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ジャッジの失敗
広島FABの日下です。2024年秋、激動のPQシーズンも、いよいよ終わりを迎えます。広島では今シーズン、2回のPQが開催され、それぞれのイベントでL1ジャッジの資格を取得したばかりのジャッジたちが華々しいデビューを果たしました。
そして、いよいよ来週からは今年最大のビッグイベント、大阪で開催されるWorlds Championshipが行われます。今年一年、大きな活躍をしたプレイヤーや権利を獲得した強豪たちによる激戦が繰り広げられる招待制の超大型イベントです。しかし、多くの人にとっては、世界選手権本選よりも、並行して開催されるオープンエントリーの大会、2日がかりのTier3イベント『Calling』や1dayトーナメントのTier2イベント『Battle Hardened』の方に注目が集まるのではないでしょうか。また、サイドイベントも目白押しで、たくさんの戦場が待っています。
今回は日本開催ということもあり、多くの日本人ジャッジが参加します。中にはフロアジャッジを務めるのが初めての方や、大型イベントへの参加自体が初めてという方もいらっしゃるでしょう。
ジャッジとして活動を続ける中で、私はさまざまな経験をしてきました。去年の7月にL1、今年の7月にL2を取得しました。今年の春には国外のイベントとしてPro Tour L.A.でCallingとサイドイベントを担当し、国内ではPQやRtNなどの店舗イベント、さらにCalling東京とNationalsでもジャッジを務めました。広島FABで開催した非公認競技イベントBRCでもフロアに立ちました。面白い出来事やユニークな体験、そして様々な失敗や後悔を経験してきました。
それは単に裁定を間違えたということだけでなく、「もっと上手くやれたのに」という小さな反省から、あわや大惨事になりかねない大きなトラブルまで、多岐にわたります。そんな学びをもとに、ジャッジとして活動する際にした方がよいこと、そしてしてはいけないことをお伝えしておきます。
避けられる失敗やトラブルは、ぜひ避けた方が良いのです。基本的には私自身の経験したこと、直接見聞きしたことを元にしていますが、友人ジャッジの体験などジャッジ間で共有された他イベントでの事例も参考にしています。
それでは、始めましょうか。
準備編
ドレスコード
ジャッジにはドレスコードがあります。
イベント毎に多少の変化はありますが、だいたいどこでも以下のようなものです。
・ジャッジシャツを着用する
・長ズボン(黒)を履く
・シャツをズボンにインをする
・黒い靴を履く(歩きやすい靴)
・帽子の着用は不可
ドレスコードを守らないとペナルティがあるかというと、多分ないのですが、会場でその人がジャッジであるのかどうかは、服装だけで判断されます。そのため、ジャッジであることがわかるように、揃いのユニフォームであることが望まれます。これはプレイヤー目線だけでなく、ジャッジ自身の視点でも重要です。「この辺、やたらジャッジが多いな」「会場のあの辺りは、今ジャッジが薄いな。移動しよう」「困った?一番近いところにいるジャッジは誰だ?」「〇〇さんを探しているんだけど、どこにいるのかな…」など、遠くから見てジャッジが一目でわかることは、円滑なイベントの進行にとても大切です。
「靴くらい自由でよくない?」と思う気持ちもわかりますが、足元は意外と重要です。特に集合写真を撮る際に目立ってしまうことがあります。黒い靴を用意して、数日間履きならしておくことをおすすめします。
そして、絶対に歩き慣れた靴にしましょう。ジャッジは、想像以上に歩きます。2万歩くらい歩くこともありますから。
羽織るものを1枚持っていけ
休憩中は上に何か羽織るか、あるいはシャツを脱ぎましょう。
あなたがジャッジかどうかは、服装のみで判断されます。L0、L1、L2にかかわらず、シャツを着ていれば「ジャッジ」とみなされます。休憩中はジャッジではないことがわかりやすいようにしておくことが重要です。昼食を買いに行く道中で、30分以上解決にかかる複雑なトラブルに呼び止められたら、お昼ご飯を食べ損ねることになります。
また、控室が極端に冷房が効いていることがあります(ヒント:狭い部屋+大きい人)。温度調整のためにも、羽織るものが一枚あると安心です。
荷物はコンパクト
バックヤードは十分広いとは限りません。また、勝手に荷物が移動されたり、区画整理されることがよくあります。ジャッジの荷物とイベントで使う物品が同じ場所に置かれることも多く、つまり、ゴチャゴチャしているのです。なくなって困るものや特別な貴重品については、取り扱いに気を付けて。
持ち込む荷物はなるべくコンパクトにまとまるように心がけましょう。
サブバッグ
お土産を持って帰れるように、何かしらのサブバッグを用意するか、カバンにスペースを確保しておきましょう!
