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生理中、ナプキンを持たずに外出できる社会…そんなの可能?【RING HIROSHIMA】

いきなりですが、一句。「急にきた でも持ってない 生理ナプキン(字余り)」。これ、生理あるある。筆者も外出先での冷や汗は数知れず。今回は、この問題を解決すべく、RING HIROSHIMAに挑戦者としてやってきた髙堰うららさんをご紹介。生理中でも、誰もが安心して出かけられる社会にしたい、と生理用品が入った装置を商業施設や企業などのトイレの個室に設置する「生理ライフ」の事業を進めているとか。え、なになに?

CHALLENGER オモテテ株式会社 共同創業者・CEO 髙堰うららさん

チャレンジャーの髙堰うららさん

東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程に在籍中の髙堰(たかせき)うららさん。「未来のあたりまえを実装する」をミッションに掲げ、昨年10月にオモテテ株式会社を起業しました。同社の最初の本格的な事業が、「unfre.(アンフリ)」と名付けた生理用ナプキン入りの小さな箱型装置の普及。unfree(不自由)にピリオドを打つ、との意味をこめた名前です。

トイレの個室に入る。スマホを操作する。すると、設置された装置から、ナプキンが出てくる。unfre.の仕組みはざっとこういう感じ。アプリも開発することで、ビジネスとして成立させたいということです。

unfre.のイメージ図

1回の生理期間中に使用する生理用ナプキンの枚数は20~25枚。生理用ナプキン1枚あたりの使用時間については、経血量が多い月経期前半はモレの不安や経血による不快感から交換頻度がこまめになる傾向にあります。一方、量の少ない月経期後半においては、生理用ナプキン1枚あたりの装着時間は長くなる傾向にあり、月経期前半に比べておよそ1.5倍の長時間使用となっています。(花王調査)なお、生理用ナプキンの取り替え時期についてはトイレに行く毎が漏れ対策の観点や衛生面の観点から推奨されています。

(日本衛生材料工業連合会「日衛連NEWS」78号より)

「必要なときに必要な場所で取れた方がよくない?とか、そもそもなんで個人が持ち歩くことが当たり前になってるんだ?というシンプルな疑問が、創業メンバーとの話の中であって。例えば、最近コスメ自販機が出たり、充電も出先で当たり前のように取得できる世の中で、生理用品こそニーズがあるんじゃないかなっていうところから生まれてきたアイデアです」

生理が始まる時期が他の友人たちに比べてとても遅かったという髙堰さん。

「長い間生理の不便さを実感しなかっ^た一方、学部を卒業してから結構生理痛が悪化した。生理について周りの子達と話せないことや、生理痛で授業を休みにくいこととか、なぜ選んでないのに自己責任?って問題意識を持つようになったのが、実体験としてこのサービスがほしいと思った理由です」

きっかけは他にも。高齢者と自動運転、モビリティーに関する国のイノベーション創造プログラムに参加し、感じたこと。

自動運転の試乗会に参加した髙堰うららさん
(Youtubeチャンネル「SIP cafe onTube 自動運転」より)

「高齢者が自動運転に乗ってくれるかの調査なんですが、機械は怖いとか、バスはどこに行くかわからず不安とか、精神面が強く影響していると思った。自分にとってのそれを考えた時、やっぱ生理。どうすれば、多くの人が不安から自由になって安心して移動できるかを考えるようになった」

自動運転に関する配信イベントに登壇した髙堰うららさん
(Youtubeチャンネル「SIP cafe onTube 自動運転」より)

学部時代から、イノベーションのフィールドワークや、学内のビジネスコンテストなどに積極的に参加する中で、スタートアップの楽しさを知り、仲間とともに起業した髙堰さん。unfre.の試作品を作り、コンパクトな規模で実証実験をしたい、展開先も開拓したいと考えていた時、大学近くのイノベーション施設で、ひろしまサンドボックス担当の広島県職員と知り合い、RING HIROSHIMAに応募しました。

広島との接点はほぼなかった髙堰さんにとって、セコンドの石井さんは強力な伴走者。広島でDX推進コンサルタントとして働いており、昨年に続いて二度目のRING参加なのです。

SECOND 石井彰さん

セコンド・石井彰さんはベテランの風格

「去年やったのが一番大きい。RINGのセコンドさんたちがかなり優秀で、かつトガってるというか変な人が多くて(笑)。ものすごく刺激になるので、自己研鑽として参加しています。あとは単純に楽しいから」

石井さんは、昨年のチャレンジャーの学習支援ロボット「ユニボ先生」プロジェクトにセコンドとして参加。現在も実装支援で携わっています。海外のメディアからも注目されたプロジェクト。

しかし、名セコンドの石井さんも、さすがに生理となると苦手なのでは?

