夢にまっしぐらに進むのは若者の特権であるが、今回RINGに上がる2人はその中でも特に若い。21歳と20歳。これは前回も含めたRING HIROSHIMAのチャレンジャーの中で最若手の分野に入るのではないだろうか?
2人が青春を捧げるのは「農」。「Nozuchi」と題したプロジェクトで自動草刈りロボットの製作に挑む。突っ走る若い力とそれをサポートする顧問の先生のような年配セコンド――この微笑ましい関係性もRING HIROSHIMAの魅力だろう。
CHALLENGER①「nouno」福島大悟さん
このプロジェクト、まずは挑戦者2人の背景が面白い。農業ユニット「nouno」を構成する21歳の福島大悟(ふくしま・だいご)さんと20歳の斉藤陽太(さいとう・ひなた)さん。斉藤さんが早生まれのため1歳違いだが実は同級生。生まれも育ちも別々の2人は奇妙な縁でチームを組んだ。
福島さんは福山市出身。神石高原町の農業高校に進んだ。彼が興味を持ったのは地域活性化。自らの心の故郷のことがずっと気になっていたのだ。
高校に進んだ福島さんは、来校した「一般社団法人まめな」の面々と出会う。まめなは「くらしを、自分たちの手に取り戻す。」をミッションに農や食、教育の分野で活動するグループ。彼らの姿勢に共感した福島さんは、まめなの拠点である大崎下島・久比に足しげく通うようになった。
まずはまめなと関係が深い「ナオライ株式会社」での酒蔵再生事業に関わり、高3になるとさっそく自らプロジェクトを立ち上げた。「まめな手形」は金銭だけに頼らず、感謝の念によって地域経済を回すことができないかという壮大な試みだ。
その後、大学に進学したがアクシデントが発生。コロナによるロックダウン。知らない街でのオンライン授業には気が乗らず、そのまま久比に滞在しているうち今度は「島の寺子屋」という教育プロジェクトを始動する。とにかく次々とアイデアを思い付き、すぐに行動に移してしまう性格なのだ。
そんな福島さんが改めて注目したのが農の世界だった。
そして2022年2月「nouno」というユニットを立ち上げる。
CHALLENGER②「nouno」斉藤陽太さん
一方の斉藤さんもダイナミックな変転を経て久比に辿り着いた青年だ。
横浜出身の斉藤さんは、勉強が苦手で三重にある私立の農業高校に進学した。卒業後は渋谷の専門学校に通ったものの、ここもコロナの余波でオンライン授業に。授業の退屈さに耐えられなくなった斉藤さんは「もっと自由に生きてみたい!」と学校を辞めることを決意する。
そこからは農家の季節労働者として各地を転々とする。愛媛のみかん農家を経て、広島のレモン農家へ。そこが福島さんも関わったナオライだった。
まめなで出会い、意気投合した同級生同士。2人は「nouno」を結成する。
そんな凸凹コンビの農チャレンジが動き出した。
SECOND「マツダ株式会社」三谷和正さん
このプロジェクトが面白いのは、こんなフレッシュで無鉄砲なチャレンジャーとチームを組むのが、真面目なキャリアを歩んできた父親世代の技術者だということだ。三谷和正(みたに・かずまさ)さんはマツダで技術畑一筋35年、現在58歳になる人である。
若い2人に親子ほど年の離れたベテランが合流して、凸凹は「凸凹△」へと変化した。コミュニケーションツール・Slackを見ると、三谷さんは「読売新聞」ならぬ「押売新聞」と題して、プロジェクトに関連ありそうな情報をバンバン2人に送信。その様子は親子というより先生と生徒のようである。
ではこの3人が取り組む「Nozuchi」というプロジェクトは一体どんなものだろう?
AIカメラ搭載の自動草刈り機は
本当に完成するのか!?
そう、今回nounoが目指すプロジェクト「Nozuchi」は自動草刈り機の開発。AIカメラを搭載した除草用のレーザー照射装置を完成させることで不要な雑草を除去し、手間のかかる草刈り作業を軽減できないかというトライアルである。
しかし少し想像すればわかるようにこの開発、めちゃくちゃ難易度が高い。おまけにnounoの2人はエンジニアでもなんでもなく、「こんなのできたらいいな」と夢を見ているだけなのだ。一方の三谷さんはバリバリの技術者。さぞかし対応は大変だったのでは?
三谷さんの奔走によって地場企業を中心に、除草剤に詳しい「フマキラー」、農機具メーカー「やまびこ」、レーザーマーカー大手の「キーエンス」……等さまざまな企業を訪問。共同で実験を展開するが、その様子は傍から見るとまるでドタバタ劇!
トライアンドエラーというか、分量的にはエラーエラーエラーの連発。しかしエラーにへこたれないのが若さの特権というか、彼らは当初の目標を離れ、最終的に「未来の草刈りの在り方を考えるコンソーシアムを結成する」という新たな目標に辿り着く。
セコンドにはおんぶにだっこ
やっと地に足がついてきた!
紆余曲折の果てに落としどころを見つけた今回のプロジェクト。この親子のような、先生と生徒のような3人は何を想うのだろう?
さまざまな人生が交じり合いながら、大崎下島・久比地区というホットスポットで豊かな実りをつけるのだろうか?
●EDITOR'S VOICE 取材を終えて
まめな手形、島の寺子屋、nouno、Nozuchi……若干21歳で数多くプロジェクトを立ち上げる福島さんのアイデア力には驚かされるばかり。Nozuchi以外にnounoで企てた企画は以下の通りで――。
もう聞いてると頭がグルングルンしてくるが、とにかく壮大でメタバース……。すべてのブレイクスルーは夢想が原点。久比からの農レボリューション、七転八倒のトライアルを楽しみながら着々と進行しているようですぞ。
(Text by 清水浩司)