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医療機器の“分からない”をなくしたい! 臨床視点の使い方動画を制作【RING HIROSHIMA】

コロナ禍で耳にする機会が増えた「人工呼吸器」。これが人の生命維持に関わる医療機器だということは、もちろん知っている。でもそれが、「実は国内だけで40種類以上もある」と聞くとどうだろう。

「え、そんなに多いの…?」

そう感じる人がきっと多いはず。しかも医療現場には人工呼吸器以外の機器も多数あるため、全ての仕組みや使い方を理解するのは大変だろうということは容易に想像がつきます。そんな医療現場の現状と向き合い、「今まで以上に医療従事者が安全に機器を使うことができるように」と立ち上がったのが、今回のチャレンジャー。


CHALLENGER
『株式会社Kiwi(キウイ)』大石 杏衣さん

病院の規模や教育体制に関わらず
医療機器について学べるシステムをつくりたい

臨床工学技士として、約13年間臨床での実務経験を積んだ大石さん。そもそも、臨床工学技士とはどんな職種なのだろうか。

患者さんの生命維持に関わる医療機器の操作が主な仕事で、病院の手術室や透析室で働くことが多いです。そのほか医療機器のメンテナンスや管理、医療従事者が機器を正しく使えるように教育を行う役割も担っています。

医学と工学の知識を併せ持ち、医療機器のスペシャリストとして医療現場を支えるのが臨床工学技士なのだ。

大石さんは病院を退職後、独立して『株式会社Kiwi』を立ち上げた。現在はフリーランスの臨床工学技士として医療機器の管理・運用や、教育の支援を行っている。

この職種はできてまだ30年ちょっとなので、他と比べると若い職種です。そのためまだまだ発展段階ですし、人数も潤沢にいるわけではありません。ですが医療に対するニーズはどんどん高まっていて、かつ医療機器も種類が多いうえに院内に数種類置いて患者さんの状態に合わせて使い分けたりしています。バージョンアップも都度行われるので、使う側もちゃんと知識をアップデートしていかないといけません。病院の規模や教育体制に関わらず、オンライン上で医療機器について学んだり聞いたりできるシステムをつくることが急務だと思ったんです。


SECOND 
弁護士 松本 雄真さん

医療現場の課題感を知り
取り組みの意義の大きさに共感

大石さんのセコンドを務めるのは、弁護士の松本さん。広島県出身で、現在は東京で『株式会社リクルート』に在籍しながら兼職として企業法務を中心とした弁護士業務を行っている。松本さんは、スタートアップ企業の新規事業創設のサポートを担うことも多い。

広島出身なので、地元の活性化に貢献したいと思ってRING HIROSHIMAのセコンドに応募しました。今回大石さんから話を聞いて、臨床工学技士の仕事内容や医療現場の課題について初めて知りました。大石さんの取り組みの意義はとても大きいと感じたので、ぜひサポートさせていただきたいと思いました。

今回大石さんが目指すのは、医療機器の“分からない”を解決するウェブサービス『キキサポ』の構築。大石さんは福岡、松本さんは東京と2人の居住地に距離はあるものの、互いの専門分野を活かし、また融合させながら、オンライン等を活用して今回のプロジェクトに挑戦することとなった。


TALK ABOUT “RING HIROSHIMA”

臨床視点でのコンテンツをそろえるのが
他にはない『キキサポ』の強み

――『キキサポ』にはどんな特徴がありますか?

大石 動画で医療機器の使い方を学ぶことができます。今は輸液ポンプの使い方を説明する動画が完成したところです。短い動画の方が見やすいと感じる人が多いので、1本の動画を3分くらいにしてその中に重要点を凝縮させるということに苦労しながら制作しました。

――RING HIROSHIMAの期間中にどんな実証実験を行う予定でしょうか?

大石 福岡県内の病院で、まずは制作した動画のみを実際に観てもらっています。医療機器の購入時研修の補助として使用してもらっていて、後日看護師からフィードバックをもらう予定です。ほかには、広島県内の医療機器メーカーにも動画を見てもらう予定にしています。医療メーカーがつくる動画は機器の説明をするものが一般的なのですが、今回制作した動画には、安全に配慮しながら患者さんに対してどのように使うのかという内容を盛り込んでいます。臨床の視点に基づいた機器の使い方を説明できるのが、他にはないこの動画の強みです。一方で、こうした動画をオンラインで見て学んだり、メーカーを横断しながら機器の検索をしたりといったシステムの構築については、当初イメージしていた形が難しいかもしれないということが分かってきました。

病院で医療機器の管理を担当していた大石さん。

松本 これまでにスタートアップ企業のサポートをさせてもらう中で、初期のシステム構築については課題を持たれる企業さんがやっぱり多い印象です。それは、想定しているシステムの内容と資金面のバランスが難しくなっていることが多いからなんですが、多くの医療従事者の方にこのシステムを使ってもらうためにも、システム構築の資金調達について改めて今後の課題が見えてきたところです。

大石 そのため、いったん体制の見直しを行いました。それに、この『キキサポ』のコンテンツの柱となる動画をもっと充実させていくことで、医療機関はもちろん医療機器メーカー、医療機器ディーラーの教育ツールとしても活用できるよう、マネタイズすることも目指しています。広島県内の病院でも実証実験をしたいと思っているので、動画制作と同時進行で新しいシステムの確立にも取り組んでいます。  

これまで、医療機器に関する研修なども行ってきた。

松本 資金面に関しては継続的な課題になると思うので、しっかりとサポートしていきたいと思っています。もちろん実証実験が最終的な目標ではなく、『キキサポ』というウェブサービスがより良いものになるよう伴走していきます。このプロジェクトに賛同してもらえる企業の方や病院の方などの仲間も増やしていきたいですね。

大石 そうですね! 臨床工学技士って医療機器のプロフェッショナルなので、臨床現場で機器を通した医療の課題や、他職種を含めたチーム医療の中での課題を見つけやすい職種だと思っています。だからこそ医療課題に対する問題の解決に、臨床工学技士ができることは多いと最近より感じるようになりました。この『キキサポ』がより分かりやすく使いやすいサービスになるよう、これからしっかり構築していきたいと思います。

EDITORS VOICE 取材を終えて

恥ずかしながら、臨床工学技士という医療職種があることを今回初めて知りました。医療に対するニーズが高くなるということは、医療機器へのニーズも同じように高くなるということ。医療従事者の負担を減らし、より安全な医療を行える環境にしていくためにも、『キキサポ』のようなサービスの充実は必須で、それらが果たす役割はこれからどんどん大きくなっていくと感じました。
(Text by 住田茜)


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