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「経験と勘と度胸」とIoT。職人の集団が進む未来へ【実装支援事業】

2018年にスタートした“ひろしまサンドボックス”で、最初に行われたプロジェクトのひとつが「つながる中小製造業でスマートものづくり」でした。
デジタルソリューション(株)が開発した機械の稼働状況を可視化するツールの実証と、それを使う中小製造事業者のコンソーシアムで業界の横のつながりづくりが行われました。

「つながる中小製造業でスマートものづくり」として終幕を迎えてからもコンソーシアムは続き、そして今回、実装支援事業に採択されたのです。

ものづくり×IoTで、どんな進化が起きようとしているのでしょうか。

“光”を検知する技術で、IT化が進みにくい業界に光を差す

デジタルソリューション(株)が開発したのは、製造用機械の稼働状況を可視化するツール「DBoxディーボックス」。稼働中の機械に点灯しているパトランプの色を検知して、正常に動いているかどうかを1か所で管理することができます。

緑は正常に運転中、黄色は警告、赤は異常発生を表していて、この色を検知することで各機械の稼働状況と稼働率をデータ化します。
「歯車」を中心に、産業用機械など顧客のニーズに合わせた部品や機器を製造する(株)広島精機でも、DBoxを設置しました。

これまでは「経験と勘と度胸」を合言葉に生産計画を調整してきました。現場のスタッフがそれぞれの感覚で考えてくれていますが、感性でなく科学的に処理できるようにしたかったんです。
感覚として稼働率20%くらいは確保しているかなと思っていたのですが、DBoxでデータ化したところ、5%ほどだったのには驚きましたし、「これは宝の山だ!」と思いました。

(株)広島精機 代表取締役 柳原 邦典さん

この写真のように、DBoxで各機械ごとに検出したデータは、ひとつの画面で見ることができます。
帯が緑色の部分は正常に稼働している時間、黄色は停止、赤色は異常、そして黒い部分は稼働していない時間です。

それにしても、機械の数の多さたるや!
これが広島精機の特徴であり、そして課題にもつながるところでした。

当社は多品種少量生産が特徴で、平均で10工程ぐらいの注文が1000件以上ある状態なので、機械の種類と台数が多く、稼働しない機械も多いんです。各ブロックで急な変更もあるし、遅延や納期の重複などを調整するのに苦労しています。
1分1秒を争う製造よりも、大きなロスをいかに早くつかむかがいちばん大事。まずは稼働状況を把握をして、停止しているブロックや、納期に余裕があるのに優先して進めているブロックがあれば、振り返ることでその理由が分かります。

(株)広島精機 柳原さん

多品種少量生産、時には1品だけの生産もあり得る中小製造業では、機械が止まっているからといって一概に悪いということではなく、止めている間に次の段取りを進めているなど、裏では仕事が進んでいることもあります。

「稼働状況をデータ化することは、稼働率の向上や効率化だけでなく、他にもメリットがある」と話すのは、DBoxを開発したデジタルソリューション(株)の橋詰公太さんです。

コンソーシアムメンバーの事業者さんの中には、データを見積りに使っていただいている事例があります。これまでは、過去に同様の加工を担当したスタッフさんにどのくらい時間がかかったか感覚で教えてもらって見積もっていましたが、データがあれば同じ工程にかかった時間が正確に分かります。
量産の場合はサイクルタイムが重要ですが、多品種少量生産の事業者では、稼働していない時間になにをしていたかが大事です。ソリューションとしてはまだそこまで踏み込めていませんので、今後開発していきたいところです。

デジタルソリューション(株) 橋詰さん

カギとなる、人材の課題

(株)広島精機は、これまでも先進的にIT化を進めていました。

1990年頃、まだパソコン(パーソナルコンピューター)でなくオフコン(オフィスコンピューター)だった頃から、生産管理をコンピューターで行っていて、これは同業の中ではかなり進んでいる方です。
生産工程は表計算ソフトの縦と横が何重にも重なっているようなもので、どんどん複雑化してセルの集合体が増えている状態。どうやって混ぜ合わせながら自分のものにできるかということを暗中模索しています。
高額なスケジュール管理ソフトを購入したこともありますが、既存のシステムとの相性が悪くて無駄になってしまいました。

