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いろいろなファッションを楽しみたい!そんな欲求を満たしてくれるアパレル業界のDX【実装支援事業】

デニムの産地と聞いて、どこを思い浮かべるでしょうか。
岡山県倉敷市?
実は、生地としてのデニム生産は福山市が日本一なんです!

今回は、伝統的な備後かすりから服をつくる技術が受け継がれてきた福山市で行われている実装事業をご紹介します。

みんなと同じものを着るよりも、自分らしい服を着たい。
そんな私たちのニーズに応えて多品種小ロット化が進むアパレル業界では一体どんな問題が?

多様なファッションの裏で起こっていること

patternstorage(株)代表取締役の今井恵子さんは、高校時代からファッション誌が大好き。ファッションへの関心は尽きず、パターンナーとして活動後、同社を設立しました。

アパレル業界はかつての大量生産から多品種小ロット化が進み、1受注数千着つくっていたところが1受注30着程度になることも多くなりました
パターンナーとして「レシピ集のようなものがアパレル分野にもあったらいいのに」と感じた事が起業のきっかけになっており、アパレル製造に関わる色々な業種業態へのヒアリングを通じて、服を作る上での材料調達/製造調達の効率化を中心にシステムを提供しています。

patternstorage(株) 今井さん

小ロット化が進む一方、業界で使われる縫製仕様書の様式は各社まちまち。必要な原材料を発注するにも、仕様書を基に手書きやエクセルの発注書を作ってファックスで送信するなど、アナログな手法を取らざるをえない状況でした。

そこでpatternstorageが提供するサービス「patternstorage」は、光学文字認識技術(OCR)を応用して、紙でもエクセルでもPDFでも、どんな形の仕様書からでも情報をテキスト化し、人の手で処理するよりも効率的に後続の業務に繋げていきます。

D-EGGS PROJECTでは、福山市の日本デリバリーサービス(株)とタッグを組み、縫製仕様書から原材料を調達することを実証しました。

実装支援事業では、原材料調達の次の段階として製造調達に挑みます。

多様なファッションの裏で起こっていること

中高級ゾーンのおしゃれ着などを手掛ける日本デリバリーサービスは、コロナ禍で外出の機会が減ったことにより、大打撃を受けました。

以前からその傾向はありましたが、コロナ禍でさらに多品種小ロット化が加速しました。
ロット数に関わらず、お客様との打ち合わせ→原材料を集めて→製造の発注をして…と、手順と作業は変わりません。小ロットでも利益を上げるためには、回転数を上げる必要があります

日本デリバリーサービス(株) 代表取締役社長 二畠 大さん

同社は自社工場を持っていますが、アパレル業界全体では多重下請けの構造が特徴です。縫製仕様書から、生地を裁断する事業者、縫製する事業者…と、分業で製造するのが一般的。
実装支援事業では、日本デリバリーサービスから裁断業者、服飾資材商社などへスムーズに製造の調達をするための改善を進めています。

法律や規格にとらわれない感性の世界だからこそ、仕様書もばらばら。ここの電子化がなかなか一筋縄ではいかない部分があるのですが、この部分を突破する事ができた時に大きな効率化が達成できるのは間違いありません。
書類がアナログなことに加え、書いてある情報も共通言語でなく「ボタン」としか書いていないということも多々あります。
どんな様式でも素早く正確に翻訳して業務の流れに乗せられることで、よりお客様との対話に時間を割いたり、起こりそうなトラブルを未然に防いだりと業務の付加価値の部分に力をかけることができると考えています。

patternstorage(株) 今井さん
石田裁断所(府中市)での発注検証

「服を作る」という同じ山の頂上を目指していることは各社同じですが、山の登り方がそれぞれ違うようなイメージ。すべての登り方に対応するのは簡単なことではないですね。
社内でも初めて挑戦するDX化ですが、patternstorageと一緒に登っていきます。

日本デリバリーサービス(株) 二畠さん

実はD-EGGS PROJECTよりも前から連携を始めていた2社。日本デリバリーサービスの未来への期待を背中に受けて進むpatternstorageですが、まだまだ開発途上です。

D-EGGSでは特定の条件下での実証実験が成功していますが、実際の業務に実装していくタイミングで想定外の業務シーンが出てきたり、追加で対応が必要なシーンも出てきています。システムを通す事で得られる体験を磨くために、まだまだやるべき事があり、コミュニケーションできる日本デリバリーサービスさんとの関係性はとてもありがたいです。

patternstorage(株) 今井さん
patternstorageから日本デリバリーサービスへ、分析の報告

いずれにしても、これまでアナログメインだった業界ですから、慣れるまでの時間は必要です。当社の社員からは遠慮なく厳しい意見も伝えているようですし、ベンチャー企業で開発段階のシステムだからこそ、一緒につくり上げている感覚があります。既存のシステムにこちらが合わせるのではなく、こちらの立場を分かってくれます。
特に今井さんはパターンナーでもあるので、現場にも詳しくて助かります。

日本デリバリーサービス(株) 二畠さん

同じ思いで、業界の未来を創っていく

DX化への挑戦、そして現場での実証実験を重ねながらのシステム開発。両社にとってひろしまサンドボックスは良い機会でした。

ひろしまサンドボックスは、やったこともない、ゴール設定もしにくいDXという分野にトライするためのチャンスそのものでした。実証実験と実装を進めながら、“本当の課題”がどこにあるのかということにも思いが至りました。

着る人にとって服のバリエーションが豊かなのは喜ばしいことですが、小ロットだからといって高価になることは嬉しくない。多様な趣味趣向に合わせた手頃な製品を出していけたら、ハッピーな世界になると思います。
本当の多様性を叶えるために、本当の効率化とは何なのか、システムを使うことだけが効率化なのか、と考えるようになりました。

日本デリバリーサービス(株) 二畠さん

ひろしまサンドボックスはまさに砂場。カチカチに決めるのではなく、やわらかくスクラップアンドビルドを繰り返しながら良いものを作れる場所です。ベンチャー企業にとっては、そこにお金を出してくれる人、実証実験に付き合ってくれるパートナーを見つけるのが本当に難しい。日本デリバリーサービスから、厳しい言葉をいただきながらも応援していただけている今の状況は有難いです。

多品種小ロットが繊維産業に与える影響は、工場、服飾資材商社、カジュアル着メーカー、ユニフォームメーカーと広い範囲に及びますが、「事業者の効率化」という目標はぶらさずに、業界の未来を一緒に創っていきたいと思っています。
服が好きで業界に入った人の想いが途絶えないように、より効率的に製造できることを目指していきます。

patternstorage(株) 今井さん

●EDITOR’S VOICE

着物用の反物も、糸を紡いで織る人、反物を染める人、絵の下書きをする人、型を作る人、型を作って染める人…と、細かい分業で作られていると聞いたことがあります。
服を作る業界では伝統的な方法なのですね。

良い伝統を守りながら新しいことに挑戦するときには、なにかしら壁や障害が付き物です。本当の効率化を目指し、思いをひとつにして、ファッションの楽しさを守りながら世の潮流にも柔軟に対応する両社が印象的なインタビューでした。
(Text by 小林祐衣)

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