5G×スマートグラス×広島サイクリングツアー~sokoiko!【実装支援事業】
近年耳にすることの多い「5G」。通信量の飛躍的向上によって世の中のさまざまなサービスで変革が起こることが期待されている。そのトライアルは広島でも。コロナ禍で打撃を受けた観光業者がスマートグラスと5Gでアップデートを図る。
県主催の5Gを活用したビジネスコンペ
そこで採用されたリモート観光案
事のはじまりは2018年、広島県と株式会社NTTドコモは「5G等を活用したオープンイノベーションの推進に関する協定」を締結した。県は5Gに触れる場を積極的に提供することで、県内の企業や大学で新たな動きが起こることをサポートする姿勢を打ち出した。
それを受けて2021年、ドコモは「5G LOVE & PEACE Lab.」を開催。これはアイデアコンテストと実証プロジェクトの2本立てで、5G技術を使った新事業や新サービスの創出を具体的に後押ししようとするものだった。
そのアイデアコンテストでは2つのプロジェクトが選ばれ、実証実験が行われた。1つは「どこでもファンイベント ~5Gでつながる『人、街、スポーツ』~」と題された株式会社中国放送の提案。これはカープファン感謝デーに5Gを導入することで、オンライントークショーなどを実現するという内容だった。
そしてもう1つが今回の「ひろしまサイクリングガイドツアー sokoiko!×5G 体験型観光を変えていく~70億人と一緒に巡り、体験し、つながりあう広島~」である。
事業を担当した「株式会社NTTコミュニケーションズ」中国支社の富沢陽介(とみざわ・ようすけ)さんはsokoiko!についてそう語る(注:グループ再編に伴い富沢さんの所属は当時のドコモから現社に変更)。スマートグラスとは眼鏡型の「かける」タイプのウェアラブルデバイス。次世代のカギを握るアイテムを用いて構築されたリモート観光コンテンツ「ひろしまサイクリングガイドツアーsokoiko!」とは一体どのようなものなのだろう?
コロナ禍の中での模索
「体験もデリバリーできないか?」
サイクリングツアー・sokoiko!を運営するのは広島に拠点を置く「株式会社mint」。代表取締役の石飛聡司(いしとび・さとし)さんは2017年にこの事業を立ち上げた。
最初は外国人向けローカル自転車ツアーとしてスタート。そこから観光客へのリサーチを重ね、「やっぱり広島に来る人は平和に興味がある」ということでピースツアーを開始、「全体の物語性やガイドの情熱、語り口が重要」ということでストーリーツアーを構築。さまざまなブラッシュアップを行う中で利用者数は順調に伸びていった。
それがピークを迎えたのが2019年のラグビーワールドカップ日本大会。1ヶ月に200人以上もの申し込みが殺到。毎日15~16人の外国人観光客を引き連れ、200メートル近い自転車の列を作りながら街中を移動する。来年は東京オリンピック。これは大変なことになるぞと構えていた矢先……。
2020年2月以降、その流れはパッタリ途絶えた。コロナウィルスの世界的パンデミック。当然ながらsokoiko!の予約もすべて消し飛んでしまった。
石飛さんがはじめたのはリモート版sokoiko!だった。ガイドがスマホで風景を映しながら広島の街を案内。国内用にオンライン修学旅行も企画した。
いざ取り組んでみると、リモートにはリアルでは成しえない無限の可能性があった。あらかじめ動画を撮影しておいてリアルタイム映像と切り替えることで多様な景観を見せることができる。大人数では入れない広島電鉄の路面電車車庫の映像も見せることができる。さまざまな演出ができるのでエンターテインメント性も向上できる――そんなオンラインのポテンシャルに惹かれる中で石飛さんが注目したのが、5Gでありスマートグラスだった。
世界に届けるための2つの壁
距離の壁、言葉の壁を超える
石飛さんはこの案を「5G LOVE & PEACE Lab.」に応募し見事採用。2021年にはドコモと協力して、5G回線を使った多人数・世界同時参加の実証実験を行った。スマートグラスをかけたsokoiko!参加者の視界がネット上で共有され、視聴者は参加者と会話をしながらバーチャルで広島サイクリングを体験できるという仕組みだ。
そして2022年、両者はさらなる実装に挑戦する。
石飛さんのリクエストに、NTTコミュニケーションズ側はハード等の提供で応えた。
距離の壁を超え、言葉の壁を超えた先に待っていたのは、どこにいても広島の街をバーチャルに感じられる旅行体験だった。石飛さんは昨年秋に開催された5Gソリューション創出コンテスト「docomo 5G DX AWARDS® 2022」でウェアラブルデバイス特別賞を受賞。大きな注目を集めることになった。
広島は廃墟から復興した街
街を世界に発信する意味がある
リアルでの旅行客も戻りつつある昨今、石飛さんは「今後はハイブリッドでの展開を目指す」という。
石飛さんはこの事業を広島で行うことに意義があると感じている。
スマホ1台で「そこ行こ!」と言える社会へ――広島発の「sokoiko!」が世界中のトラベルLOVERの合言葉になる日が来るのかもしれない。
●EDITOR’S VOICE
コロナ禍によって大打撃を受けた観光業。特にラグビーワールドカップで盛況を迎え、「来年は東京オリンピックだ!」と盛り上がっていた最中で予約がゼロになったという話には痛ましいものがありました。
しかしそこからオンラインに活路を見い出し、むしろ以前よりコンテンツはパワーアップ。確かにそれは逆境を力に変えてきた広島の歴史と重なります。コロナ禍で街に掲げられた懸垂幕に書かれた言葉――
「広島は屈しない 決して屈しない!」
そのDNAは今も脈々と流れているのでした。
(Text by清水浩司)
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