VRで防火管理講習(広島市)【スタートアップ共同調達事業】
専用ゴーグルを装着してバーチャル・リアリティ(VR)の世界を体験するという行為はだいぶ一般にも知られてきたが、実際それを体験したり、活用しているという人はまだ少ないのではないだろうか。今回の広島市の挑戦は、そのVRを防火管理講習に使うというもの。VRの新しい活路について取材してきた。
防火管理講習の実技を
オンライン化できないか?
今回、広島市が採択した案は「誰でも簡単にVRコンテンツを作成できる空間データ活用プラットフォーム『スペースリー』による防火管理講習のオンライン化」。取材に答えてくれた山根 武(やまね・たけし)さんは市の消防局の予防部予防課予防係の主査である。
そもそも消防局の予防係というのは、どういう仕事を行う部署なのだろう?
そう、今回の舞台はこの広島市総合防災センター。筆者も広島市内在住だが、安佐北区倉掛にこのような施設があることは初めて知った。ここでは火災や地震、豪雨といった災害時に適切な判断や行動がとれるよう、市民研修や子供研修、事業所研修や法定講習などを実施している。
総合防災センターを利用する研修受講者は年間約8,400人(2022年度)。そのうち防火管理講習は毎年1,000人程度が受講している。
オンライン化することで利便性を向上させ、防災を身近に感じてもらえないか? それが今回の取り組みの出発点だった。
VR映像を共有することで
グループでの研修も可能
消防局の呼びかけに応えて企画を送ってきた企業は7社。その中から「株式会社スペースリー」の提案を選択した。
スペースリーのウリは360度VRコンテンツを誰でも手軽に簡単に制作・活用できるクラウドソフト「スペースリー」。これまでVRを用いて不動産賃貸の仲介や空き家問題の対策などに携わってきたが、近年は製造業を中心にVR研修を提供し、習熟度43%UPや研修時間効率化の成果も上げている。VRゴーグルだけではなくPCやスマホ等のデバイスで手軽に閲覧できるのも特徴だ。
バーチャルな映像を大勢で共有することで、本人だけでなく周りにとっても学びとなる。こうしたメリットを実現するため、山根さんたちとスペースリーは防火管理講習のVR化に乗り出すことにした。
VRの限界を知ることで
リアルの強みも知る
現在の状況だが、まさにVR映像作成の真っ最中だ。先日スペースリーのスタッフが総合防災センターを訪れ実技講習の模様を撮影。当初は防火管理講習のオンライン化を予定していたがそこから幅を広げ、総合防災センターで実施している様々な講習についてコンテンツを作成している。
上の画像を見てもらえばわかるように、VR映像の制作は順調。今年度末にはひとまずの完成を見る予定だ。
また、実証実験を行ったことで新たな気付きも得られた。
バーチャルの限界を知ることで、リアルの強みも知る。それもまた今回の実証実験で得られた収穫なのだろう。
企画があったからこそ
掘り起こされるニーズ
最後に「The Meet」という企画自体について聞いてみた。
ちなみに今回のVR講習は消防局にとって以前から頭を悩ませていた課題というわけではなく、「The Meet」という企画を知ったことで「じゃあやってみるか」となったもの。企画があったからこそ掘り起こされるニーズもあるし、それによって引き起こされるイノベーションもある。
ここで「The Meet」は、まちを刺激する起爆剤として機能しているのだった。
●EDITOR’S VOICE 取材を終えて
本文にも書きましたが、私、広島市民でありながら「広島市総合防災センター」という施設の存在を知りませんでした。事前に予約は必要ですが、広島市民であればさまざまな研修が無料。天ぷら油の火災実験、消火器を使ったシミュレーション、子供向けには消防車体験に防災紙芝居……面白そうって言ったら不謹慎かもしれませんが、ここにVR研修が加わればゲーム性が向上し、さらにアミューズメント感アップ。楽しみながら防災を学べるって、実は大事なことかもしれません。(文・清水浩司)