汚れが見える「微生物蛍光ライト」の使い道【RING HIROSHIMA】
新たな時代の発明品というのは、考えてみればドラえもんのひみつ道具みたいである。「そんなことできちゃうの?」ということがホントにできちゃう夢のアイテム。今回の挑戦者が開発した機器も画期的すぎて、ドラちゃんがポケットから取り出しそうな雰囲気がある。まるで未来から届いたようなその道具とは――
「(水田わさびさんの声で)びせいぶつけいこうライト~~~」
その中身たるやいかに?
CHALLENGER「歯っぴー株式会社」小山昭則さん
今回の挑戦者は「歯っぴー株式会社」の小山昭則(おやま・あきのり)さん。「歯っぴー?」「HAPPY?」と気になる名前だが、それはさておき小山さんの掲げたプロジェクトは「安全安心な飲食を提供するための衛生状態の可視化」。これはどういう内容だろう?
発明のベースになるのは「蛍光イメージング」。見えないものに蛍光色の目印をつけ、マーキングすることのできる技術である。小山さんは前職のソニー時代、オリンパスとの内視鏡開発に従事。そこで悪性細胞を可視化するために蛍光イメージング技術を活用していた。がん切除手術の際、転移したがん細胞を見逃さないよう染色していたのだ。
それがどうして独立することになるのか?――というのは長い話になる。転機になったのは2016年に起きた熊本地震だった。
故郷で体験した死と隣り合わせの事故。その後のボランティア活動で閃いた「口腔ケアに蛍光イメージング技術が活かせるかも」というアイデア。ちょうど会社でプロジェクトの区切りを迎えたこともあり、小山さんは独立を決意する。震災翌年にソニー退社。翌2018年「歯っぴー株式会社」を設立。
蛍光イメージングを用いた「歯垢・歯石検査用ライト」は最初介護施設で使用された。それを見た日本小動物歯科研究会の方から「動物医療にも使いたい」と言われ動物向けのものも開発。2022年には一般小売価格1,100円(税別)の簡易用ライトも発売……口腔ケア方面は順調に発展を遂げていった。
しかし今回のRINGへの挑戦課題は「歯」ではない。この蛍光イメージング技術を横展開して、新たな分野で活用できないかというのである。
口腔ケアだけでなく、食品衛生の分野での蛍光イメージングの活用を追及する。今回は前回の実験をさらに推し進め、ひとつの工場だけでなく、学校給食という普遍的な現場で有効性を確認したいというのがプロジェクトの主眼となる。
SECOND①「一般社団法人日本ITストラテジスト協会」山本泰さん
そんな小山さんをサポートするのは2人のセコンド。両者とも前回から名を連ねる実力派である。
まず1人目は山本泰(やまもと・やすし)さん。今回セコンドに就任して何を感じたのだろう?
ちなみに前回セコンドで参加した上の「XR Therapy」も先日『日経トレンディ』に紹介されるなどさらに注目を集めているという。
SECOND②「株式会社ふくおかフィナンシャルグループ」島本栄光さん
チャレンジャーの技術力と完成度に関しては、もう1人のセコンドである島本栄光(しまもと・さかみつ)さんも太鼓判を押す。
面白いのがこの2人、セコンド経験者という共通項だけでなく、実は10年来の知り合いであるという点だ。
セコンド同士が旧知の仲で、そこにチャレンジャーが入ってくるというのは新たなパターンだ。はたしてこの組み合わせ、どういう展開を見せるのだろう?
難航する提携先の捜索
それに動じない挑戦者の胆力
広島県のプロジェクト=RING HIROSHIMAに選ばれたことで、県の教育委員会から各市町村の教育委員会に連絡してもらい、各地の給食センターで実証実験を行う――小山さんが当初思い描いていたのはこうしたプランだった。しかしそこに見えない壁が立ちはだかった。
現地・広島で提携先を探した山本さんはプロジェクト開始以降の苦労をそう話す。ひとまず開始から3ヶ月、安芸高田市の教育委員会と接点は持てた。ちょうど先日、同市給食センターの業務委託先である「広島アグリフードサービス株式会社」で実証実験も行われた。
幸いなのは決して芳しいとは言えない状況にもかかわらず、挑戦者の表情が暗くないところだ。
目の前の成果に一喜一憂することなく、ひたすら自己の成長を目指す。蛍光イメージング技術への絶対的な自信が、小山さんに大局的な観点を与えているのだろう。
中間報告会でスタートダッシュ賞!
戸惑いながらも黙々と前進する
そんなもがきの時期をすごしている「微生物蛍光ライト」プロジェクトだが、先ごろ驚きのニュースが飛び込んできた。
10月にRING HIROSHIMA内部で開催された中間報告会で、見事「スタートダッシュ賞」に輝いたのだ。つまり今年度のRING HIROSHIMAに参加した20社の中で現状1位の評価を得たのである。
感想はそれぞれだが、それでもRINGは続いていく。
SHOW MUST GO ONであるように、ビジネスも止まることは許されない。どんなトラブルがあろうと黙々と、淡々と、着々と、プロジェクトは進んでいく。小山さんの視線は遠くを向いて、まったくブレる様子がないのだった。
●EDITORS VOICE 取材を終えて
ライトを向ければブラックライトを当てられたように汚れている箇所が浮かび上がる――この技術、すごくないですか? これもう実用化されてるんですよ? これが普通に千円程度で買えてしまうんですからね。やっぱりこれを見せられると「もうできてるじゃん」って思うし、それがスタートダッシュ賞に結びついたんでしょう。
でもジャンルの異なる食品衛生に乗り出した今回は苦戦の連続。そんな中でもまったく動揺する様子のないチャレンジャーの姿が印象的でした。挫けもしないし、焦ることもない。すべてを自分の成長と捉える、その思考法が小山さんの歩みの確かさを支えていると感じました。
(Text by 清水浩司)
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