、内容は当時のままですが、閉鎖されたブログを移設し、リンクし直したのでお知らせしておきます。
医療機関情報については、また検索して新しいものを提供したいと思います。
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