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汚れが見える「微生物蛍光ライト」の使い道【RING HIROSHIMA】

新たな時代の発明品というのは、考えてみればドラえもんのひみつ道具みたいである。「そんなことできちゃうの?」ということがホントにできちゃう夢のアイテム。今回の挑戦者が開発した機器も画期的すぎて、ドラちゃんがポケットから取り出しそうな雰囲気がある。まるで未来から届いたようなその道具とは――

「(水田わさびさんの声で)びせいぶつけいこうライト~~~

その中身たるやいかに?

CHALLENGER「歯っぴー株式会社」小山昭則さん

今回の挑戦者は「歯っぴー株式会社」の小山昭則(おやま・あきのり)さん。「歯っぴー?」「HAPPY?」と気になる名前だが、それはさておき小山さんの掲げたプロジェクトは「安全安心な飲食を提供するための衛生状態の可視化」。これはどういう内容だろう?

今回の挑戦はまったくゼロから作っていくものではなくて、ある程度できている技術をブラッシュアップして広げていくものです。「蛍光イメージング」という特定の物質を蛍光色素で光らせる技術があって。それを使えば目に見えない汚染を可視化することができるんです。どこを掃除したらいいかハッキリさせることによって飲食店の衛生管理を向上させ、食中毒などの問題が出ない安心安全なお店を増やすというのが今回の目的です

歯っぴー(株) 小山さん

発明のベースになるのは「蛍光イメージング」。見えないものに蛍光色の目印をつけ、マーキングすることのできる技術である。小山さんは前職のソニー時代、オリンパスとの内視鏡開発に従事。そこで悪性細胞を可視化するために蛍光イメージング技術を活用していた。がん切除手術の際、転移したがん細胞を見逃さないよう染色していたのだ。

それがどうして独立することになるのか?――というのは長い話になる。転機になったのは2016年に起きた熊本地震だった。

私の故郷は熊本なんですけど、ひさしぶりに帰郷しようとした際に熊本地震に遭遇して。電車で向かってるとき本震が起きて、乗ってた電車が脱線したんです。幸いケガはなくて、まさに九死に一生を得たという感じだったんですけど、なんとか辿り着いたら実家は完全に崩壊……。

私は会社を休職してボランティア活動をすることにしました。そこでは介護施設に派遣され、被災者の口腔ケアに関わりました。でもそれまで人の口なんか触ったことないし、それなのに指サックをして高齢者の方の歯を磨いてあげる作業をすることになったんです。当然素人だからうまくできなくて、一方でお医者さんはきれいに磨けるんだけど、それはあくまで感覚でやってる感じで。そのときふと、ここに蛍光イメージングが活かせるんじゃないかと感じたんです

歯っぴー(株) 小山さん

 故郷で体験した死と隣り合わせの事故。その後のボランティア活動で閃いた「口腔ケアに蛍光イメージング技術が活かせるかも」というアイデア。ちょうど会社でプロジェクトの区切りを迎えたこともあり、小山さんは独立を決意する。震災翌年にソニー退社。翌2018年「歯っぴー株式会社」を設立。

蛍光イメージングを用いた「歯垢・歯石検査用ライト」は最初介護施設で使用された。それを見た日本小動物歯科研究会の方から「動物医療にも使いたい」と言われ動物向けのものも開発。2022年には一般小売価格1,100円(税別)の簡易用ライトも発売……口腔ケア方面は順調に発展を遂げていった。

簡易用のDental Light。子どもの磨き残しチェックなどに便利

しかし今回のRINGへの挑戦課題は「歯」ではない。この蛍光イメージング技術を横展開して、新たな分野で活用できないかというのである。

「この技術を食品衛生に使えないか?」と声をかけてもらい、広島オープンアクセラレーターで縁を持った広島の企業と実証実験を行ったんです。現状、食品工場の衛生検査は綿棒で微生物を採取する「ふき取り検査」が主流だけど、これは効果性が薄いんです。ライトを使って汚れている箇所を可視化できれば、より衛生環境の向上が図れると考えました

