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リモートワーク・女性活躍・ワーケーションの最前線——先駆者・白浜町に学ぶ!DXで変わる地方の働き方

和歌山県白浜町は、もともとリゾート地として全国的な知名度を誇るエリアですが、近年はIT企業の誘致リモートワーク環境の整備で大きな注目を集めています。

特に2015年に米セールスフォース社がサテライトオフィスを開設して以来、複数の企業が続々と進出し、町内のWi-Fi網の無料開放やサテライトオフィスビル「ANCHOR」のオープンなど、DX(デジタルトランスフォーメーション)を積極的に取り入れた取り組みを次々と展開。いまや「地方テレワークの聖地」とも呼ばれるほどの成功を収めています。

国土交通省 環境庁(和歌山県白浜町)事例
~サテライトオフィスで実践する地域と密接に関わる新しい働き方~

一方、白浜町以外の地域でも、自治体がDXを活用しリモートワークの導入やワーケーション推進、さらには女性がキャリアを中断せずに活躍できる環境づくりを進める事例が増えています。自治体の担当者にとっては、自分たちの地域でどのように“次の一手”を打てるのか、成功事例から得られるヒントが数多く存在します。

本記事では、自治体内部のテレワーク推進や住民向けのICT環境整備、女性活躍を促すDXの活用、そしてワーケーションの最先端事例までを幅広く紹介します。ぜひ、これから取り組みを加速させたい自治体担当者の方々に向けて、参考になれば幸いです。




1. 白浜町の先進事例に見る、自治体主導のDX活用

1-1. リゾートを活かしたサテライトオフィス誘致

白浜町が「地方テレワークの聖地」と呼ばれる背景には、観光地ならではの魅力と、町を挙げてのIT企業誘致戦略があります。もともとビーチや温泉などリゾート施設が豊富で、年間を通じて観光客が多い町でしたが、2000年代以降、県が主導してIT企業を誘致。2015年にセールスフォース社がサテライトオフィスを設置したのを皮切りに、大手企業が次々と進出し、人材が長期滞在して仕事をする環境が整えられていきました。

白浜町は、災害に強い通信インフラを実証実験として導入していた経緯から、町全域のWi-Fi環境を無料開放しており、テレワークしやすい基盤が早々に整っていました。さらに、2019年には民間企業(三菱地所)が進出企業向けのオフィスを整備し、2020年には町と県の補助金を活用して新たなサテライトオフィスビルをオープン。こうした官民連携によって“働く環境”と“余暇を楽しめる観光資源”の両立が実現し、ワーケーション目的の訪問や移住希望者も増加しています。

1-2. 官民連携で補助金や施策を充実

白浜町の事例が示唆するのは、自治体が主体的に動き、企業の参入意欲を高める施策を展開することの重要性です。たとえば補助金制度を活用し、新規オフィス開設への初期投資を支援する取り組みを行うことで、企業側のリスクを大幅に軽減できます。

また、自治体内部でもテレワーク導入を進めつつ、移住支援窓口や地域コミュニティとの交流支援など、住民と企業・外部人材をつなぐパイプ役を積極的に担うことで、町全体の魅力を発信できます。結果として、白浜町のように「DXを活用して地域活性化を図る姿勢」が高く評価され、さらなる企業誘致と観光振興の好循環を生み出しているのです。


2. 自治体内部のリモートワーク導入――事例から学ぶ鍵ポイント

2-1. 長野県松本市や徳島県庁の先駆的取組

自治体がリモートワークを導入する意義は、感染症対策や災害時の業務継続だけでなく、職員のワークライフバランス向上庁内業務の効率化にもつながる点にあります。たとえば長野県松本市では、管理職から段階的に在宅勤務を始め、各部署へ拡大する際に「担当業務の見える化シート」を作成。これにより、在宅で対応可能な業務と対面が必要な業務を整理し、業務プロセスの大幅なデジタル化を実現しました。

また、徳島県庁では2014年に「サテライトオフィス勤務」、2016年には「在宅勤務」を導入。2年連続で150人規模の職員がテレワークを実施しており、情報セキュリティ面やコミュニケーション課題を随時アップデートしつつ、ペーパーレス化オンライン会議の浸透など、DXを活用した働き方の最前線を走っています。

