目で見て口で言え「華麗なる家路」
肋骨蜜柑同好会のフジタタイセイさんが脚本を担当したえすたしおん「華麗なる家路」を見てきました。本番直前にコロナの陽性者が出たため、完全ダブルキャストのうち「月チーム」の全公演と「太陽チーム」の一部ステージが中止となりましたが、何とか3ステージ、実施されることになったのです。ワタクシは元々この日のこの回に予約していたのですけれど、全公演中止になったチームの出演者や制作陣のことを思うと胃がキリキリ痛くなったりしました。
シアターKASSAIは2度目です。客席の上の方、PAスペースの前の席にしました。シアターKASSAIって、実際より客席の傾斜がきつく感じるのはなぜかなあ(舞台が遠く感じる。といっても、それは見ているまさにそのときではなくて、あとから思い返したら、ということなんですけど)。
0時37分。発車ベルが鳴り響く、大久保駅のホーム。
寝不足の目を擦りながら、作家は下りの最終列車に滑り込む。
見送った私は一人、家路を急ぐ。
目を閉じろ、口を開くな、砂が入るぞ。
顔を隠して、姿勢は低く。背中を丸めて歩かなければ。
抗鬱剤をカップ酒で流し込んだ時、私の顔はひとつの観念に支配されていた。
「最高に美味いカレーが食べたい」
ブッダの教えも色あせる末法末世。
黄金色に輝く幻の一皿を求め、一行は西へと向かう!
魔性の芳香。深紅の油膜。帝国主義の影から産まれた目鼻なき混沌。
一口食べれば汗も噴き出す灼熱のニルヴァーナ。
立ち上がる湯気は逃げ水か。はたまた砂漠のオアシスか。
複雑怪奇にして単純明快。五臓が踊り、脳幹震えるサイケデリックトリップ。
毒を喰らわば皿までどうぞ。
ワタクシの大好きな芝居のあらすじの典型のような今回のチラシのあらすじ。やたら情報量が多くて、かつ「何もいっていない」、そしてケレン味たっぷりなシメのワード。ああ面白い。面白いに決まっているじゃないですか!本番に向けて、期待はいやがうえにも盛り上がる。
ダブルキャストで「太陽チーム」を選んだのは、舞台で拝見したことのない方が多かったからです。(ジジ役のシマザキさんくらい?)お話としては、「伝説のカレー」を求めて日本各地を旅する人々の物語が、中盤からは日本から独立した鳥取に潜入する幻想冒険譚になります。ちょっと起伏ありすぎのロードムービー風のお話は、脚本家からの演出と役者(そして観客)への挑戦状のようだな、と見ながら思ったことであります。
そしてもうひとつ、しみじみと思ったことは、役者の実年齢と役の年齢の齟齬をどうやって克服するか(特にその差があまりないとき!)ということでした。すげー年寄りとか未就学児童とか、極端に振れてれば思い切りよく踏み出せると思うんですが、これが10〜15歳くらい上、とかだと絶妙に難しい。やるのも、見るのも。年齢不詳の作家(ところでこの人は自称作家、とか、まだ本気出してないだけ、の人ではなく、一応職業作家という理解でよいのでしょうか?)はともかく、元・警官で現・探偵さんの方、主人公(花組のスター!)より若く(幼く)見えてしまいました。うーむ。難しい。
↑このあたり何を言ってもブーメランのように返ってくるなあ。
あと、上の方の席で聞いてて若干セリフが聞き取りづらい部分がありました。たとえば主人公の族の頭時代のセリフとか。冒頭だったので特にこちらの耳が慣れていなかった所為もあるかも。
何にしても、今回このような公演形態になってしまったので、ぜひ数年後にまったく同じキャストで再演(月チームは初演?)してほしいです。(配信もあるようです。詳しくは「えすたしおん」で検索してみてください)