なんでかって?会場に行けばわかりますよ!
フロア編
休憩時間は、休憩をしろ
大型イベントでは、一日あたりだいたい2~3万歩は歩くことになります。ディズニーランドを遊び尽くすくらいの距離です。休憩時間は、しっかり休むようにしましょう。
限定品を買いに並んだり、ショップでお買い得品を探したり、アーティストと交流したり、イベントの楽しみ方は無限大です。数少ない自由時間を満喫したい気持ちも十分に理解できますが、それに夢中になって補給をし忘れたり、脚を痛めたりしては本末転倒です。ジャッジは2日間、もしくは3日間参加することになるでしょう。今日の疲れを明日に持ち越さないようにすることも大切です。
意識して、休めるときにはしっかり休みましょう。
走るな
走るな。
以上です。
火事が起こるなどの緊急事態がない限り、絶対に走ってはいけません。ジャッジが走ると「何が起こったのだろう?」と全員の注目を集めてしまいます。
ジャッジは問題の把握に動かなければならず、試合に集中しているプレイヤーの注意が削がれます。観客は野次馬に変貌し、わらわらと集まってきます。
これではイベント運営に支障が出ます。
会場では走らないことを徹底しましょう。ぜったい、走らない。
おしゃべり
ジャッジ同士のおしゃべりは、まーったく問題ないです。
さまざまな国や地域から一堂に会するこの貴重な機会に、いろんなジャッジと親交を深めましょう。積極的にコミュニケーションを取ることは良いことです。
ただし、フロアへの注意は怠らないでください。ジャッジコールを聞き漏らさないようにし、困ったことが起こったらすぐに駆け付けられるよう、プレイヤーの方を向いておきましょう。
また、当然イベント会場はパブリックな場です。その場所にそぐわない内容の会話は慎みましょう。人種や容姿、ジェンダーに関する内容など、センシティブな話題には特に配慮が必要です。
声のボリューム
雑談など、ジャッジ同士の会話は基本的にプレイヤーの耳に届かない方がよいです。試合中であれば集中力を削ぎ、更にゲームの展開を左右する助言を与えてしまう可能性があります。
また、裁定について議論を交わしている最中など、シリアスなシチュエーションではエキサイトして声が大きくなることもあります。プレイヤーに知られてはいけない情報を与えることは、ゲームの状況やイベントの構造を歪める原因となります。
一方で、必要なアナウンスは適切な音量で行いましょう。プレイヤーにゲームの開始や終了を伝えたり、にぎやかな会場の中でジャッジコールに対応したりする際は、明確にハッキリと声をあげましょう。
試合観戦中に話しかけられたらテーブルから離れる
ジャッジが特定のテーブルに張り付くことがあります。プレイヤーにとって、ジャッジが張り付くことは独特な緊張感をもたらします。そのため、過度に圧を与えたり、刺激したり、集中を途絶えさせたりしないように配慮が必要です。
観戦中、プレイヤーのミスや効果処理のミスに気づいた親切な観客がジャッジに声をかけてくれることがあります。また、他のテーブルで生じたコールやトラブルを教えてくれることもあるでしょう。
いずれにせよ、観戦中に観客から話しかけられた場合は、そのテーブルから離れて会話をした方がよいです。ゲームの展開を左右する内容をプレイヤーに聞かせることは、外部からの助言になる可能性があります。ジャッジは、ゲームの状況をあるべき形に保つという使命がありますので、自身が及ぼしてしまうような状況は可能な限り避けなければなりません。
観客を黙らせよ
同じような理由で、対戦中のテーブルを取り囲む観客が話している声が聞こえたら、静かにするよう促します。過度な応援や声援も控えてもらいます。ゲームの結果に影響を与える外部因子を排除することも、大切なジャッジの役割です。プレイヤーは、静かな空間でゲームを行う権利があります。
プロモをガメない
盗難です。絶対やらない。いいね?
