クリスプサラダワークス10周年を迎えて
はじめに
2014年12月にクリスプサラダワークス1号店を開業してからちょうど10周年を迎えたこのタイミングで、お客様やパートナー(スタッフ)はもちろん私たちのビジネスに関わる全ての方へ感謝を伝えると同時に、改めて私の創業までの道のりについてお話しすることを通じて、私たちが掲げる「日本の外食を、ひっくり返せ。」が生まれた背景を知ってもらえたら嬉しいです。
私のこと
私は1981年生まれの千葉県千葉市出身で、父は普通のサラリーマン。母はパートに出るくらいで、基本的には専業主婦という、ごく一般的な家庭に育ちました。
日本の高校を中退し、アメリカに留学
高校も元々は日本の高校に入学して、別にグレていたわけではないのですがなんだか学校が嫌になって学校に行けない日が続き、結果的に半年で中退してしまいました。
高校に行かなくなると同時に、私は都内で一人暮らしをしていた兄と同居することになりました。 どういういきさつだったのか、ちょっと覚えていないんですが、たぶん、「何もやることがないなら働け」みたいなことだったと思います。そこで居酒屋のアルバイトを半年ぐらいしていました。
そんな時にアメリカ留学の話を親からされました。特別裕福な家でもなかったのですが、親からすると「さすがに高校は行ってくれ」ということだったのかもしれません。
アメリカの高校に行くという話を聞いたときは、「すごく行きたいわけでもないけど、行ってもいいよ」くらいの気持ちでした。たぶん当時の私はものごとを深く考えていなかったのだと思います。流されるがままだったのですが、10代のうちにアメリカで暮らしたことは、今思えば私にとって大きな転換点になりました。
思わぬ形で、アメリカで初めての起業
アメリカのホームステイ先の家族は中国系アメリカ人で、そこのお父さんは起業家でとても魅力的な人で私はすぐにその人を好きになりました。
そんなアメリカのお父さんから、私が高校を卒業する時に「今度天津甘栗のビジネスを始めるんだけど一緒にやらないか?」と誘われました。
普通はなんの経験もない高校生に「一緒にやらないか?」と言ったら「自分の会社で働かないか?」という意味だと思うんですけど、その人はちょっと変わった人で「ビジネスパートナーとしてフィフティフィフティでやろう。その代わり私は何もしないけど、必要なことは全部教えてあげる」と言われました。こうやって私の最初の起業は思わぬ形で始まりました。
そもそも「甘栗売りをアメリカで?起業?そもそも売れるの?」なんて思った方もいるかもしれません。でも、結論から言うと、実はすごい売れました。アメリカに住んでいる日本人の方を中心に「懐かしい!日本にいる時よく食べたよね!」とみなさん本当に喜んでくれて、甘栗が飛ぶように売れました。
この時、私の中にはこんな気づきがありました。日本では当たり前のように存在して誰もさほど気に留めないようなものでも「場所やシーンが変わるだけでこんなにも人に喜んでもらえる」
その後、アメリカのお父さんが若くして亡くなってしまったこともあり、私は成功していた甘栗のビジネスを引き払って日本に帰国することになりました。
日本に戻り、外食チェーンに就職
今度は会社員をやってみたい、と思い日本の外食企業で働くことになりました。タリーズコーヒージャパンという会社に第二新卒で入社して、5年ほどいたのですが最終的には緑茶カフェ事業の事業責任者として国内約10店舗の営業・商品開発・マーケティング部門を任せてもらえるようになりました。
緑茶や抹茶をスペシャルティコーヒーショップのようにカジュアルに毎日楽しんでもらうという当時は革新的なコンセプトのチェーンでしたが、赤字続きで苦戦ばかりでした。会社にはかけがえのない経験をさせてもらった感謝の気持ちでいっぱいですが、同時にやはりまだ存在しないニーズを掘り起こすのは本当に難しいなと感じた経験でもあります。
再度独立し、東京でブリトー専門店を開業
その後もう一度独立し、東京でブリトーとタコスの専門店を始めるのですが、これは私がアメリカで甘栗を売ったことの逆をやろうと思ったからです。アメリカ、特に私が住んでいたカリフォルニアでは当たり前のようにあったテックスメックス料理ですが、当時の日本で提供しているお店はほとんどなく、日本に住んでいるアメリカ人の方を中心にたくさんの熱狂的ファンを作ることができました。
日本の外食を、ひっくり返せ。
クリスプサラダワークスを開業
その後始めたのが、クリスプサラダワークス。本当に色んな人に支えられて今では国内29店舗まで成長することができましたが、最初はブリトーと同じで日本に住むアメリカ人に向けて作ったお店でした。
2014年、最初にお店を出した麻布十番の一号店の最初のメンバーは私が社長兼店長であとはアルバイトスタッフが数名。 オープン前は周囲の人からも「サラダだけはさすがに無理じゃない?」と、めちゃくちゃ心配されたんですが、蓋を開けたらびっくりするほどのお客さまが来てくれました。麻布十番といっても裏道の、人通りもほとんどないような場所で月商1,500万円くらい売れたんですね。いやらしい話、利益も毎月数百万円でて。 みんなからは「本当にうまくいってよかったですね!」って喜んでもらったんですけど・・
でも、全然楽しくない!
でも私的にはこう思っちゃったんです。うーん、確かに大成功だけれど・・・「これって全然楽しくない!!」
めっちゃ売れたのに、儲けているのに楽しくない?
