カレーの包容力が地球を救う! レトルトカレーで食材ロスゼロ社会へ 【RING HIROSHIMA】
インドに起源がありながら、もはや日本の代表的国民食と言っても過言ではないカレー。その魅力はなんと言っても、どんな食材もどんとこい!と受け入れる寛容さと多様性ですよね。そんなカレーを累計1千食以上は食してきたという猛者が、RING HIROSHIMAにやってきました。目標は「レトルトカレーの製造・販売でフードロス問題を解決する!」。ん、どゆこと?!
CHALLENGER MOTTAINAI BATON 目取眞 興明(めどるま こうめい)さん
「食品ロスは世界的な問題。まだ食べられるなら、食べ物に変えようということです」
目取眞興明さんは、食材ロス問題をレトルトカレーで解決することを目指し、2021年秋に「MOTTAINAI BATON」という会社を立ち上げた人。「もったいないもの」を「本来の価値が発揮されていないもの」と定義しています。
「それを、リレーのバトンのように、生産者から消費者、そして良い未来へとつなぐ役割ができれば」
沖縄から東京農大へ進み、食品経済学を学んだ目取眞さんは、食品業界への就職を目指すも就活に苦戦し、調剤薬局へ。しかし、食品に関わる夢を捨てきれず、農業ベンチャーに移りました。そして、規格外の野菜などを無料配布するイベント「もったいないまつり」を2017年から開催。新型コロナの影響で開催できなくなり、代わりに何かをと考えたとき、レトルトカレーの販売を思いつきました。その後、自ら事業化するため退職。ECサイトを立ち上げ、レトルトカレー専門家としての目利きを生かして、セレクトした商品を売っています。
しかし、「もったいない」の解決に、なぜカレー?
「カレーってどの食材にもあうし、レトルトにすることで長期保存できるので、可能性が広がっていくかなって」
確かに、カレーは「なんでもあり」。マグロ、抹茶、レモン、チョコレート。インターネットで検索すれば、世の中にはありとあらゆる食材を使ったカレーが存在していることが分かります。りんごとハチミツが恋をするだけじゃない、いろんな食材同士が禁断の恋に落ちてしまう恐るべきカレー沼。その魅力にハマり、目取眞さんはこれまで累計1千食以上食してきたとか。
「世の中には3、4千種類あるんで、1千食なんてまだまだ未開拓」
MOTTAINAI BATONで、使用する食材や販路開拓のために各地の生産者や自治体などとつながる中で 、RING HIROSHIMAについて知った目取眞さん。各種コラボの可能性を模索しつつ、実証実験の場としての活用を考えました。
しかし、沖縄生まれ、東京在住の目取眞さん。広島には土地勘も人脈もありません。そこで、頼りになるセコンドの登場です。
SECOND 株式会社Story Agent IB BREWING 西原総司さん
横浜出身の西原さんは、2021年に広島に移住し、呉市でクラフトビールのブルワリーを運営しています。2018年の西日本豪雨の直後に災害ボランティアとして訪れ、離れた後も地元の人たちと交流を続けてきた西原さん。ビール醸造の夢を、ここで実現することができたらと移住を決めたそうです。
「今僕が本業としてやっているビール事業は、社会課題解決とは関係のないところでやっているんですけど…」
遠慮がちに語り始めた西原さんは、以前、ソーシャルビジネスにチャレンジしたものの失敗した経験があるそうです。
「社会課題をビジネスで解決することの難しさを身を持って感じたのと同時に、多くの人たちに支えてもらったのが心強かった。だから僕も、何か志を持って社会課題解決したい人のサポートをしたくて」
実は西原さん自身、あるモノに頭を悩ませていたのです。それは…
麦芽カス。
ビール醸造で必ず副産物として出る麦芽カスは、産業廃棄物として処理されるケースがほとんどですが、その扱いは醸造業者の課題でした。…とくれば、この先の目取眞さんの行動は、皆さんもうお分かりですよね。
「麦芽カスを使ったカレー、できないだろうか」
ビールづくりの産業廃棄物はタンパク質の宝庫