(株)広島精機 柳原さん

生産管理ソフトは、それ自体が大企業の大量生産向けに作られているものも多く、中小企業ではソフトに合わせて現場が動くことでひずみが生まれたり、スケジュール管理だけで1日終わったりする事例もあるのだとか。
中小企業に合わせたやり方でないと上手くいきません。

でもひとりで悶々としていても苦しいので、コンソーシアムのメンバーと一緒にみんなで頑張っています。
月1回コンソーシアムミーティングで情報交換していますが、各社異なるシステムを使っていても、みんな同じ課題を抱えているんだなと実感しています。

(株)広島精機 柳原さん

そして、どの事業者も共通して抱えている課題のひとつが「人材」です。
ソフトを導入しても、実際に現場で使えるものかどうか、現場で使えるためにどんな機能が必要か。ものづくりのこととソリューションのこと、どちらも理解できるいわば“通訳”が社内にいることは、会社としての大きな強みです。

(株)広島精機でそこを補える人物が、ITに関する基礎的な知識が証明できる国家試験「ITパスポート」を持っている大友岳さんです。
大友さんの前職はシステムエンジニア。(株)広島精機に入社してからしばらくは製造の現場にいて、今は営業を担当しています。

システムを導入したとしても、従業員の理解を得ながらどのように広げていくかということが大切です。
現場だけでも、ソリューションを開発する事業者だけでもできない。デジタルソリューションや橋詰さんの力と、当社の現場の力とを、私が橋渡ししていきたいと思っています。

(株)広島精機 大友さん

DBoxと生産管理システムのほかにも、工場内の道具の持ち出しや在所を管理するシステムも導入予定です。現場で実際に機械や道具に触れてきた大友さんは、デジタルソリューション(株)との架け橋となって、最大限の効果を生むキーマンとなりそうです。

見えない未来に向けて飽くなき挑戦は続く

IT化を進める(株)広島精機、そして製造業の未来はどうなっていくのでしょうか。

今のビジネス形態が10年後同じとは思えません。今の状態は今でしかない。高度経済成長期の日本であれば「稼働率を80%に上げる」という目標もあり得たかもしれませんが、今後は小さい市場のニーズに的確に合わせた仕組みが必要だと思っています。
ますます多品種少量生産になっていく中で、効率もあげていきたい。AIやITに関する情報もいち早くキャッチして、飽くなき挑戦を続けていくしかありませんね。

(株)広島精機 柳原さん

製造業についてはまだまだ未知の領域もありますが、パートナーとして置いて行かれないようについていきたいです。多品種少量生産から単品生産、究極としては個人から受注できるような生産の仕組みを実現したい。製造業だけでなく、加工や食品などいろいろな業界ともつながりながら、シミュレーションどおりに生産できる仕組みを作っていきたいと思っています。

デジタルソリューション(株) 橋詰さん

EDITORS VOICE 取材を終えて

「飽くなき挑戦を続ける」と宣言した柳原さんは、AIに関する勉強会でデジタルソリューション(株)の社長と出会ったことがきっかけで、「つながる中小製造業でスマートものづくり」のコンソーシアムに参加したそうです。
ものづくり一筋でありながら、時代に合わせたニーズや手法を敏感に察知しようとする広い視野に感銘を受けました。
勘と度胸と経験の上にITの力も取り入れる職人が増えていくと、日本を支えてくれる製造業がもっともっとすごいことになっていきそうです。
広島の社長さんたち!コンソーシアムメンバーはまだまだ募集しているようですよー!

(Text by 小林祐衣)

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