日常を非日常に。旅する音楽家たちが描く景色【RING HIROSHIMA】
コンサートに行くのはちょっと敷居が高い、クラシック系音楽。広島の音楽大学で出会った仲間たちが目指すのは「日常に音楽が溶け込む景色」。その手段が、2tトラックを移動ステージにして野外で演奏する、というもので…。RING HIROSHIMA挑戦者過去最年少!? 現役音大生&卒業生たちの挑戦から、目が、いや耳も離せない!
CHALLENGER「ミュージックキャラバンJAM」武林みつきさん・柴崎楓歌さん
もっと気軽に音楽を
たくさんの人に届けたくて
トラック買っちゃいました
今回のチャレンジャーは、2000年生まれの22歳。「エリザベト音楽大学」出身のトランペット奏者・武林みつきさん。在学中に出会った打楽器奏者の柴崎楓歌(しばさき ふうた)さんと共に「RING HIROSHIMA」にエントリーした。今回の彼女たちの挑戦を一言で書いてしまうと、こう。
ステージとして使えるウイング式ドアの2tトラックで、旅する音楽隊になる
そもそも、音楽大学などを卒業した後の演奏家たちには、プロにならない限り演奏や練習の場所がない、という課題がある。既に学生ではなく、ふだんは別な仕事をしている柴崎さんは、大学の施設を利用することもできないし、楽器の演奏ができる場所はかなり限られてくるし、機材の保管や持ち運びもネック。手でヒョイと持てる楽器ばかりではない。
さらに武林さんがいうように、クラシック音楽そのものの届けにくさ、という問題もある。一般にクラシックの演奏会はホールなどしっかりしたステージで行われることが多く、そうなると数も限られ敷居も高くなる。いわゆる「いちげんさん」的に、気軽に音楽に触れる人が生まれにくい状況なのだ。
(だからといって、いきなり約200万円のトラックを買わなくてもいいと思うが…)
思わずライターの雑感が漏れてしまったが、この度胸が武林さんたちのすごいところ。今年の1月に「トラックを買って移動しながら演奏したらいいのでは?」と思いつき、2月には既に購入していたという(月3万円のローンが泣かせる)。
こうして結成されたのが、旅する音楽隊「ミュージックキャラバンJAM」
メンバーは、武林さんと柴崎さんのほか、現役音大生を含む全5名。今年度末の「RING HIROSHIMA」実証期間終了までに、このトラックを使った音楽イベントを実施することを目指す。
SECOND 樗木勇人さん
やりたいのはトラックを
買うことじゃなくて
JAMだよね?
学生だったり、社会人ほやほやだったりと、全く起業家然とはしていない「ミュージックキャラバンJAM」のセコンドに就いたのはこの人。NECで新規開発事業の仕事をしながら、数えきれないほどの課外活動に自ら進んで飛び込むアグレッシブ・ビジネスマン樗木勇人(ちしゃき はやと)さんだ。
東京在住だが、なぜか広島で、フジツボのもたらす経済被害・環境への影響についての課題解決を目的とした会社「シーテックヒロシマ」を設立したりもしている。
その濃厚すぎるプロフィールは前回樗木さんがセコンドを務めたこちらの記事で知ってもらうとして…。樗木さんは今回、どんなスタイルで柴崎さんたちを支えるのだろうか。
樗木さんのこの意見は、実は現在「ミュージックキャラバンJAM」が取り組んでいることと、その進捗に関係している。彼らの活動は現在大きく三つ。
JAMとしての演奏依頼への対応
自主イベントの企画・実施
レンタルステージの貸し出し
どれも着実に実績を重ねているが、考えどころなのが「レンタルステージの貸し出し」。つまり、購入したトラックを他の演奏家たちにレンタルする取組だ。演奏場所や機材の運搬に困ることは演奏家に共通の課題ではあるが、彼らはレンタルトラックのオーナーになりたくてこの事業をしているわけではない。しかし需要はある。実際、売上も立っている。
TALK ABOUT “RING HIROSHIMA”
学生挑戦者のファーストペンギンが
経験豊かなセコンドに与えたもの
――演奏家としてのピュアな課題感から今回の挑戦に至った武林さん・柴崎さんたちと、海千山千のビジネスパーソンたちと渡り合いまくってきた樗木さん。「RING HIROSHIMA」がなければ実現しなかったであろう組み合わせから、どんな動きが生まれつつあるのだろうか。
樗木さん:まあでも実際はさあ、思ったほど時間取れてないよね、お互い。
柴崎さん:そうなんです。僕は日中は別な仕事をしていて、深夜に考えを深めて。本当に…バタバタしてて…。ここまでよく一緒にやってくださってるなと。
樗木さん:傍から見ていても本当に大変そうですよ。本業のお仕事や学生さんは勉強もあるなかで、やりたいことを社会に実装しようとしてるんだから。僕にとっても、ある意味チャレンジなんですよね。ビジネスとしてフルコミットはできない学生さんたちにどう寄り添うのか、っていう。
武林さん:樗木さんと最初に接した時、「この人本当にビジネスマンなのかな?」って思ったんですよ。ビジネスマンって、もっと固いイメージだったから。凄く和やかで親しみやすくて、こちらもいつものテンションで、普段着でいられるというか。それでいて、私たちが言語化できずにいたことを言葉にしたり、数値化したり、手札を選びながら提示してくださる。ビジネスって、相手を見たり、物事を感じ取る力が大事なんだなって勉強になっています。
樗木さん:僕が武林さんや柴崎さんと知り合って一番思ったのは、「年齢って関係ねえな!」ってことかな。本人に強い思いさえあれば、少なくともここ広島には、ビジネスまで持っていける土壌や可能性があるんだって。ただ、経験は必要だよね。場数を踏んでいないと、判断するタイミングを間違えちゃうから。
――情熱と事業を両立させるため、武林さんたちはがむしゃらに動きつつも、今、「やりたいこと」の輪郭をはっきりとさせる作業に向き合っている。
武林さん:頑張って売り上げを立てて「事業として成功したよね」って言おうと思えばいえるのかもしれません。そうではなく、コツコツ活動していきたいっていう私たちの方針に理解をいただいているところも、樗木さんのすごくありがたいところです。
樗木さん:とにかくイノベーションっていうのは、「やりたいことでしかできない」からね! やりたいことをやってほしいっていうのが一番。自分ゴトとしてやりたいことは何なのか、常に考え続けてる二人の姿に僕も励まされています。「RING HIROSHIMA」も学生の事業を選ぶなんてギャンブルだな!って最初は思ったけど、やっぱり、こういう人たちに挑戦の場を与え続けることはやめちゃいけないね。ファーストペンギンになったことで彼らは大変だろうけど。「RING HIROSHIMA」が、学生さんも身近なものになるといいなと願ってます。
●EDITORS VOICE 取材を終えて
2000年生まれ!と我が子でもおかしくない年齢のチャレンジャー。取材中、トラックのレンタルサービスを他の演奏家に提供することには意義を感じますか?と話を振ったところ、「長期的にはそういう考え方もありますが、今トラックレンタルをメインのサービスにしたいとは思っていないんです。段階的に、若い演奏家たちに与える場があってもいいけど、私たちの姿を見て下の世代も頑張ろうと思えるきっかけになれれば…」との返答。既に!あなたがもう!!若いのに!!!さらに下の世代のことを!!!! なんて視野が広いんだろうと感動してしまいましたよ、私は。野外音楽隊をお求めのみなさん、ぜひミュージックキャラバンJAMのWEBサイトをチェックしてみてください。(Text by 山根尚子)
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