「正直何も思わなかった。去年と違って今回のRINGはマッチング会があり、そこで髙堰さんの生理だけでなくPMSなんかも出てて、そういう問題なんだって。あと、うちの奥さんも生理ひどいので課題感はわかるなという」

そう。今回のRING、生理をテーマにしたチャレンジが他にもあるんです。

「僕の中でタブーは特にない。心配したのは僕は男性だから実証実験に参加できないとこですね。でもわからないからこそのフォローも必要かなって」

石井さんのツテで11月、東京以来初の実証実験を広島で展開。金融機関とコワーキングスペースの計2カ所にunfre.を設置し、ユーザーアンケートをしました。

この実証実験、筆者も参加しました。「このトイレにナプキンあります」と書かれた個室に入ると、箱型の装置が設置されている。QRコードを読み取り、指示通りiPhoneを操作すると、取り出し口のところからゆっくりとナプキンが登場!こりゃあ、もしもの時にとてもありがたい!

「アンケートの結果はまだ集計分析中ですが、『すごく使いやすい』『生理じゃないけれども安心した』という声が多くてよかったです」

セコンド石井さんは、「ユニボ先生」の時に知り合った県議会議員たちに、unfre.の実証実験について案内。すると、広島市議会議員も連れてきてくれました。議員の方々が来てくださったら、一気に話も進みそうな…?

実証実験を視察しにきてくれた議員たちと。左端が石井さん、右端が髙堰さん

石井「学校に置いたらいいんじゃないか、とか確かにそうなんですけども、教育委員会としての予算の動きはなんとなくわかっているのですが、ユニボ先生でもひと悶着したぐらいなので、きっと難しい。置いてはくれると思うけど具体的にどうやってビジネスに持っていくか。慈善事業ではないので」

髙堰さんも、さまざまな論点をすでに見出しています。

「来られた議員の方が早速教育委員会にお話いただいたみたいで。予算の問題のほか、例えばスマホ校内持ち込み禁止だとどうするかとか。これは、学生証をNFC対応するなど技術面の工夫しどころ。教育機関だからアプリ誘導が難しいとなると、学校か教育委員会かに費用を負担いただくことになる。運用サポートも、業者か、学校か、あるいは学生がやってそれも学びの一つにするか、とか」

RING HIROSHIMAの実証期間内にどこまで到達できるでしょうか。

「エンドユーザーに対してはどういうサービスがアプリに欲しいか、とか、どのくらいの金額だったら課金するかといった調査を継続します」

実は、設置先候補は山ほどあり、すでに鉄道企業やグループ会社を持つデパート、商業施設などと話が進んでいるそうです。目下の心配は、unfre.の製造が追いつくか。

「設置場所は比較的柔軟なんです。壁があればどこでも。横にトイレットペーパーのように取りやすい場所に設置する形で予定していますが、ハードウェア全般については、正直大体の仕様ができているので、強度をどう高めるかとか、量産体制をどう構築するか、というところに今取り組んでいます」

在学中からすでに各種プログラムへの参加が豊富な髙堰さんですが、ご自身の経験の中で、RING HIROSHIMAというチャレンジはどうでしたか?

「サポートがいいし、概算払いがあるし、結構スタートアップを理解しているって思います。予算の計画やもろもろ申請の仕方も、他に比べたら比較的やりやすい。とにかく行動重視。そこはすごくステキだなって」

二度目のセコンドとなった石井さんは、どんな手応えを?

「前回の『ユニボ先生』はもうビジネスモデルになっていて、足りないところをサポートするぐらいで十分だったけど、今回は違う。オモテテは若い4人が頑張ってるけど、やっぱ若いから思い切っていけるんだろうなと」

髙堰うららさん(左)、石井彰さん(右)

「若さ」に対する評価。髙堰さんは、東大院生の起業家としての世間からの注目のされ方にちょっと思うところもある様子です。

「東大女子だとか若いとか、あんまり言われない日が来るといいなって。学生起業家を応援したいっていう方から『学生だね』とかわいがってもらうけど、悪い意味で言うとちょっとなめられてる?って思うこともあります。ちゃんと事業として評価していただける日を楽しみにしています!」

EDITORS VOICE 取材を終えて

頭をよぎったのが、駅やデパートのトイレでたまに見かけるナプキン自販機。どことなく古く、メンテされているか不安な上に割高感がハンパなくて、最後の切り札でした。最近はたまに居酒屋のトイレにナプキンがカゴで用意されていて便利だなと思うけれど、髙堰さんがいうように「生理中も手ぶらで」を実現するなら、「どのトイレにもあまねく」が必須。すると、居酒屋スタイルはコストの観点から難しい。性悪説に立つと、ごそっと持っていかれるリスクも。こうやって必要な分だけ取れて、しかも無料というのは、提供者・利用者双方にウィンウィンかも。(text by 宮崎園子)


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