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広島を「ヘルシストエリア」に!~フレスタ×シルタス【実装支援事業】

多くの人が気になる健康の問題。買い物をするだけで健康になれる栄養管理アプリ「SIRU+(シルタス)」を広島の大手スーパー「フレスタ」が導入した。同じ志を持つ者同士の、広島を「ヘルシストエリア」に変える実験がはじまった。

買い物によって健康状態を診断し
買い物によって健康状態を改善

 「シルタス株式会社」は2016年創業のスタートアップ。ユーザーの買い物データに基づいて栄養状況を分析し、その人に足りない栄養素や食品等を提案してくれるアプリ「SIRU+」の運営を行っている。

 SIRU+はその人の買い物情報から栄養管理ができるサービスです。今は多くの人が健康に関心を持ってますが、商品が多すぎて何を選べば自分の健康にいいかわかりにくくなっています。自分の感覚で買い物をしてたけど、実はまったくカルシウムを摂れていなかったり。かといってそれを知るには毎日買い物記録を付けなければならず、それも面倒です。しかしスーパーマーケットの発行しているポイントカードにはその人の買い物履歴が全部詰まっています。このデータと連動すればその人の買い物情報がわかり、そこから栄養状態が導き出せるんです

シルタス(株) 小原さん

シルタスを起業した代表取締役社長・小原一樹(おはら・かずき)さんは食べることが大好き。お酒も大好き。「……だけどこの生活を続けてても大丈夫かな?」という不安からアプリの開発を思い付いた。

SIRU+の特徴は「がんばらないで健康を目指す」ということ。日々の食事の記録なんてしなくていい。キツい運動もしなくていい。ただ買い物データによって現在の栄養状況が見える化される。さらに「ダイエット」「美肌」「疲労回復」「筋肉をつける」といった項目を指定すれば、「この食材を摂った方がいいですよ」「この商品を買った方がいいよ」とアドバイスをくれる。つまり買い物によって健康状態を診断し、買い物によって健康状態を改善する――そんなズボラシステムを採用しているのだ。

アプリ「SIRU+」の画面。自分に足りない食材を教えてくれる

ただ、消費者が自分の買い物情報を把握できたら健康になれるかといえば、そうではないと思ってて。そこにはスーパーに置いてある商品の品揃えやレコメンドなど、売り手側の最適化も求められます。つまり顧客のインサイトを知ることで、供給側も顧客のニーズに対応できるようになる。さらに「この取り組みをしていけば地域は絶対健康的な町になる」と思うので、自治体さんを巻き込みたい。そんなとき広島県がやってる「ひろしまサンドボックス」を見て、応募したんです

シルタス(株) 小原さん

消費者(個人)の買い物情報を分析することで売り手側(企業)のサービスの変容をうながし、地域(自治体)の健康状況を促進する――そうした展望を持ってD-EGGSプロジェクトに参加した小原さんが協業相手に指名したのは、広島人ならおなじみのスーパーマーケット「フレスタ」だった。

ヘルシストスーパーを目指す
フレスタと組みたい!

「株式会社フレスタ」は明治20年創業。スーパー「ムネカネ」として長く親しまれ、現在は広島を中心に全62店舗を展開している。

広島人にはおなじみのフレスタ。「おいしい顔のマーク」が目印

小原さんはD-EGGSに選ばれたときから、「フレスタと一緒にやりたい!」と心に決めていたという。

いろんなスーパーがありますけど、フレスタさんは会社の理念として「最上級の健康提案企業(ヘルシストスーパー)」になりたい、と言っておられるんです。その志はまさしく僕たちと一緒だし、「広島でやるなら絶対フレスタさん!」と思ってあらゆる手段を使ってお願いしました(笑)

シルタス(株) 小原さん

フレスタ営業本部マーケティングチームの山城浩壮(やましろ・こうそう)さんもシルタスとの共通項に心を動かされた。

私たちも志が同じだと感じました。私たちはヘルシストスーパーというコンセプトを掲げ、「フレスタのある街は健康になる」ということを目標にして9年が経ちます。SIRU+は個人でカスタマイズできるところが魅力というか。現在は健康と一口に言っても子供のアレルギーが気になる人もいればダイエットが気になる人もいる。みんな気になる箇所が違う中、自分の気になる要素を重点的にチェックできるのは今の時代にマッチしてると思います

(株)フレスタ 山城さん

2021年7月、フレスタのポイントカードである「スマイルカード」をSIRU+と連動。両者は協力して消費者&地域の「ヘルシスト化」に邁進していくことになる。

SIRU+とフレスタのスマイルカードを連動させた

ただ、やっていく中で多くの課題も見つかった。

たとえば「すべてのお客様がフレスタで買い物していただければ、より正確に健康管理できるのですが……」(山城さん)というように、日々の食生活は基本的に一店舗だけに依存していない。

また、「妻の買い物データは私の方に反映されないんです。私が買ったものだけで見ると圧倒的にジャンキーで(笑)」(山城さん)、「そう、ちょっと高いビールを買ったときとか奥さんには内緒にしときたいですよね(笑)」(小原さん)というように家族の買い物プライバシー問題もある――。

家族の問題に関しては1つのスーパーあたりカードを3枚まで登録できるようにしました。一店舗での限界に関しては、基本的に人々の食生活を100%把握するのは無理だと思ってます。もちろん連携スーパーを増やす努力はしますが、世の中には自分の庭で野菜を育ててる人もいるし、魚を釣ってくる人もいる。どうしたって100%は無理ですけど、でも100%把握できないからといって栄養管理ができないわけではありません。ある程度の買い物傾向がわかればAIを使って全体の予測も可能です。足りない部分については技術で解決するためのアルゴリズムを磨いています