歯っぴー(株) 小山さん

口腔ケアだけでなく、食品衛生の分野での蛍光イメージングの活用を追及する。今回は前回の実験をさらに推し進め、ひとつの工場だけでなく、学校給食という普遍的な現場で有効性を確認したいというのがプロジェクトの主眼となる。

SECOND①「一般社団法人日本ITストラテジスト協会」山本泰さん

そんな小山さんをサポートするのは2人のセコンド。両者とも前回から名を連ねる実力派である。

まず1人目は山本泰(やまもと・やすし)さん。今回セコンドに就任して何を感じたのだろう?

前回のRING HIROSHIMAでは、想いは強いけど、まだプロダクトは開発中という段階で。それに比べれば今回はもう製品は完成した状態で、それを横展開できないかというチャレンジ。すでに実践で使われたことがあるというのも大きな強みだし、可能性は高いと感じました

(一社)日本ITストラテジスト協会 山本さん

ちなみに前回セコンドで参加した上の「XR Therapy」も先日『日経トレンディ』に紹介されるなどさらに注目を集めているという。

SECOND②「株式会社ふくおかフィナンシャルグループ」島本栄光さん

チャレンジャーの技術力と完成度に関しては、もう1人のセコンドである島本栄光(しまもと・さかみつ)さんも太鼓判を押す。

僕も山本さんと同じように、技術的には成り立っていると感じました。今回は食品衛生という方面での実証実験だけど、この技術を活用できる場面は無限にある。可能性が無限大なぶん焦点を絞りにくいのがこの活動の盲点であり、難しい部分かもしれないと思います

(株)ふくおかフィナンシャルグループ 島本さん

面白いのがこの2人、セコンド経験者という共通項だけでなく、実は10年来の知り合いであるという点だ。

実は僕も「日本ITストラテジスト協会」に入ってて、山本さんは先輩なんです。知り合ったのは10年くらい前で、今回「山本さんがいるなら百人力だ」と思って(笑)。私は福岡在住なので広島でのサポートはできないけど、山本さんは広島でネットワークをお持ちだし実績もおありなので、その部分はお任せしようと思いました。僕は小山さんが迷ったとき、決断の後押しをする存在でいよう、と

(株)ふくおかフィナンシャルグループ 島本さん

お2人がつながってるとは聞いてたけど10年も前からとは。初めて知ってビックリしました(笑)

歯っぴー(株) 小山さん

セコンド同士が旧知の仲で、そこにチャレンジャーが入ってくるというのは新たなパターンだ。はたしてこの組み合わせ、どういう展開を見せるのだろう?

難航する提携先の捜索
それに動じない挑戦者の胆力

広島県のプロジェクト=RING HIROSHIMAに選ばれたことで、県の教育委員会から各市町村の教育委員会に連絡してもらい、各地の給食センターで実証実験を行う――小山さんが当初思い描いていたのはこうしたプランだった。しかしそこに見えない壁が立ちはだかった。

調べてみると学校給食は各市町村がそれぞれ運営していて、県からのネットワークで横展開できるものじゃなかったんです。それで改めてイチから市町村に問い合わせることになって。今は学校に給食室があるところはほとんどなく、給食センターがメインで、そこに調理済み食材を提供してる工場などにも実験の依頼を出してる状態です。あと、そういう工場は衛生管理が厳しくて、中に入るには検便を採ったり細かい検査が必要で……学校給食のハードルは想像以上に高かったのは予想外でした

(一社)日本ITストラテジスト協会 山本さん

現地・広島で提携先を探した山本さんはプロジェクト開始以降の苦労をそう話す。ひとまず開始から3ヶ月、安芸高田市の教育委員会と接点は持てた。ちょうど先日、同市給食センターの業務委託先である「広島アグリフードサービス株式会社」で実証実験も行われた。