余ったプロモをポケットに入れるなど、絶対してはいけません。
プライズチケットを配って歩く際、身内同士の対戦卓にだけ多めに渡すなど、言語道断です。あたりまえだけど。
もし発覚した場合、ジャッジの資格剥奪も止むを得ない重大な事態になると思って覚悟してください。
感情的にならない
裁定を出している際に、プレイヤーに声を荒げられたり罵声を浴びせられたりすると、ジャッジも頭に血が上り、カッとなることがあります。また、ジャッジ同士でもトラブルが発生することがあります。あなたも相手も人間であり、感情を抱く生き物です。適切に感情の爆発を処理し、それをイベント内に持ち込まないようにすることが大切です。
自分の機嫌は自分でコントロールするしかありません。そして、自分の状態を適切に把握しておく必要があります。
自分がストレスを感じていることや、コンディションがすぐれないことを自覚した場合は、Breakチームに声をかけて、早めの休憩やショートブレイクを取れるよう配慮してもらいましょう。申し出れば、だいたい調整してくれます。
集中力が切れたら
水分を補給しましょう。ほとんどのイベントで、ジャッジ用に飲料水が用意されています。
それでも集中力が戻らない場合は、魔法のテクニックがあります。各テーブルを巡り、各プレイヤーのライフパッドを点検しましょう。現在のライフが食い違っているテーブルを探して回ると、意外とすぐに集中力が戻ってきます。
裁定編
最新の情報を把握しておく
ジャッジ試験の時に読み込んで、万全だと思っていても、ルールやポリシーは日々変化します。CRの最終更新は10月24日、TRPとPPGは10月28日(つまり、今日)です。
最新の裁定やポリシーを、イベント前に必ず確認しておきましょう。ジャッジ試験ではあまり登場しない内容が含まれているため、資格を取ったばかりのジャッジはTRP(Tournament Rules and Policy)への理解がまだまだ甘い傾向があります。私も初の大型イベントの際にはTRPの理解が不十分で、苦労した記憶があります。今一度確認しておきましょう。
また、各種リリースノートやBack Alley Oracle、Rules Repriseといった記事にも目を通しておき、必要な時に必要な場所を参照できるようにしておきましょう。
イベント前のカンファレンスでは、理解が難しい部分や注意が必要な部分について共有されます。スケジュールが合えば、参加しておくと勉強になることでしょう。
ソースを確認する
裁定を出す際は、必ずソースを確認しましょう。特に、ペナルティを出すことになったときは、必ずPPGを参照することが重要です。思い込みで過度に重い、あるいは軽いペナルティを出すことは避けなければなりません。「うっかり」では済まされない事態になることがあります。必ずソースを確認し、不安な場合は周囲のジャッジにダブルチェックやトリプルチェックを頼みましょう。また、IP2以上のペナルティが発行される場合は、ヘッドジャッジへの承認を求めることが原則です。
PPGの巻末には早見表があります。すぐに参照できるように、スクリーンショットをとるか、ブックマークをしておくと良いでしょう。
贔屓しない
友達からジャッジコールを受けたとき、敢えて極端な裁定を出したり、一方に偏った対応をしたりしてはいけません。
公平性と透明性、そして一貫性を保ちましょう。
焦らない
コールを受けるときに、焦ってもいいことはないです。落ち着いて話を聞き、状況を判断して、そして…
他のジャッジに助けを求める
何を言っているかわからない、言語の壁、問題の対処方法がわからない、時間がかかりすぎるなど、手に負えなくなったら、他のジャッジに助けを求めましょう。何も恥ずかしいことではありません。むしろ、必要なことです。
他のジャッジに助けてほしいときは「Help me!!」ではなく、「Live Call」や「investigation(インベスティゲーション)」と声をかけましょう。ヘッドジャッジの裁定が必要な場合は、ヘッドジャッジに声をかけます。楽しく談笑中でも、遠慮せずに割り込んで構いません。既に別の裁定で対応中であれば、隙を見て次に対応してほしい旨を伝えましょう。
メモを取る
イベントの最中、自分が受けたコールは必ずメモを取っておきましょう。どのようなコールを受けたか、後で見返したりコミュニティに共有したりするのに非常に役立ちます。人間の記憶力は曖昧なもので、ホットなうちに記録しておくことが大切です。コールを捌き終わってフロアを見回しているフリーな時間に、そっと書き留めておきましょう。
イベント後
フィードバックをもらっておく
