笑顔検知カメラで地域に幸福循環(北広島町)【スタートアップ共同調達事業】
広島県の事業「ひろしまサンドボックス」で嵐を巻き起こしている男がいる。「RING HIROSHIMA」第1期、第2期に連続して採択され、あまりに規格外の発想と行動力で広島はもとより、世界中を熱狂の渦に巻き込んでいる「Smileの伝道師」……このたび彼が北広島に上陸。「The Meet」でも実証のゴングが鳴り響いた!
DXで地域を1つにする
仕組みが作れないか?
今回の協業相手である「一般社団法人One Smile Foundation」はひろしまサンドボックス界隈では有名だが、ひとまずそれは横に置いて、北広島が解決しようとしている地域課題から話をはじめたい。
採択案は「笑顔検知AIカメラによる笑顔と連動した寄付システム『スマイラル!』による地域のWell Being向上と幸福の循環によるつながりの強化」。答えてくれるのは、北広島町役場総務課DX推進係主任の小川康貴(おがわ・やすたか)さんと係長の大本賢一郎(おおもと・けんいちろう)さんだ。
山間部にある北広島町は、まだ古くからの伝統的生活が残っている地域。とはいうものの専業農家の減少、核家族化の進展などで人々のつながりに変化は見られる。
最新DX技術を活用して、住民の心の拠り所や地域のかすがいになるようなものが作れないか?――そこで白羽の矢が立ったのが、辻 早紀さん率いるOne Smile Foundationだった。
カメラで笑顔が検知されるたび
「1笑顔=1円」の寄付が発生
One Smile Foundationと辻さんに関しては以下のレポートに詳しい。どちらも私が書いているのでおもしろバイアスがかかっているが、辻さんは国連宇宙局で発表したり台湾や韓国でも高く評価されるなど今やウェルビーイング界の寵児として有名である。
One Smile Foundationが提案したのは「スマイラル!」事業だ。これはカメラの笑顔認証機能を活用し、日々笑顔が計測されるごとに「1笑顔=1円」の寄付が発生するという仕組み。地域の幸福度を上げる施策として、すでに静岡県浜松市や広島県廿日市市、兵庫県加古川市など数々の自治体で実証実験が行われている。
そして笑顔による地域コミュニティ強化の火ぶたが切って落とされた。
笑顔は連鎖するもの
郷土愛が育ってほしい
実証実験は2月28日、2方向でスタートした。
1つは町内の公立保育園2園での写真販売サービス。これは園児の笑顔の写真をAIが自動撮影、そのスマイルが寄付になると同時に、撮影した写真を両親に販売するというものだ。もう1つは町内の公共・商業施設にサイネージを設置し、笑顔の発生と共に企業広告が表示されるという仕組みである。
面白いのが、システムの細部まで配慮が行き届いていることだ。
たとえば笑顔の寄付先に能登半島地震の義援金と、地元で絶滅危惧種の鳥・ブッポウソウの保全など生物多様性の取り組みを行っている「NPO法人・西中国山地自然史研究会」を選定。園児に「みんなの笑顔で鳥のおうちを作ってあげるんだよ」と伝えることで、この活動や生物多様性に興味を持ってもらう。
さらに笑顔がカウントされるたびにプラレールの電車が動く仕組みを作り、「いま誰かが笑顔になった=寄付が行われた!」ということを園児に分かりやすく見せていく。人の心の綾を理解したこうした仕掛けのいちいちが実に練られているなぁと感じさせる。
ではそのストーリーの結末には何があるのだろう?
故郷が「笑顔にあふれたまち」であることで郷土愛が生まれ、幸福がスパイラルのように循環する。「Smileの伝道師」辻さんの活動はこの北広島の地でも着実に浸透しつつあるようだ。
こっちから逆営業する
くらいじゃないと
最後に「The Meet」に対する感想を聞いてみた。
「The Meet」をきっかけに刺激を受け、課題解決への挑戦を活性化させていく各自治体。動きはじめたこの波を加速させるか止めるかは、県の采配に懸かっている。
●EDITOR’S VOICE 取材を終えて
文中にもあるようにOne Smile Foundationの取り組みは何度か取材させてもらったことがあるのですが、今回うならされたのは細かな工夫の部分。笑顔が検出されたことが園児にもわかるよう、プラレールで表現するというのは見事なアイデア。「技術=正義」のロジック一本鎗で苦戦している企業も多い中、こういう「伝わってナンボ」「喜んでもらって初めて広がる」というエモーショナルな視点があるかどうかは非常に大事だと思います。
さすがミュージシャンとしても活動する辻 早紀さん。進化の続くOne Smileの活動からは目が離せません!(文・清水浩司)