2-2. 静岡県掛川市のコスト低減モデル

予算の制約が大きい自治体でも、創意工夫次第で短期間・低コストにリモートワーク環境を構築できる例があります。静岡県掛川市では、市町村合併後に使われなくなった旧庁舎の会議室を職員向けサテライトオフィスに転用。持ち合わせのPCを利活用することでイニシャルコストを抑え、職員の移動時間を削減しながら業務を進める仕組みを整えました。こうした柔軟な発想は、多くの自治体が抱える「スペースの有効活用」や「財政負担の軽減」といった課題の解決策として参考になります。

2-3. 成功のポイント――全庁的なDX推進と意識改革

自治体内部のリモートワーク推進では、職員の意識改革DXを推進する体制づくりが重要です。情報セキュリティの確保や紙書類の削減、労務管理の見直しなど、庁内文化に深く根差した慣習を変えるには、トップダウン型の強いリーダーシップと、全庁的な合意形成が不可欠です。総務省も「地方公共団体におけるテレワーク推進のための手引き」を発行し、市町村の事例集を公表しているので、ガイドラインを参考にしながら計画的に導入を図ると、スムーズな移行が期待できます。


3. 地域住民向けのテレワーク拠点と企業誘致

3-1. 神山町(徳島県)の古民家オフィスとコミュニティづくり

自治体がリモートワーク環境を整備するメリットは、庁内業務だけでなく住民や外部企業の受け入れを通じて地域経済を活性化できる点にあります。徳島県神山町は、過疎地ながら光ファイバー網を整備し、東京のIT企業Sansanを誘致。

「古民家オフィス」というユニークな拠点づくりで話題を呼び、2011年以降、多数のIT企業が町内にサテライトオフィスを設置しました。その結果、移住者や長期滞在者が増え、新規開業の飲食店や宿泊施設が続々と誕生。地域コミュニティと企業、移住者が一体となった“まち全体のDX化”が進んでいます。

3-2. 美波町(徳島県)の「朝釣り→仕事」ライフスタイル発信

神山町の成功に続き、徳島県美波町や三好市、美馬市などでも企業誘致が盛んです。美波町では企業「あわえ」が中心となり、「朝、海で釣りをしてから仕事」「昼休みに子どもとご飯を食べる」など、地方ならではの豊かな暮らしとリモートワークの両立をSNSやイベントでアピール。

若年層を含む移住者や都市部企業のサテライトオフィスが増加し、新たな関係人口を作り出しています。自治体担当者としては、こうしたライフスタイルの具体的なイメージを発信することで、単に「企業を誘致しましょう」という呼びかけだけでなく、“この町で働く楽しさ”を鮮明に打ち出せる点が大きなポイントとなるでしょう。

3-3. 鳥取県や北九州市の取り組み

さらに、鳥取県では県を挙げてテレワークを軸とした副業人材の受け入れやワーケーション誘致を進め、「企業から選ばれる自治体」を目指す戦略を掲げています。

また、福岡県北九州市では特徴のあるコワーキングスペースを設置し、スタートアップ企業を招致。若者のUターンやIターンを促進することで地域の活力を高める狙いです。どちらの自治体も「DXを活かした働き方の多様化」が新たなビジネスチャンスを生むとの見立てから、積極的に施策を展開しているのが特徴です。


4. 女性活躍推進のDX活用――育児・介護と仕事の両立を支援

4-1. 山形県酒田市:女性フリーランサー育成の成果

地方では、若年女性の流出や出産・育児後の離職が課題となっています。そこで注目されるのが、在宅やサテライトオフィスで働ける仕組みを作ることです。

山形県酒田市は「日本一女性が働きやすい街にする」というスローガンを掲げ、産業振興センター「サンロク」を拠点に女性フリーランサーの育成プログラムを開始。ITスキルやRPA(業務自動化ツール)の研修を受けた女性たちが、地元企業や全国の企業からリモートで仕事を受注できるようになり、地域企業の生産性向上にも寄与しています。

この事例から学べるのは、女性が「地域にいながら高度な仕事」を請け負えるようにすることで、離職防止地域経済への貢献を同時に達成できるという点です。自治体担当者としては、地元の教育機関や民間研修サービスと連携してスキルアップ機会を提供することで、“在宅ワーカー”として活躍する女性を増やす戦略が可能になるでしょう。