シルタス(株) 小原さん

課題はむしろ性能向上のための貴重なヒント。その心意気でブラッシュアップを続けた結果、SIRU+はD-EGGSを通して700人弱の新規登録者を獲得することができた。

D-EGGS時のビジネスモデル

使っていただいた方にアンケートを取ったんですけど、SIRU+を入れたことで自分の健康意識が変わったという方が7割近くいらっしゃいました。健康意識の亢進に寄与できているという結果が出たのは嬉しかったです

シルタス(株) 向井さん

シルタスの担当・向井良和(むかい・よしかず)さんも報告するように半年近い実証実験では課題と成果、両方が確認できたのだった。


協業2年目の実装実験は
食品メーカーを巻き込む

シルタス&フレスタのコンビはD-EGGSを経て、2022年度は「実装支援事業」にエントリーした。

私たちとしてはすぐに結果が出るとも思ってませんし、経営陣も「実装してダメだったらやめる」というスタンスではないと思います。シルタスさんとは見ている未来が一緒だと思うので、引き続きやり続けていくという気持ちです

(株)フレスタ 山城さん

ただ、去年と違う点は2つあって。まずはフレスタさん以外のスーパーも巻き込もうとしてるところ。もうひとつはお客様の行動変容のため食品メーカーと手を組んだことです。たとえばSIRU+で提案する「これ買った方がいいですよ」という商品は、普段お客さんがあまり手に取らない商品であることが多いんです。なぜならその人がこれまで手に取ってなかったから、その栄養素が不足してるわけで(笑)。でも普段手に取らない商品を買うのはハードルが高いですよね? なのでお客様が最初の一歩を踏み出しやすいよう、食品メーカーに協力してもらって、その商品を無料で配布することを試みました

シルタス(株) 小原さん

確かにその商品を避けていたから栄養素が不足しているわけで、避けていた商品を買うというのはハードルが高い。今回の実装実験では、食物繊維の足りない人に「ファイブミニ」(大塚製薬)、タンパク質の足りない人には「TANPACT」(明治)、ビタミンの足りない方には「PERFECT VITAMIN 1日分のビタミンゼリー」(ハウスウェルネスフーズ)などを配布し、サンプルをもらった顧客がその後も引き続き購入するか行動パターンを調査した。

不足している栄養素を含む商品を無料配布する実験を行った

ただ、こうした調査を受けて、顧客と直接触れ合うフレスタ側はシビアな現状も認識している。

健康って難しくて……やっぱり「わかっちゃいるけどできない」っていう人がほとんどなんです。できることなら健康でいたいと思いながらハンバーガーを食べちゃうのが人というもの。我々は商売人なので、それに対してポイントを付けるとかやりがちだけど、あまりに商売っ気が見えちゃうとお客さんも引いてしまう……一体どうやったらSIRU+をダウンロードしてくれるのか、そのお客様のスイッチがどこにあるかはまだ探っているところです

(株)フレスタ 山城さん
フレスタHPに掲載されたバナー。どうすればアプリDLに至るのか?

状況はシビアだが、決して諦めているわけではない。対消費者、対小売店、いかに健康を前面に打ち出しアクセルを踏むか、今も模索を続けている。

他のスーパーへの普及に関しても、どこか1社が成功すれば「うちも!」「うちも!」となるはずなんです。こちらが先頭を走って「だけどあんまりうまくいってないよね」となると周りもついてこないわけで、なにかしらの結果を出さないといけないんだろうなとは思います。それには「健康意識が高い人は客単価も高い」となるのが一番キレイなんでしょうけど

(株)フレスタ 山城さん

「地域を健康にする」という理念と目の前の売上の相克。実装の結果見えてきたのは、その舵取りの難しさだった。
 

将来的にはSIRU+を
社会インフラにしたい

 それでも両社は理想を崩そうとしない。

健康って基本自己責任ですけど、これだけやりづらいものを自己責任に押し付けてしまうのもどうかと思うんです。それよりも地域や企業がちゃんと支え、その先に医療費の削減が行われて国全体の利益となる――そうした意味でこの流れをもっと大きなものにしたいんです。僕は最終的にSIRU+をインフラにしたいと思ってて。まずは広島でモデルを成功させ、それを他の県が真似していく、そうしたことを目指していきたいと思ってます

シルタス(株) 小原さん

健康って目に見えないところが一番難しいんです。「やらなきゃいけない」と分かっていながら、お客様が分かるのは使ったお金が財布から消えていくという目に見える現実だけ。それでも私たちは常に「地域のお客様の健康寿命をいかに伸ばせるか」を考えてます。今後も「フレスタのある街は健康になる」ということをSIRU+さんと組んでブランディングしていきますし、それは今日明日でできるものではないと思ってます

(株)フレスタ 山城さん
山城浩壮さん(上)、小原一樹さん(左下)、向井良和さん(右下)

熾烈な価格競争が繰り広げられている小売業界で、「健康」という旗印を掲げて勝ち抜くこと。フレスタとシルタスの連合軍は深い結束を保ちながら、広島の地で遠い未来を見つめている。


●EDITOR’S VOICE

筆者の家の近所にもフレスタがあり、よく通っているのですが、そのフレスタがこんな最先端の取り組みをしていることには驚きました。そして理想だけでは片付けられない、消費の現場のシビアな現実も……。

小原さんは「最終的にはスーパーマーケットの役割を、物を買うだけの場所から自分たちの健康状態を把握する場所、それを改善していく場所に変えたい」と話していました。食品メーカーや自治体も巻き込んで壮大なゲームチェンジを目論むこの動き、普段の買い物から注目していきたいと思います。

(Text by清水浩司)

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