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指導者と子どものオンライン交換日記。サッカーのリモート指導がスタート【RING HIROSHIMA】

中学校の部活動、特に運動部の主体が学校から地域の団体へと移行される「部活動の地域移行」がもうすぐ始まる。子どものスポーツに取り組む環境が変わろうとしている中、子どもと指導者がよりスポーツに向き合える環境づくりをしたいとRINGに上がったのが、今回のチャレンジャー。


CHALLENGER
『一般社団法人nukumo』尾倉 侑也さん

サッカーというスポーツを通して
子どもの教育の環境をより良くしたい

エンジニアとして経験を積んだのち、『一般社団法人nukumo』を設立して多家族共同シェアハウスの運営など多彩なプロジェクトに取り組んできた尾倉さん。現在、主に取り組むものの一つに、サッカー指導者の育成事業がある。

尾倉さん自身はサッカー経験者で、もちろんサッカー好き。ただこのプロジェクトに取り組む理由は、それだけではない。

ずっと教育に関わることがしたいと思っていました。僕は「子どもに接する人の環境が変われば、教育の環境も変わる」と考えています。子どもに接する人って、つまり先生や指導者のことです。専門的な知識や技術だけじゃなく、人としての成長を促せる指導者だからこそ、子どもも物事の感じ方や向き合い方が変わっていく。そこでサッカーという一つのスポーツをカギに、広く指導者育成に視点を向けることから子どもたちの教育の環境をより良くすることにつながればと思っています。

中学校の部活動の地域移行も、2023年度より段階的に始まろうとしている。

部活動の地域移行は、指導者の確保や養成などの点でまだ課題があります。ですが、子どもたちには優れた指導者のもとで指導を受けられる場をつくってあげたい。

そこで尾倉さんが今回RING HIROSHIMAでアプローチしたのが、プロコーチによるオンライン指導。そのポイントは、単なる技術指導ではなく、子どもたちの思考力を伸ばす指導内容も提案するという点だ。


SECOND
『株式会社日本能率協会総合研究所』松永 信雄さん

教育分野におけるリモート活用を
形にできるようサポート

尾倉さんのセコンドには、『株式会社日本能率協会総合研究所』の松永さんが就任。これまでに官公庁や公共団体へ事業戦略をはじめとしたマネージメントやコンサルティングを行ってきた。

最近はビジネスの場でもリモートが浸透してきていて、一つの重要なキーワードになっています。教育の場でも同じように重要で、尾倉さんがイメージするものが上手く形になればという気持ちでこのプロジェクトに参加しました。これまでに行政と関わる業務を経験していますので、例えば小学校や中学校などに何かを依頼するようなことがあった際に、そのサポートをしたいと考えていました。


TALK ABOUT “RING HIROSHIMA”

実際のオンライン指導がスタート!
子どもとしっかり向き合う期間に

尾倉 侑也さん(左)、松永 信雄さん(右)

――サッカーのリモート指導では、具体的にどんなことをするのか教えてください。

尾倉 子どもたちに日々の練習や試合を振り返ってもらい、できたことやできなかったこと、次はどういう風にしてみたいかといったことを、専用フォームでプロのゴールキーパーコーチに送ってもらいます。コーチはその内容に基づいて、週1回動画でフィードバックをするんです。今回のRING HIROSHIMAの実証実験では、澤村公康さんにコーチをお願いしました。

サンフレッチェ広島やなでしこジャパンなどでゴールキーパーコーチを歴任。現在はジュニアからプロまで広く育成や指導に携わる澤村さん。

――交換日記のような感じで、プロのコーチから子ども一人ひとりに向けたフィードバックがしっかりとあるのはいいですね。

尾倉 ゴールキーパーとしての技術を教えるのはもちろんですが、今回は子どもたちの思考力を伸ばす機会にもなればと思っています。例えば試合という目標があったとして、目先にある技術の習得だけではなくて、試合に対してどう向き合い何を準備していくのかを自分自身で考えるプロセスが大切だと思うんです。食事にも気を付けないといけないとか、メンタルの浮き沈みがあったときはこう対処しよう、っていうようなことですね。