ここまでもがいてますけど、ひとつ突破口が見えてきたので、まずそこに視点を置いてます。期間中になんらかのフィードバックは必ず得て、学校給食の可能性を追求していきます

歯っぴー(株) 小山さん

幸いなのは決して芳しいとは言えない状況にもかかわらず、挑戦者の表情が暗くないところだ。

県と市町村の教育委員会がつながってないことがわかっただけでも得たものはあると思ってます。もちろん今回の実証実験がうまくいくことを願ってるけど、僕としてはたとえそうならなくてもそれはそれでいいと思ってて。山本さん、島本さんはこれまで関わってきた人とは違う視点を持ってて、ブレーンとしていてくれることで得られるものがすごくあるんです。目の前の事象がうまくいくより、大事なのはここで何を得るか。RING HIROSHIMAが自分の幅を広げる成長の機会になればいいと思いますね

歯っぴー(株) 小山さん

目の前の成果に一喜一憂することなく、ひたすら自己の成長を目指す。蛍光イメージング技術への絶対的な自信が、小山さんに大局的な観点を与えているのだろう。

中間報告会でスタートダッシュ賞!
戸惑いながらも黙々と前進する

そんなもがきの時期をすごしている「微生物蛍光ライト」プロジェクトだが、先ごろ驚きのニュースが飛び込んできた。

10月にRING HIROSHIMA内部で開催された中間報告会で、見事「スタートダッシュ賞」に輝いたのだ。つまり今年度のRING HIROSHIMAに参加した20社の中で現状1位の評価を得たのである。

中間報告会でスタートダッシュ賞を受賞!

正直驚きました。僕でいいのかな?って。おそらく報告会の直前に呉市で口腔衛生のイベントをして、そこに100人近く来てくれたから進んでいると感じてもらえたのかも。でも今回のお題は食品衛生なんですけどね(笑)。あとは……プレゼンの時間を厳守したから?(笑) 予定時間をオーバーしなかったこと以外、そんな秀でてるところはなかったと思うけど……

歯っぴー(株) 小山さん
口腔ケア相談で歯垢検査ライトを使用

盛り上がるというか戸惑うというか……まあ、こっちは実績のある技術をどう展開するかですから。他は「これから作ります!」ってものが多かったし……

(一社)日本ITストラテジスト協会 山本さん

そんな賞があること自体知らなかったので「え?」みたいな(笑)。ただ相互投票でRINGに関わる人が一番と思ってくれたのは誇らしいことだと思います

(株)ふくおかフィナンシャルグループ 島本さん

 感想はそれぞれだが、それでもRINGは続いていく。

RING HIROSHIMAという実証期間のゴールをどう捉えるかですよね。完全な導入を目指すのか、あくまで今年はテストとして使って、来年以降に大規模な実証実験をする流れを作るのか――

歯っぴー(株) 小山さん

SHOW MUST GO ONであるように、ビジネスも止まることは許されない。どんなトラブルがあろうと黙々と、淡々と、着々と、プロジェクトは進んでいく。小山さんの視線は遠くを向いて、まったくブレる様子がないのだった。

●EDITORS VOICE 取材を終えて

ライトを向ければブラックライトを当てられたように汚れている箇所が浮かび上がる――この技術、すごくないですか? これもう実用化されてるんですよ? これが普通に千円程度で買えてしまうんですからね。やっぱりこれを見せられると「もうできてるじゃん」って思うし、それがスタートダッシュ賞に結びついたんでしょう。

でもジャンルの異なる食品衛生に乗り出した今回は苦戦の連続。そんな中でもまったく動揺する様子のないチャレンジャーの姿が印象的でした。挫けもしないし、焦ることもない。すべてを自分の成長と捉える、その思考法が小山さんの歩みの確かさを支えていると感じました。

 (Text by 清水浩司)

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