4-2. 石川県羽咋市:女性テレワーカー育成プログラム

石川県羽咋市が取り組んだ「女性テレワーカー育成プログラム」は、2022年度の「地方創生テレワークアワード」にて地方創生担当大臣賞(最優秀賞)を獲得した成功例です。約半年かけて在宅ワークの基礎知識から実践までを学ぶカリキュラムを組み、地元企業とのマッチングを行うことで、受講者がリモート勤務を本格化しやすい環境を整えました。

このプログラムが評価されたポイントは、自治体と民間企業が協働し、研修から就業後のフォローまで一貫して支援したことにあります。受講者が企業と直接契約するケースや、地域のコミュニティ内で新たな事業を起こすケースなど、多様な就業スタイルが生まれ、結果的に地元で暮らし続ける女性を増やすことに成功。自治体としても人口流出を緩和し、活気あるコミュニティ形成につながっています。

4-3. 職員向けの育児・介護配慮制度

女性のキャリア継続には、自治体内部の制度整備も欠かせません。総務省自治行政局公務員部の「女性活躍・人材活用推進室」では、在宅勤務とオンライン会議を組み合わせて育児や介護と仕事を両立する先行事例を共有しています。

特に時差出勤や短時間テレワークを導入している自治体や、「会議への参加はオンラインでOK」というルール化などは、女性職員だけでなく全職員の働きやすさを向上させる効果があります。結果的に人材の定着率が高まり、人材育成コストを削減できる面も大きいでしょう。


5. ワーケーション(Workation)で地域を活性化

5-1. 白浜町をモデルとしたワーケーション誘致

改めて白浜町の事例に目を向けると、リゾート地のイメージを生かしてワーケーション目的の長期滞在を促すのが大きな成功要因の一つです。

都市部の企業が社員研修やプロジェクト合宿として利用するだけでなく、ファミリー層が「平日はテレワーク、週末は観光や温泉を楽しむ」という新しいライフスタイルを求めて訪れています。こうした需要に合わせて宿泊施設や地元飲食店が平日プランを強化し、地域経済への貢献度が高まっています。

実際に、白浜町にはセールスフォース社をはじめとする大手企業のサテライトオフィスが複数設置されており、社員がシフト制で滞在・勤務することで一定の滞在人口が確保される仕組みが整っています。自治体担当者としては、「自地域の強みは何か?」「どんな企業・人材に刺さる魅力があるか?」を改めて見直し、観光や地域産業と連携してワーケーションを促進する戦略を検討するのが重要です。

5-2. 長野県や北海道の取り組み

長野県では「信州リゾートテレワーク」と銘打ち、各リゾート地の旅館・ホテルが高速Wi-Fiやワークスペースを充実させるとともに、「信州リゾートテレワーク実践支援金」を活用して宿泊費を一部負担。企業が合宿や研修を兼ねてワーケーションを利用しやすい体制を整備しています。さらに勉強会や設備投資補助なども実施し、受け入れ環境の質を高めることでリピーターを増やす狙いです。

北海道では「25地域連携のワーケーションプラン」を打ち出し、広大なフィールドを移動しながら複数拠点で仕事と観光を楽しむ「循環型ワーケーション」を提案しています。地元農業とのコラボやスマート農業の視察、アウトドア体験など多彩なメニューを組み合わせられるため、企業が研修プログラムとして取り入れるケースが増加。自治体公式サイトで「北海道サテライトオフィス・テレワーク拠点ガイドマップ」を公開するなど、自治体主導で情報を一元化しているのも大きな特徴です。

5-3. 課題と今後の展望

ワーケーションは自治体・利用者双方にメリットをもたらす一方、通信インフラや宿泊施設の整備, 地元住民との共存, 長期滞在から移住につなげる仕掛けなど、乗り越えるべき課題も少なくありません。特に、急増するリモートワーカーと地域住民の交流を促進し、互いのライフスタイルを尊重し合う関係を築くことが重要です。各自治体が独自に「コミュニティづくりイベント」や「体験プログラム」を企画し、単なる“長期観光客”で終わらない仕組みを作ることが、持続的な地域振興につながります。

国も「デジタル田園都市国家構想」でテレワーク拠点整備や関係人口創出を後押ししており、これから多くの自治体がワーケーションを活用した地域活性化に取り組むでしょう。その際、白浜町や長野県、北海道のように「地域の強み×ITインフラ×受入体制」三位一体での戦略を描くことが鍵になります。


