![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/93991359/rectangle_large_type_2_1c3529b3312088a409e252fbc241e73b.jpeg?width=1200)
「旅のしおり」でホテリエをインフルエンサーに!【実装支援事業】
昨年の「ひろしまサンドボックス」で「株式会社 結.JAPAN」が開発した「旅のしおり」が作れるアプリ「nicody(ニコディ)」。当時は一般旅行客に向けたサービスだったが、事業化を目指す今年は宿泊事業者を対象とした「nicody business」に進化。アプリの実装に乗り出したのは、瀬戸内を中心に7つのホテルを展開する「株式会社サン・クレア」だった。
昨年は旅行アプリを開発
今年目指すのは収益化
昨年の「ひろしまサンドボックス」にエントリーした「株式会社 結.JAPAN」代表取締役の中山雅久理(なかやま・まくり)さん。旅行業界でビジネスを行う中山さんが取り組んだのは、ユーザーが簡単に旅行計画を作れるアプリ「nicody」の開発だった。
![](https://assets.st-note.com/img/1672205625257-qVUVKDrrwp.jpg?width=1200)
当初はグループで旅行情報を共有するためのアプリだったが、その過程で行った場所や宿泊ホテルが記録された「旅のしおり」が作成できるということに着目。それをウリにリリース1年弱で10万ダウンロードを達成した。
![](https://assets.st-note.com/img/1671861373068-8MxCHiNnQo.png?width=1200)
あれから1年――今回の実装支援で試すのはnicodyの収益化である。nicodyの新たな使い方をテストしようというのだ。
今回は宿泊事業者にとっての新たな販売チャネルとしてnicodyを試したいんです。現在の客室販売はOTA(=オンライン・トラベル・エージェント。ネット上で取引を行う旅行代理店のこと。国内では楽天トラベルとじゃらんが2大巨頭)の価格比較が主流だけど、ホテリエがnicodyで作った旅プラン=旅のしおりによって予約が獲得できるようになれば、より顧客の旅行体験に寄り添うことができるんじゃないかと思ったんです
これまで旅行者が使うことを想定していたnicodyを、ホテル側に委ねるということ。地元に詳しいホテルスタッフがオススメコースを組んだ「旅のしおり」を作り、それを見て気に入った人がホテルを予約するようになれば、ホテルは個性をアピールできるし、ホテルスタッフの士気も上がる。さらに獲得予約数を従業員の評価やインセンティブに連結させれば、ホテリエの仕事意識を集客という面にまで拡大できる――そんなふうに思ったのだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1671859920467-S9BFzLruJ7.png?width=1200)
瀬戸内をベースにホテルを展開
旅の理想形「ANCHORING」とは?
そのnicodyをアップデートしたnicody businessの実装に名乗りを上げたのは、福山に本社を置く「株式会社サン・クレア」。
![](https://assets.st-note.com/img/1671861848117-8wr4Rj03pR.png?width=1200)
私たちは瀬戸内を中心に7つのホテルを運営していて、広島県内ではNAGI、LAZULI、AHCHORといったブランドを持ってます。中山さんとは県の方の紹介で会ったんですけど、ちょうど20歳違いで「元気のいい若者が出てきたな!」と思いましたね(笑)。真摯に観光業に向き合い、新しい旅の可能性を私たち事業者と一緒に作り出そうとしてるところに惹かれました
![](https://assets.st-note.com/img/1672205639556-7UzZTamgUT.jpg?width=1200)
代表取締役の細羽雅之(ほそば・まさゆき)さんはnicodyのことを知ったとき「これはきたな!」と感じるものがあったという。
私たちが掲げる旅のコンセプトに「ANCHORING」というのがあるんです。これは旅行者が見知らぬ土地を訪れたとき、ただ名産を食べて寝て終わりではなく、心に錨を降ろすように土地の文化や人々の営みに触れてほしいということ。そのANCHORINGを表現するのに既存のOTAのプラットフォームでは難しくて、自社サイトでやるにも限定される。そんな中で「旅のしおり」はまったく新しいアプローチだし、私たちが提供したいサービスを見える化してくれるものだと感じたんです
同社の広報担当・東真貴(あずま・まき)さんもnicodyの可能性に魅了された。
![](https://assets.st-note.com/img/1672205652150-ozNs818Vtr.jpg?width=1200)
ANCHORINGって頭ではわかっていても、「どこがオススメですか?」って聞かれたらつい無難なスポットを勧めがちで……。でも本来はお客様に一個人として関われること、人と人としてお話できることはホテリエとして一番のやりがいで、nicodyはそのきっかけになれると思ったんです。実際自分でプランを作ってみるのも面白くて、改めて「私はこの街のどこを旅行者に勧めたいのか?」って考える機会になりましたね
ホテルスタッフが独自の視点で
旅のプラン=しおりを作成
ということで、まずは(株)サン・クレアがnicody businessを導入。東さんは実際にnicodyを作って旅のプランを作成し、それをアプリ上に公開してみた。
