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【ら】 ラーメン食べたい

1984年にリリースされた作詞作曲矢野顕子の名曲「ラーメンたべたい」。
オリジナルよりもこの弾き語りバージョンのほうが好きだ。

違う。矢野顕子は大好きだけれど、彼女の才能の素晴らしさや数々の名曲を紹介したいわけではない。

僕は本気でラーメンが食べたいのだ。

僕はいまマレーシアのイポーというところに住んでいて、滞在歴は6年半ぐらいになる。
日本の会社のマレーシア子会社に赴任しているのだけれど、いまは世界がこんな感じなので、だいたい2年ぐらい日本に帰っていない。

世界がこんなふうになる前は、年に1~2回程度日本に一時帰国していたので、こんなにも狂おしくラーメンが食べたいと思ったことはなかった。

マレーシアではここのところしばらく州をまたぐ移動はもちろん、半径10キロ以上の移動が禁止されたりしていて、さらにレストランは店内飲食禁止で持ち帰りのみの営業だったりする。

こういう壁が高ければ高いほど燃え上がるのが恋なので、もうホントにラーメン食べたい。

海外赴任の経験がある人には絶対にわかってもらえる自信があるけれど、いまや日本食は世界のあらゆる場所にある。

しかし大概のお店は「惜しい・・・」と言わざるを得ない。

海外で美味しい日本食に出会うには、以下のような条件が必要だ。

①日本人のシェフや責任者が常駐していて、味を守っている。
②その国の人たちに、日本食が浸透している。
③ある程度お客さんに日本人がいる。
④新鮮な素材が手に入る。

要するに日本食の味がわかる人がそれなりにいて初めて成立するものであって、その味覚に応える料理人の腕と素材が必要だということだ。
この条件をすべて満たすのは、ニューヨークとかパリとかバンコクとか北京とかそういうごく限られた地域しかないので、世界のほとんどの日本食屋が「惜しく」なってしまう。ロンドンは②が圧倒的に欠落しているので、残念ながら日本食は惜しかった。

僕の住んでいるイポーという街は、中華系が多くて中華料理が安くてものすごく美味しい。マレーシアでも「美食の街」として知られていて、世界がこんな感じになる前は、週末になるとクアラルンプールやペナンなどの首都圏から観光バスで食事のためだけに3時間ぐらいかけて来る人たちがたくさんいたぐらいだ。

イポーは100年以上前に、錫(すず)がたくさん取れて、この採掘で経済が豊かになった街である。この時期にこれに目をつけた中国人が本土からやってきて膨大な財を築いたという歴史があるので、イポーには中華系が数多く住んでいる。この時期にこの大富豪たちがレストランを開いて、香港や中国本土からシェフを招いて料理自慢をしたことから、イポーは美食の街になった。

実は、ラーメンを食べる上では、これが致命傷になっている。

マレーシアの麺文化というのは日本に負けず劣らずとても豊かで、朝食の定番の雲呑麺、ラーメンの麺に近い感じの客家麺、歯ごたえがあるうどんのような板麺、揚げ麺のイー麺、ベトナムのフォーのようなクイチャオ、米粉、マレー系が好んで焼きそばにするイエロー麺など様々な麺があって、醤油味や塩味、カレー味やオイスターソース味などそれぞれに合った味付けで、スープ麺にしたり和え麺にしたり炒めたりして食べる。

ちなみにミーゴレンというのは、ミーが麺、ゴレンが炒めるという意味なので焼きそばです。ナシゴレンのナシはご飯なので、炒飯。豆知識。

機会があったらいつかマレーシアの麺料理について紹介したいと思っているが、これらがすごく美味しい上に、だいたい100円から200円の間で食べることが出来る。

誰が一杯700円ぐらいするラーメンを食べるのだろうか。

更にイポーには日本人は恐らく200人ぐらいしかいないので、日本人を相手にしていただけでは商売が成立しない。いくつかあるラーメン屋も現地の中華系が好む味にせざるを得ないから、そのぶんだけ日本のラーメンからは遠ざかっていく。
日本人の舌に合わせたタイカレーをタイ人が食べても惜しいのと同じだ。

また人口の65%を占めるイスラム教徒は豚を食べることが出来ないので、それもまた逆風になっている。とんこつラーメンなんかは悪魔の食べ物だし、彼らはお酒も飲めないから、ビールと餃子のマリアージュを楽しむこともできない。

このように僕の住むイポーは、ラーメンに対してはものすごいアウェーでアゲインストの風が吹き荒れているのである。

でも障壁が高ければ高いほど燃え上がるのが恋なので、もうホントにラーメン食べたい。

youtubeを見ているといつの間にかラーメンを食べている動画を連続で見ていたりするし、そのあとに知らないうちに立ち食いそばをただ食べてるだけの動画を見続けたりもするし、お寿司を食べてるだけの動画だって見てる。なんならとんかつ食べてたりハンバーグ食べてたりする動画だって見てる。

しまった。僕が食べたいのはラーメンだけじゃなかった。コロッケそばやマグロのお寿司、カラッと揚がったとんかつ屋のロースカツや洋食屋さんのハンバーグも食べたい。アジフライも食べたいし鰻も天丼も鯖の味噌煮もぬか漬けも秋刀魚の塩焼きも明太子も食べたい。

恐らく今の時期に海外生活をしている人たちのほとんどが共感してくれるのではないだろうか。

早く世界が元通りになって飛行機に乗れる日が来ることを、そして日本で美味しいものを提供してくれていた外食店が存続してくれていることを願うばかりだ。

※ちなみに写真は大好きな「隠国」のラーメン。神奈川県相模原市の山奥にあります。

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