しかし、ビールを飲むしか脳がない筆者には、麦芽カスなるものがどんな見た目なのか、どんな味なのか、まったく想像がつきません。
西原「コーンフレークを牛乳でピッチピチに浸した状態というか。味は一切ない。ただ、タンパク質の塊なので栄養価は非常に高いんですよ」
目取眞「オートミールとかああいうような感じですかね。ちょっとコソコソしてるんですが。食感いいな、って思いました」
日本では、酒粕なら甘酒や粕汁という第2の人生があるけれど、麦芽カスはリタイア後の人生の選択肢が確立されていません。
西原「ビールをつくる限り永遠に出てくるゴミなので、業界としても有効活用できる出口があるとうれしいんですが」
呉を中心に、生産者の取引先や商工団体などを西原さんが紹介、目取眞さんはロス食材などを求めて広島県内を駆けずり回りました。そして、広島で出合った食材は、麦芽粕のほか、しいたけ、菊芋、チヌなど。これらを使って6種類のカレーを試作しました。
その一つが、麦芽カスも使った「広島横断カレー」。麦芽カスは、いくつかの食材と一緒に使う方が良いとのこと。ネギ、パパイヤ、えごま、トマト、しいたけとコラボしたオールスター! どんな味になるのやら。
「肉が必要かな」「辛目に仕上げよう」など、組み合わせに応じて食材の掛け合わせやアレンジを工夫。それを、全国で7ヶ所の提携工場に出して試作品を作り、「イケる!」となったら商品化へ、というのが流れ。レシピ作りには、社会人や学生のボランティアが関わっているそうです。
「広島っていろんな海の幸、山の幸があって食材が豊富。ここで日常的に食べられているもの、でも実際にまだ知られていないものだったりとか、そういったものを採り入れ、地域性を重視して作りたい」
「三方よし」の商売めざす
広島で走り出して5ヶ月、RING HIROSHIMAでどの程度まで達成できる?!
「三つの商品を作ることをKPIにしています。子ども食堂や食育との関連で話をしていて、2月までには実証実験として完成させたい」
ただ、課題も見出しているようです。
「小ロットなので、どうしても一食あたりの単価が高くなる。2〜300円で買えるものが、うちのは市場価格の倍ほどになってしまう。組み合わせで販売したり、スポーツ団体とコラボしたりして価格を下げたい」
余剰食材を商品化して、それがビジネスになる。それを経済や、社会へのインパクトとして数字として出せるかが、今後のカギです。
「流通が乗れば、1生産者・1事業者の食品ロスを50%なり減らせて、売れる商品にできる。それが実証できれば、広島そして全国で、全体的な食品ロスの削減として実感できるようになる」
飛び回る目取眞さんと伴走してきた西原さんも、感慨深い思いがあります。
「久しぶりに社会課題に触れるきっかけになりました。改めて『三方良し』の商売に一度原点回帰して、自分のビジネスのあり方も見直したい」
「素敵な思いがあって意義のある活動をしている方が広島に来てくれてうれしい。人脈もない中、僕もサポートしてくれた人が、今回快く皆さん協力してくれて目取眞さんとつながってくれるのは、僕としてもうれしいですね」
目取眞さんにとっても、西原さんの存在はかけがえのないもの。
「同じ食品業界で、ソーシャルビジネスを元々やられていた観点もある。かつ、元々広島にいなかった方の動き方として参考になります。だから、西原さんのビジネスともつながりたいです」
広島発、タンパク質たっぷりの麦芽カスのレトルトカレー、誕生が待ち遠しいですね。
EDITORS VOICE 取材を終えて
筆者実は、納豆カレーにすら引いてしまう、自称「味覚保守派」。「普通」のカレーばかり食べているのですが、一方で朝食からカレーを食べるほどの愛好家でもあります。目取眞さんの熱い思いを聞き、ダイバーシティ&インクルージョンというカレーのポテンシャルに気付かされた私。広島色豊かなレトルトカレーで社会課題が解決できるなら、これは応援するしかないですね。(text by 宮崎園子)
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