福山のANCHOR HOTELに泊まるという前提で2つのプランを作りました。1つは「きほんの鞆の浦観光」という王道プラン。もう1つは尖ったものを提示したくて、福山駅まわりのコーヒー店を巡る「コーヒーとレコードと古本と。」。ここには喫茶店巡りの途中に三木眼科医院っていう、地元の人しか知らない写真映えスポットを入れたりしてます(笑)。nicodyはスポットからスポットまでの所要時間が表示されるので行程も組みやすかったです
![](https://assets.st-note.com/img/1671860757114-D9xcarZ2HO.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1671860768810-gNQFmuBY4X.png?width=1200)
今回の実装実験ではホテルのスタッフやインフルエンサーの方々にしおりを作ってもらいました。アップしたプランは6つ以上。それによって予約が大量に入ったわけではないけど、幾人かは予約まで辿り着いて。今は予約まで進んだ方にアンケートして、予約獲得にはどんな情報が必要かリサーチしているところです
新たな集客のプラットフォームとしての可能性を探りつつ、経営者としては従業員の意識改革も期待する。
これって働き方改革に関わるものだと思うんです。nicodyを使うことでお客様と突っ込んだコミュニケーションができるようになる。そのことで業務量は増えるけど、それを負担に思うかやりがいと捉えるかはその人次第。ルーティンワークに釘付けにしてしまうとクリエイティビティは生まれませんからね。個人的にはホテリエにとって、自分に会うためにお客様が再訪してくれることはどんな対価にも勝るインセンティブだと思うんです。nicodyはそれが得られるツールになりうるんです
たとえばnicodyを使えば、福山のANCHOR HOTELから瀬戸田SOILまでの旅を組むこともできる。本音を言えばウチに連泊してもらうのが一番だけど、お互いnicodyをやってるからこその横のつながりが表現できればホテルで働く楽しみも増えるし、それによってエリアごと持ち上げることも可能だと思います
中山さんの現状の目標は、nicodyを既存のOTAに代わるくらい集客ができるシステムに育て上げること。そのためにリアルとの連携やnicodyらしい特典なども考えながら実験を続けていく。
僕たちが目指すのは宿泊施設とゲストとの密なつながりをどう作るか。旅行者の満足度を上げていくことを、ひたむきに粛々とやっていくしかありませんからね
UberやAirbnbなどマッチング全盛
旅のスタイルもアップデート!
私自身、23年間ホテル業界にいますけど、最初の頃は利用者は本屋でホテルガイドブックを買って、それを見て電話予約を入れるのが普通だったんです。それがやがて旅行代理店を通すのが主流になり、2000年のインターネット革命以降はOTAに変わった。でも今はUberやAirbnbといったマッチングの時代。欧州型旅行スタイルやインバウンドと相性のいいnicodyが若い世代を中心に定着すれば、また破壊的イノベーションが起こると思うんです
業界のトレンドをつぶさに見てきた細羽さんにとって、nicodyの登場は新たな時代の幕開けを感じさせるもののようだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1672205667338-Xo5JVorik0.jpg?width=1200)
最後、3人の口から出たのは旅に対する強い情熱。まだ見ぬ土地を目指すという旅に惹かれた人たちは、冒険やチャレンジの要素も強いスタートアップとも相性がいい――いわゆる、ここではないどこかへ。ここに集まった彼らは皆、日常にプラスサムシングを求める「旅の仲間」かもしれない。
今回の取り組みは広島県のサポートがあったからできたこと。既存のプラットフォームを使っていても特段問題はないのに、新たな実験ができているのは旅行業界としても意義があると思うんです。今回イノベーションの実装に取り組みながら、自分の中で旅行業界に対する使命感や責任感が増していくのを感じました
宿泊業は型が決まってるところがあるし、基本的にはお客様待ち受け型の職業。でも今回はその概念が崩れたというか、ホテリエ自らお客様を呼び込むという案が提示された。この仕事にもやり方はいろいろあるということを改めて感じました
コロナ中に「人はなぜ旅をするのか?」って考えたんですけど、結局旅の持つ価値って、普段会わない人に会うことでこれまで気付かなかった自分に気付いたり、人生観が変わること。そう考えると、分刻みでスケジュールをこなすだけの旅じゃもったいないんです。旅をアップデートする過程では新しいプラットフォームが必要になるもの。これからも一緒に旅のスタイルをアップデートしていければと思います!
![](https://assets.st-note.com/img/1671862756259-C0gwgG6mAa.png?width=1200)
●EDITOR’S VOICE
筆者も旅が好きなので、みなさんのトークを聞いて燃えました。旅って旅すること自体も楽しいけど、誰かの旅の話を聞くのも楽しいんです。それはリアルなアクションだから。机上の空論と違う実体験で、そこには出会いやアクシデントや発見や好奇心といったワクワクの物語が必ずあるから。
今回の3人の話も、ちょっと旅の話に近いかもしれません。出会って、一緒に行動して、新しい気付きがある。別々の場所にいた人同士が交わり、嬉しい成長がある。人生が旅のようなものだとしたら、ここはひとつの交差点? 「ひろしまサンドボックス」ってドミトリーみたいなもの? いやぁ、やっぱ旅、行きたいっすね!
(Text by 清水浩司)