
【孫正義 全文翻訳】AGIからASIへ——2035年に実現する人工超知能への野望
2024年10月29日、サウジアラビア・リヤドにあるキング・アブドゥルアズィーズ国際会議センターで開催された「第8回Future Investment Initiative(FII)」にて、ソフトバンクグループ代表取締役会長兼社長の孫正義氏がCNNのリチャード・クエスト氏と対談しました。
孫氏は、人間の1万倍の知能をもつ「人工超知能(ASI)」の実現や、ロボティクスとの融合による新産業の可能性を熱く語るとともに、かつてネットバブル崩壊などで99%の企業価値を失った経験を振り返り、失敗から学んだ教訓や再起のプロセスを明かしています。
規制の重要性や、数兆ドル規模にもなるとされるAI投資の展望を含め、孫氏ならではの大胆なビジョンが示された注目のセッションです。
1. AIに対する興味:孫氏はいまも「人工超知能」に取り憑かれているか
クエスト:「何年もの間、多くのインタビューをしてきましたが、今回ほど質問することに興味を持ったことはありません。会場におられる皆さんも、あれこれ質問を望んでいます。まずはあなたが興味を持たれていることについて。AI、正確には人工超知能(ASI)に取り憑かれていると以前からおっしゃっていましたが、今もなお取り憑かれていますか?」
孫:「間違いなくそうです。それに100%集中しています。」
クエスト:「“それだけに集中している”とは具体的にどのような意味でしょうか?」
孫:「AI、特に超知能は人類の未来を大きく変える可能性を持っています。私が目指しているのは、その未来をより良く、より幸せなものにすること。それが私の最大の関心事です。」
2. AGI(汎用人工知能)とASI(人工超知能)の違い
クエスト:「AGIとASIの違いを分かりやすく説明していただけますか?」
孫:「AGIは、人間の脳と同じレベルの知能を持つと定義されます。人工汎用知能ですね。しかし人工超知能(ASI)の“超”の度合いは人によってさまざまです。10倍、100倍などいろいろな見方がありますが、私の場合、人間の脳の1万倍賢いというのをASIの定義にしています。そして2035年、つまり今から10年後に実現すると予測しています。」
クエスト:「AGIとASIの違いによって、我々は何を期待し、何を懸念すべきでしょうか?」
孫:「期待すべき点は大きいです。一方で、規制も必要だと考えます。あまりに強大な力が規制なしに登場するのは危険です。自動車も人類に有益な産業ですが、規制がありましたよね。同じことです。」
3. 悪用を防ぐには:国家や独立主体による危険なAI
クエスト:「しかし、誰も意図的に危険な自動車を作ろうとはしませんが、AIの場合は害を与えるAIを作ろうとする人がいるかもしれません。どう防ぐのでしょう?」
孫:「確かに悪いことを企む人間はいつの時代もいます。人間の1~2%ほどは悪い奴らかもしれません。ただ、AI、とくに超知能を開発するには数千億ドル規模の投資が必要で、悪用したくてもその資金を手当てできない可能性が高いんです。」
4. 過去の投資と資金:再び大きな挑戦へ
クエスト:「以前、AGIの開発に関われなかったのはお金が足りなかったからだと仰っていましたよね。」
孫:「そうです。お金は有限です。大きなチャンスに備えるため、資金を貯める必要がありました。今は数百億ドルを備えて、次の大きな一手に挑もうとしています。」
クエスト:「その大きな一手の方向性はどこにあるのでしょう?まだ設立されていない企業かもしれませんが、強いビジョンがあるのですか?」
孫:「ええ、あります。」
クエスト:「教えていただけますか?会場の皆さんも興味津々です。」
孫:「私の見方としては、まずArmが中核企業になります。世界のモバイルフォンチップの99%、ほぼ100%に近いシェア、そしてハイエンドAIやIoT向けチップなどでも90%ほどのシェアを持っています。ArmはこれからAI中心のチップカンパニーになるでしょう。それと、ロボティクスにも強い関心があります。旧来型のロボットではなくAIロボティクス。人工超知能とロボットが結びつけば、ものすごい製品になると考えています。」
5. 成功と失敗:WeWork、Alibaba、そして再挑戦
クエスト:「あなたの興味深いところは、すでに大きな成功を収め、失敗も経験し、また再挑戦している点ですね。WeWorkの件を持ち出す人も多いですが、あなたの財務規模から見れば比較的小さな話だとも言われています。気になりませんか?」
孫:「人々には自由な意見があります。私は失敗から多くを学びます。2回ほどほぼ破産しそうになりました。ネットバブル崩壊後、そしてリーマンショックの時。その時は会社の価値の99%を失ったのですが、なんとか復活できました。」
クエスト:「価値を失った原因は、リスクの取りすぎでしょうか?あるいは愚かな判断、不運が重なったのでしょうか?」
孫:「愚かなミスを大きく犯したとは思いません。インターネットへの期待が過剰すぎた時期に、評価が崩壊したのがネットバブルです。その後、インターネットは以前にも増して発展していきました。ですから私自身の方向性を後悔してはいません。」
6. NVIDIAへの見方と市場評価
クエスト:「AIを語る上でNVIDIAの話が出ます。『NVIDIAはPRばかりで実態が追いつかない』とか『市場の過大評価だ』と言われたりもしますが、どのように思いますか?」
孫:「私はNVIDIAはまだ過小評価されていると思っています。なぜなら将来はもっと大きくなると確信しているからです。市場は四半期決算など短期的な視点に注目しがちですが、AIの未来はそれだけでは計れません。」
7. AIの未来:投資規模とリターン
クエスト:「AGIやASIの将来の価値はどうなるのでしょうか?今はバブルだと懐疑的に見る人も多いですが。」
孫:「批判的な意見として、『10年後のAI、ASIが実際に役立つのは5%程度で、残りの95%は変わらない』という人もいます。では仮にそうだとして、その5%を支えるASIのためには何が必要か考えましょう。私の予測ではAIデータセンターだけで400ギガワットの電力が必要になり、チップが2億個必要になる。累積設備投資は9兆ドルに達する計算です。」
クエスト:「9兆ドルというのは、あまりに大きすぎるようにも感じますが、回収は可能でしょうか?」
孫:「世界のGDPからすれば、9兆ドルは十分に投資しうる規模です。AIが年間9兆ドルの価値を生み出せば1年で投資回収できますし、利益率が50%なら4兆ドルの純利益になります。新しいAGI企業が4社あれば、それぞれ1兆ドルの利益を得る計算になります。そして私は、その1社になりたいのです。」
8. 孫氏の評価:投資のグルーか?
クエスト:「ここにいるAI(チャットボット)に『孫さんは投資のグルーか?』と聞いてみました。答えは『Alibabaへの初期投資2000万ドルが2014年までに750億ドルに成長するなど大きな成功を収めた一方、他の投資には成果がばらつきがある』とのことです。これについて何か感想はありますか?」
(※孫氏は特にコメントせず、次の質問へ)
9. 内省と今後の展望
クエスト:「最後に、困難な時期の後に姿を消し、内省の時を過ごされたと聞きます。その期間、何を学ばれたのでしょう?」
孫:「打ちのめされ、笑われ、批判される経験は、とても良い学びの機会でした。より深く考え、もっと強くならなければと感じさせてくれます。夜には心配ごとがあっても、朝起きると笑顔になれる。それが私の性分です。」
クエスト:「本日はありがとうございました。皆様、孫さんでした。」
孫:「ありがとうございました。」