6. DXを活かした地方創生の今後――自治体担当者への提言

  1. 全庁的なDX推進体制の確立
    リモートワークやワーケーション、女性活躍支援を行うためには、庁内の業務デジタル化が不可欠です。情報セキュリティのルール作りや紙書類の削減はもちろん、職員がICTを前提とした働き方に移行できるよう、意識改革と実務支援を同時に進めましょう。

  2. 地域特性に合った戦略の策定
    白浜町のように“リゾート”を打ち出すのか、神山町のように“山間の古民家オフィス”をウリにするのか、あるいは美波町のように“海辺の暮らし”を提案するのか。自地域の自然、文化、産業などを活かし、どう働けるのかを具体的に想像できる戦略を描くことが大切です。

  3. 女性と若年層が活躍しやすい仕組みづくり
    育児や介護があってもキャリアを継続できるリモートワーク制度や、在宅就労者を育成する研修プログラムを整備することで、女性や若い世代の流出を抑えることが可能です。自治体としては地元企業や教育機関、民間研修サービスとタッグを組み、長期的視点で取り組みましょう。

  4. 官民連携で受け入れ環境を強化
    サテライトオフィスの整備や補助金制度の導入、長期滞在者向けのサービス開発など、民間企業との連携でスピーディに進められる施策が数多くあります。新規参入企業やスタートアップとWin-Winの関係を築き、地域が一丸となってDXを推進する仕組みがポイントです。

  5. お試し滞在から移住・創業へ誘導するプロセス設計
    ワーケーション利用者は短期~中期滞在に留まるケースが多いですが、その中から“いつか移住したい”という層を掘り起こし、二拠点居住や将来的な定住・起業につなげられるよう工夫すると、地域に与える経済効果や人口維持効果が飛躍的に高まります。教育面でのサポートや住居補助制度など、多角的な施策展開を検討してください。


まとめ:DXで変わる地方の働き方、いまが行動の好機

白浜町の取り組みに象徴されるように、地方自治体がDXを積極的に導入し、リモートワークやワーケーションを推進することで、都市部に負けない働き方の魅力を打ち出すことが可能になりました。さらに、女性の就労支援や副業人材の受け入れなど、多様な働き方を取り入れることで、人口減少や若者流出といった喫緊の課題に対しても新たな解決策が見えてきています。

もちろん、通信インフラの整備や職員の意識改革、地元住民との調和など、克服すべきハードルは少なくありません。しかし、総務省や各種交付金、自治体間での情報共有など、利用できるサポートは着実に増えています。国の「デジタル田園都市国家構想」も後押しとなり、今後ますますリモートワークやワーケーションを軸にした地域活性化は広がっていくでしょう。

自治体の担当者の皆様にとって、いまはまさに行動の好機です。「自分たちの地域が持つ強みは何か?」「どんな人・企業に来てもらいたいのか?」「女性や若者が働き続ける仕組みをどう作るか?」──これらの問いを深掘りし、DXを活用した具体的な施策を描くことが、成功への第一歩となります。白浜町や神山町などの先行事例をさらに研究し、自自治体の事情に合わせてアレンジすることで、新しい時代の地方創生モデルを築き上げることが十分に可能です。

DXが変える地方の働き方。テレワーク、ワーケーション、そして女性活躍や副業人材の受け入れなど、多彩な要素が組み合わさって、各地域に新しい風が吹き始めています。自地域の未来を切り拓くためにも、ぜひ今回ご紹介した事例とポイントを参考に、さらなる一手を検討してみてください。


参考資料(一部抜粋)

  • 総務省「地方公共団体におけるテレワーク推進のための手引き」(令和3年4月)および「テレワーク取組事例集について」(令和元年7月)

  • One人事コラム「自治体職員のテレワーク|課題や実施状況、事例を紹介」

  • Worker’s Resort「地方型サテライトオフィスの動向と成功事例」

  • 株式会社イマクリエ公式note「女性テレワーカー育成プログラム」(羽咋市事例)

  • ほか、自治体公式発表・ニュースリリース・民間調査レポート など

(上記は内容のごく一部を要約したものです。詳細は各自治体の公式サイトや関連報道、内閣府・総務省の情報なども合わせてご参照ください。)

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