【そ】 「そこそこでいいからさ」これが一番難しい仕事だったりする。
僕の社会人人生は既に27年目になっている。ずっと同じ会社にいるので、よく飽きないな、と自分でも思わないでもないが、まあそれなりに好きなようにやらせてもらった感じもあって、あんまり後悔みたいなものもないし、今はマレーシアに赴任しているんだけど、海外でいい経験もさせてもらっているから、不満といえば給与が安いぐらいで、これは社会人の99%が思っていることでもあるんだろうと思う。
僕は今年で50歳になったんだけれど、20代の頃は無茶苦茶な仕事の依頼がたくさんあった。
広告や広報、セールスプランニングも含めた、マーケティング全般を担当する部門だったので、若い頃は営業が得意先に持っていく企画書を一手に引き受けていた時期もあった。
前のnoteにも書いたことがあるんだけれど、僕は若い頃から、頼まれた仕事は「できそうだったらやる」し、「できそうもなかったら断る」というスタンスを取っていた。
優秀な制作会社のスタッフなんかは、仕事を受注している大手の代理店から無茶苦茶な発注があっても、なんとか間に合わせるという選択をしないといけないこともあるのかもしれないけれど、僕の場合は社内だったし、それで直接的に利益を失うということでもなかったので、こういうスタンスが取れたんじゃないかと思う。
だから僕は仕事を頼まれて、依頼してきた人が「じゃ、よろしく!」って言って飲みに行っても全然気にならなかった。そもそも自分で「やる」って言ったわけだし、依頼された方向に納得して、後は頭と手を使うだけで、余計なことを考えなくても資料の完成が見えているからだ。その人が隣にいる必要もないし、むしろ邪魔になるし。
この「できそう」と「できそうもない」仕事との間にある差は、もちろん時間的な制約なんかもあるんだけど、それ以上に、頼んでくる方の態度に多分に左右される。
いちばん重要なのは、「営業マンがお客様に対して何を提案したいのか」がハッキリしているかどうか、という一点に尽きるような気がする。
ここがハッキリしていると、営業もお客様も僕自身も様々な施策や可能性を議論することができるので、結果的に「いい企画書」が出来上がる。
逆にここがハッキリしていない人だと、最初から資料を見たあとに判断しようとしているから、資料を作る方からすると、判断材料を提示するような資料にならざるを得ないので、完成途上の提案書にしかならない。こういう状況で提案のゴールを求められても、そもそも無理な話なので、こういうのは典型的に「できそうもない」ことになるから、断る。
議論も不足しているし、なによりゴールイメージがないから、そんな段階では企画書の制作なんて無理だからだ。
僕が勤めているコンドーム会社の市場環境では、自社の商品を売り込むということは、必然的に競合他社のシェアを奪い取るということにしかならない。日本では少子高齢化がすごい勢いで進んでいるので、市場は当然縮小傾向にあるから、市場拡大分を自社で奪うという戦略は立てれらないからだ。
しかし営業マンというのは、競合他社との付き合いというのもあって、ここは理解するのだけれど、あまり競合に不快に映るような提案をしたくないという感情も生まれる。
市場が縮小している中で、自社の利益を上げたい、でもあんまり競合他社を刺激したくもない。
この環境を念頭に置いていない営業マンは、「そこそこでいいからさ、かっこいい企画書を作ってくれないか?」という依頼をしてくる。
つまり売上は上がるんだけど、あんまり競合を刺激せずに、みんがが喜ぶような、いい感じの提案を考えてくれないか、ということだ。
これは、相当に難しい仕事である。
「売上が上がる」という結果はキチンと数字になって出るから成果がわかりやすいんだけれど、「あんまり競合を刺激しない」というのはあくまでも人それぞれで尺度が違うから、これがものすごくわかりずらい。また、その営業マンの尺度ではOKと判断しても、競合がクレームを言ってくるようなケースもあるし、逆のケースもあり得るわけだ。
また競合を刺激するような強い施策のほうが売上に直結するというは理の当然なので、そもそも論として成立が難しい。
いまでも強く印象に残っているのは、営業部長から「売れる商品と売れる企画書を作ってよ!そうすれば売れるからさ!」と明るく言われたことだ。
若い頃にこういう経験をたくさんしているので、僕は人生において自分が「そこそこ」にならないように気をつけているし、もっというと「そこそこなんてクソ喰らえだ」と思っている。
「新しくできた焼き鳥屋、そこそこだったから今度行ってみません?」
「うちの商品、市場ではそこそこの評価を得てるんですよ!一度検討してみてもらえませんか?」
「若手の社員で、そこそこ飲めるやつがいるので、今度いっしょに飲みに行きません?」
ちゃんと美味しい焼き鳥屋をいくつも知ってるし、何でそこそこの商品を買わなきゃいけないのかもわかんないし、そこそこ飲める程度で俺と飲もうっていう根性も気に食わない。そこそこ程度に付き合うほど暇ではないんだよ、俺は。
「今度総務にそこそこ可愛い女の子が入ってきたんですよ。歓迎会に来ませんか?」
これは、行く。