なんでかっていうと、全然良いお店じゃないんです。人気店な反面、毎日行列でお客様を待たせるし、スタッフも忙しくて店内はバタバタ、お客様がだんだん増えてくると次第に常連さんを覚えることもできなくなったりしちゃって。
気づいたんです。売れれば売れるほど、理想の顧客体験から離れていっちゃうって。良い店を作りたくてこの店を始めて、お客様から評価されて売り上げが伸びるのに、混めば混むほどクオリティが下がるのってなんかおかしいな、と。
よく言いますよね。皆さんの周りの飲食店でも「あのお店はチェーン展開し始めたからもうダメだ」とか。本当はお客様から評価されて売上が増えたら、サービスをもっとよくするためにそのお金をまた投資できて、お客様一人当たりに提供する価値って増えないとおかしいのに。外食の世界だとなぜか規模が大きくなればなるほど、お客様一人当たりに提供する価値が減っていっちゃってるような気がして。
そこでこんなことを思いつきました。「テクノロジーの力で規模の拡大と優れた顧客体験、両立できないか?」「よし、儲けたお金をテクノロジーに投資しよう!」開店して半年の時に決断しました。
人にしかできない価値を提供することが、顧客体験の価値の源泉
じゃあ、テクノロジーでどうやってお客様の体験を向上させていくかなんですが、私は飲食店が成功する要素は「料理」「業態」「人」の3つだと考えているんですが、インターネットの出現によって「料理」と「業態」はもはや競争優位性ではなく、生きのびる上での最低条件となったと思っています。
例えば、「料理」についてはインターネットのレシピサイトやキュレーションもそうですけど、レシピのオープンソース化や料理を科学する取り組みによって、未だかつてないほど「美味しい料理」を提供することが容易になりました。また、「業態」はインターネットで世界がつながり、世界中の店舗が見える化された結果、業態の模倣や陳腐化が加速しています。
一方で、接客については例えば夜遅い時間にスーツのお客様が来店した時に、店員さんが「まだ仕事だったんですか?遅くまで大変ですねぇ、お疲れ様です!」と一言言ってくれるだけで「なんていい店なんだ!」って思ってそれだけでファンになっちゃうかもしれないですよね?これはまだなかなかテクノロジーで代替できない領域だと思っています。
だからこそ、機械がやれる仕事はテクノロジーを使って機械に任せて、人は人にしかできない価値を提供すること、つまり料理でも業態でもなく、人が生み出す顧客体験こそが飲食店の「伸び代」であり、価値の源になると考えています。
テクノロジーはお客様をより深く理解するためのもの
そんな中、まず始めたこと。とにかくデータを集めるということです。
なぜかというと、お客様のことをより深く理解すればするほど、お客様が望むより良い体験を提供できると考えているからです。
伝統的な外食企業では、データが見えないので、勘やセンス・経験といった占い師のような意思決定が多くの会社で行われています。
もちろん勘や経験を否定するものではなく、素晴らしい結果を出すことも可能な一方で、ただ、そのような意思決定方法は改善サイクルが回しづらく、再現性を持って持続的にお客さまをハッピーにすることが難しいと考えています。占い師が自分の占い結果のレビューをして、次の改善につなげるって言う話はあんまり聞いたことないですよね。
一方で、テクノロジーを活用している企業は、様々なデータが見えるので、現場のスタッフが持っている素晴らしい力をデータでサポートしてよりお客さまに喜んでもらえる原動力になることに加え、「誰が言ったのか」ではなく「お客さまを持続的にハッピーにするために、何が必要なんだろう、私たちは何をすれば良いのだろう」と言うことに、マネージャーもスタッフも、ベテランも新人も、全員が一致団結して向き合うことが可能になると考えています。
だからこそ、外食業界にこそテクノロジーは必要で、テクノロジーと現場の素晴らしい人の力をかけ合わせることで、今まで以上にお客さまをハッピーにすることができると考えています。
テクノロジーで外食で働く人の課題を解決したい
私たちは、テクノロジーと人の力をかけ合わせて外食で働く人の課題を解決したいと思っています。特に、人手不足・長時間労働・低賃金の3つ。これを属人的でなく、誰にでも再現可能な形で解消したいと考えています。
解決手段は大きく3つあると思っていて、1つ目が「デジタル化と科学的分析」。機械やテクノロジーで代替したり科学的なアプローチを行うことで、そもそも人が少なくてもできるようなオペレーションに変えていく。実際に私たちのお店ではほぼ全ての注文がモバイルオーダーやセルフレジでデジタル化されていて、店頭にレジスタッフは存在しません。
2つ目が「現場の労働体験の進化」。働き方や報酬体系の自由度を圧倒的に高めることで、外食の現場を、働く人にとって、もっと魅力的な環境にすることです。これも
3つ目が「接客価値の定量化」です。外食で働く人材の専門化を進めると同時に接客の価値を定量化することで、外食の仕事を「誰でもできる仕事」じゃなくすることです。
特に日本のアルバイトスタッフは世界一優秀だと思っていて、飲食だけでも250万人の非正規雇用の方がいるんですけど、機械が得意なことは機械に任せて、人は人でしか生み出せない価値を出すことに集中してもらいたい。
最後に
テクノロジーと人の力をかけ合わせて、お客様にもっとハッピーになってもらえる体験をつくる。テクノロジーと人の力をかけ合わせて従業員の労働体験を進化させる。テクノロジーと人の力をかけ合わせて日本の外食業界をひっくり返す。
こんな世界が実現できたらワクワクしませんか?日本には素晴らしい外食企業が、本当にたくさんあります 。こういった素晴らしい企業の魅力が、テクノロジーで強化されて、みんながもっと成長できて、もっとワクワクするような世界を作っていきたいと思っています。
それが私たちの考える「日本の外食を、ひっくり返せ。」です。