――自分自身で考えること、さらに広い視野で応用的な面も含めて考える力ですね。

尾倉 そうですね、教育の本質は思考力を養うことだと考えていて、それがあればプロも目指せるし、プロにならないにしても社会へ出て活躍できる人材になれると思うんです。ただ今回はそうした精神論を押し付けるつもりはなくて、“澤村さんに教えてもらってスキルを高めたい”という気持ちで参加してくれた子がほとんどなので、そこにきちんと応えながらそういう思考面にも興味を持ってもらえたらいいなと思っていました。

松永 今回のプロジェクトは、実際のオンライン指導の部分についてはスキームがしっかりしていたので、肝になるのは参加する子どもたちをどのように募集するかという点でした。この取り組みは部活動の地域移行への対策という面もあるので、まずは小学校や中学校などの学校や自治体へのアプローチを行いました。タイミングなどの関係で、最終的に参加してくれたのは6人の子どもたちです。

11月に初開催された実地トレーニング。この後、オンライン指導についても学ぶ時間を設けた。

――その子どもたちと一緒に、11月にトレーニングを行ったんですよね。

尾倉 はい、プロの技術に触れられるということでみんな楽しそうに練習していたし、自発的に話したり子どもたち同士のコミュニケーションも生まれていたので良かったですね。澤村さんも“なぜ?どうして?”を問う指導もされていて、子どもたちは頭を動かしながらのトレーニングになったようです。

松永 澤村さんの実地指導、私も拝見しました。子どもたちもとても良い表情で練習していましたよね。私は普段から社会人向けに研修をしているので、「澤村さんはこういう指導をするんだ」「コーチングってこんなに面白いんだ」と、そういう視点でも学ばせてもらった気がしています。

尾倉 オンライン指導の方は、トレーニング後も子どもたちは毎日ちゃんと振り返りを投稿してくれているんですよ。その内容も自身で思考して質問してくれたり、考えたうえで送ってくれているのが分かります。ただ僕ら側がそれを強要してはだめなので、子どもたちが自然とそういったことも考えられるような雰囲気づくりを大切にしたいと思っています。

まるでオンライン上の交換日記のように、コーチと子どもたちが日々の振り返りをやりとりします。

――指導者側に向けてはどんな施策があるんでしょうか?

尾倉 初回は実地練習ということでプロのコーチに来てもらいましたが、毎週来てもらうとなるとそう簡単にはいきません。でもオンライン指導であればコーチの負担も少なく、また保護者の費用面での負担も抑えながら、経験豊富なコーチの指導を受ける機会が増やせます。ジュニアを指導するコーチは子どもたちが学校に行っている時間帯はどうしても空いてしまうんですけど、今回の仕組みだとそうした時間を使って子どもへのフィードバック動画を撮ることができ、結果的に収入につなげることもできます。指導者の働く環境の改善も目指せるというメリットがあります。

松永 指導者の養成面でも子どもの教育面でも、今回のプロジェクトを将来的に実装することを考えると、どうビジネス化していくのかということを実証実験後に整理していかないといけないですね。

尾倉 そうですね。この実証期間中はプレイヤーズファーストで、まず子どもたちの指導の方に注力したいです。参加してくれている6人の貴重な時間をいただいているので、彼らにどれだけプラスになるかを考えていかないと。期間を終えてからは、費用面のことを考慮して今回取り組んだスキームが事業として形にできるのか、部活動の地域移行も含めて今の社会的な課題に対して働きかけていけるのかを考えていきたいです。


子どもたちと、コーチをはじめとした本プロジェクトメンバー。


EDITOR’S VOICE 取材を終えて

私がこの記事を書いていたのは、ちょうどサッカーW杯で日本中が盛り上がっていた時期。導く人の姿勢や指導、それが選手やチームへ与える影響などについて改めて考えるタイミングでもありました。今回のプロジェクトで始まった、コーチと子どもたちのオンラインを介した交換日記。日記のやりとりを終える頃には、またひとつ成長した子どもたちの姿がそこにあるんだろうなと楽しみにしています。(Text by 住田茜)

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