【連載: AI×少人化 #2】ホワイトカラー業務を“丸ごと”変革するAIエージェント──部分最適なデジタル化では勝ち続けられない理由
”「ツギハギのデジタル化」で本当に生産性は上がるのか?
「デジタルツールを導入したのに、なぜか社内のムダな業務が減らない」。そんな声をよく耳にします。メールのやり取りは効率化されたはずなのに、会議前の資料づくりは増える一方──部門ごとにシステムを導入した結果、結局は「Excelバケツリレー」がやまないケースも少なくありません。こうした場当たり的に導入された部分最適のデジタル化では、生産性もコスト削減も思うように実現できないのが実情です。
海外の先進企業では、業務プロセスを完全にソフトウェア化し(=自働化)、定型業務を「手間ゼロ」「所要時間ゼロ」「差分コストゼロ」「ミスゼロ」の“4ゼロ”で運用する仕組みが当たり前のように採用されており、常に全社レベルでの最適化を視野に入れた運用が実現されています。
逆に日本企業は、ピンポイントでのIT導入やツールの入れ替えには積極的ですが、「どのように会社全体で最適化するか」という視点が抜け落ちがち。その結果、大量のグレーゾーン業務に時間や労力が吸い取られ、やってもやっても生産性が上がらないという悪循環に陥っているのです。
“エクセルバケツリレー”撲滅がホワイトカラーDXの第一歩
ソフトウェア化こそ“自働化”の鍵
部分的にシステムを導入しているだけでは、人が複数のファイルやアプリを行き来してコピペに追われる状態は根絶できません。とくに“Excelバケツリレー”は、その象徴的なムダです。数字の整合性を取るためだけに手作業でファイルをつなぎ合わせると、時間・ミス・コストが積み重なるだけでなく、社員の成長意欲をも削ぎ、生産性向上にもつながりません。
一方、ホワイトカラーの定型業務をソフトウェア化し、データを「ワンファクト(ひとつの真実)」「ワンプレイス(ひとつの保存場所)」「リアルタイム」で運用すれば、エクセルやメールを介したバケツリレーは不要になります。指示されたロジック通りにソフトウェアが自動で集計・照合・通知をこなす状態こそが“自働化”なのです。
全社最適化が必要な3つの理由
部門間連携のミスマッチが消えない 部門ごとに異なるシステムやファイル形式を使い続けると、情報の重複や不整合が避けられず、あちこちに散らばったデータを取りまとめるための“共通言語”がない状態になります。
グレーゾーン業務が温存される 本来は“やめていい”作業でも、惰性や昔からのルールで継続される場合が多いものです。上層部が「やめてもいい」と明確に言わなければ、現場は遠慮して手を止められません。
部分導入ではAI活用が進まない AIエージェントに仕事を任せようにも、データが正しく一本化されていないと分析しにくく、結果的に導入効果を半減させてしまいます。
“社内コンサル集団”をつくり、横串で変革を進める
「全社最適化をやるべき」と声を上げても、どの部門の誰が旗を振るのかが曖昧なら、どうしてもスピードが鈍化します。そこでポイントになるのが、「業務変革を専門に進める部署」を置くことです。これは一時的なプロジェクトチームではなく、恒常的な組織として位置づけるのが理想的です。
業務変革担当は“社内コンサル” 自部署の既得権益や個人の思惑に流されず、全社視点でプロセスを再設計し、ツールの選定から導入・運用までを主導する。
部門長の役割は“やめていい”を決断すること 現場が動きやすいように「これはもうやめよう」「ソフトウェア化したので、今後は紙の報告書は要らない」といった具体的な指示を出す。
経営者自身が最終責任者として、この“横串集団”の活動を後押しすると、部門間の壁を突き崩せる大きな力が生まれます。逆にここを曖昧にしてしまうと、社内政治で互いの足を引っ張り合い、「うちのやり方は変えたくない」という声が勝ってしまうのです。
「3%の改良は難しいが、3割の変革なら簡単」?
従来、「少しずつ現場を改善(カイゼン)すれば生産性が上がる」と言われてきましたが、あえて逆説を唱えるなら、部分的なカイゼンこそ最もコスパが悪いのです。
なぜなら、
現場は勝手に仕事を“やめられない” 上司から「もう不要だからやめていい」と指示されない限り、どんなにムダだと思っていても切り捨てづらい。
ちまちました改善では慣性を断ち切れない 根幹である“全社レベルの仕組み”を変えなければ、結局は似たようなプロセスが残り続けます。
むしろ思いきって「3割変えよう」と腹をくくったほうが、“これまでのやり方をそっくり入れ替える”発想が生まれ、大きなレバレッジが働きやすいのです。つまり、「3%改善」より「30%変革」のほうが、かえって実行しやすい場合もあるということです。
全社システム一元化と“グレーゾーン廃止”のセット導入
では、どうやって“部分最適”から“全社最適”にシフトするか。以下の5つのステップで整理します。
業務マッピングと“価値のない”業務の特定
各部門が担当するプロセスを洗い出し、“価値を生まないグレーゾーン作業”をリストアップ。全社システム(ERP・クラウド基盤など)の導入方針を明確化
「ワンファクト」「ワンプレイス」「リアルタイム」の原則で構築し、必要なデータはすぐに共有できる仕組みをめざす。経営者・部門長が“やめる”権限を宣言
「報告書はすべてデジタルでOK」「会議資料は1枚に絞る」「根回し禁止」など、思い切ってハードルを下げることで現場に安心感を与える。“社内コンサルチーム”による横断的なプロセス再構築
AIエージェント「ドットAI」やコラボツール「Lark」を中心に運用し、定型業務はソフトウェアに肩代わりさせる。一方で非定型業務に人員を移す。KPI・利益率で効果測定し、成功事例を“横展開”
短期的には手戻りや反発が起こることもあるが、月次・四半期ベースで利益率と人数の関係を可視化し、生産性向上を部門間で共有する。
“部分最適”のデジタル化では、この先勝ち続けられない
これまで「ちょっとずつカイゼン」を積み重ねてきた企業でも、部門ごとに似たようなプロセスが重複していたり、“やらなくていい”業務が温存されていたりするケースは多いものです。
部分的なデジタル化で満足してしまうと、せっかくAIやチャットツールを導入しても、大きな成果にはつながりません。 今こそ、全社横断で仕組みを組み替え、定型業務を徹底的にソフトウェア化する絶好のタイミングです。
私たちは「AIエージェント革命コンサル」として、単純作業を4ゼロ化し、社員がより創造性や付加価値の高い業務に集中できる方法論を提唱しています。「3%の改良ではなく、30%の変革」を目指して、思いきって業務フローを一元化してみてはいかがでしょうか。
日本企業には依然として強い現場力があります。そこに全社最適なデジタル基盤を掛け合わせれば、海外企業に引けを取らない競争優位を築くことも十分に可能です。
ツギハギのデジタル化で終わらせず、決定権者が “丸ごと変える”決断を下せるかどうか。それこそが、今後の日本企業が生き残れるかどうかの大きな分岐点なのではないでしょうか。