イベントのフィードバックは、できるだけ早くもらいましょう。人の記憶は薄れてしまうもので、イベント終了直後が一番ホットです。
大型イベントでは、チームごとに活動することが多いです。デッキチェックチームやペーパー/クロックチームなど、区分はさまざまです。自分のチームのメンバーが、最もあなたを見てくれていたはずです。自分の働きによって改善点はなかったか、あのトラブルにはどう対処するのが適切だったのか。その情報を得られるのはイベント終了直後しかありません。「あとで聞こう」はたぶんすぐに忘れます。自分も、チームメイトも。イベント終了後のホットなタイミングで聞いておきましょう。
機密を漏らすな
プレイヤーが知りえない情報は、基本的に機密情報です。
秘密の製品発売スケジュールや今後のイベントの開催情報、そのイベントでの裏事情や特殊な裁定が出た経緯、噂の真実、お忍びで来場していた有名人などです。
ジャッジとして会場にいた間に知った情報の中には、取り扱いに注意が必要なものがたくさんあります。むやみやたらに吹聴してはいけません。
場所をわきまえる
プライベートな場とパブリックな場をはき違えないようにしましょう。
招待制のクローズなパーティーであっても、参加人数や招待の幅、会場によってはそれがパブリックな場になることがあります。また、オンラインでもクローズのチャットルームだからといってプライベートな場とは限りません。他の人に情報が流出する可能性を考慮しましょう。
パブリックな場では、共有してはいけない情報や個人的な見解、私生活に関する内容は控えるべきです。そうしないと、いらぬ誤解を招いたり、不快に思わせたり、あなたの信用を失う原因となります。
プライベートな場で許される言動が、パブリックな場では適切でない場合があります。
問題は抱え込まない
ジャッジ同士のトラブルやイベントで生じた問題について悩みを抱える場合は、適切な場所に報告を行いましょう。風説を流布することは、たとえそれが事実であっても、ジャッジの振る舞いとして望ましくありません。
ハラスメントを受けたり、ジャッジとして不正行為の可能性がある事例は、以下のフォームから報告できます。
また、TO(トーナメントオーガナイザー)に連絡を取ることも重要です。主催者はジャッジが職務を適切に遂行していることを確認する責任があり、ジャッジの判断を覆して不正行為を報告する権限があります。
ここで一つ注意しなければならないのは、裁定を間違えることは不正行為ではない、ということです。ジャッジは裁定ミスをする可能性がありますが、故意に誤った裁定を出さない限り、裁定ミスそのものは不正行為とはみなされません。
なんにせよ、問題だと感じたら一人で抱え込んだり、外に発信してスッキリしたりせず、然るべき手段で適切な対処を取ることが重要です。
外人と同じペースで酒を飲むな
イベントには打ち上げがつきものです。自分のペースで楽しもう。
さいごに
ジャッジは、ルールとポリシーの専門家です。正しく公正なゲームプレイを支える、縁の下の力持ちです。決して、プレイヤーを処罰するためやミスをあげつらうための機械としてイベントに参加するわけではありません。
他のジャッジへの敬意とプレイヤーへの思いやりを忘れず、すべての参加者にとって居心地のよい空間を作り上げましょう。公平性と責任を胸に刻み込み、イベントを盛り上げて楽しむのです。
ジャッジ行動規範を、この機会に確認しておきましょうね。
「どうすればよくなるか」を考えながら行動すれば、きっと成功することでしょう。
この記事で書いたことは、ちょっとしたアドバイスもあれば、人として極々当たり前のこともあります。むしろ当たり前のことばかりだったかもしれません。
ジャッジの活動には、信頼が大切です。小さな積み重ねのひとつひとつで、地道に築いていくものです。しかしながら、崩れるときは一瞬。ほんの些細な気の緩みやボタンの掛け違いで、一気に無に帰すこともあります。
ジャッジは、時に絶大な影響力と権限を持ちます。地道に成功へと積み重ねられたイベントをひっくり返すことができてしまう、大きな力です。プレイヤーの体験を、一気に損なうことも可能です。
するべきでないこと、そして、したほうがよいこと。自分の体験も、他の参加者の体験も、すべてが少しずつでもよくなるように。きっと、ジャッジとしてイベントに参加しようという気持ちのある皆さんなら大丈夫。
私も、もちろん、頑張ります。
ジャッジは、楽しいものです。自分自身が楽しむこと。これが何よりも大切です。たくさんの仲間たちとコミュニケーションを取り、そして楽しみましょう。
それでは、Worldsの会場でお会いしましょう!