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孤独の代償
東京に来て早くも40年が経過した。わたしにとって東京は第二の故郷。いや、もはや生まれ育った愛知県に帰ることはない。東京は故郷になった。すでに両親は他界をした。兄弟姉妹も愛知県でそれぞれ家庭を持って暮らしている。
わたしの家庭は千葉県東葛地区にあり、親戚も友人も都内の便利なところに住んでいる。小鳥のようにさまよいながらもなんとか千葉県に巣をつくった。そして40年でなんとか弱いつながりを築いたのである。
いまではそれほどわいわいがやがやとやることもなく、顔見知りの人たちと挨拶を交わすくらい。20年以上同じマンションに住んで挨拶もしない人も多くなった。ふとマンション内ですれ違うと会釈をする。それだけでもよしとしている。会話をすることもない。会話をしてもほとんど意味のないものになっている。
あるオンラインイベントに参加した。オンラインイベントにはもう出ないといったけど、全く出ないということでもない。わずかに残った2~3くらいのイベントにはときどき顔を出すようにしている。やがては間隔をおいていずれ出なくなることだろう。
こんな話題をとりあげていた。新宿歌舞伎町のホストクラブのこと。歌舞伎町にいくとイケメンの男性に会うことができる。町では写真が大きなボードに映っている。見るとテレビに登場するような風貌である。実はこの人たちは俳優でもなくホストクラブの店員である。クラブについて6人が話をした。
わたしも参加の一人で6人の内訳は男性3名、女性3名だった。30分という短い時間であった。比較的女性のほうが発言回数と発言時間が長かった。状況設定と設問はこうである。
新宿歌舞伎町をはじめホストクラブは全国に900ヵ所ある。そこに勤務する男性店員数は2万1千人にも及ぶ。彼らは都会出身でなく地方からきた若い見栄えのいい男性だ。
ホストクラブを利用する客は若い女性だという。店内に入っていくと4人くらいの男性に囲まれる。そのうちのひとりがお酒をふるまう。ホストとしておもてなしをするわけだ。お酒は焼酎、日本酒、ワイン、ビールとなんでもある。会話をはずませる。お世辞を連発する。
お姫様のようですね。お美しい。チャーミングです。とてもかわいいです。これらの言葉を並べてほめちぎり女性客を喜ばせる。女性客はとても居心地がよくなり長い時間過ごしたくなる。長いといっても90分まで。1時間半という課金タイムが決められているようだ。
さてお酒を飲み楽しい会話が終わるころ時間がきて請求書が手元にくる。その値段を見ると3万円と書かれている。つまり、お酒とお世辞。そして見栄えのいい男性4人に囲まれる。ホストクラブで過ごすとこれだけのお金を払わなければならない。これはかなり高い値段をいわざるをえないだろう。
それでも女性客は多いという。中には銀行に借金をして訪れる女性もいるという。どこかからお金をかりてホストクラブに頻繁に訪れる。週1回は必ず行くという常連客もいるらしい。この罠にはまると抜けれなくなってしまう。その背景はなにか。その代償はなにか。抜けるには。
ひとつには利用する女性客。若い女性客には孤独感を感じている人が多いという。コロナで4年間家から出ることがなかった。そこで対面で顔を合わせる機会が減った。するとオンラインイベントでSNSを使って会おうとする。SNSのイベントはデートのようだ。しかしながらそこではかえって孤独感が増してしまう。肌と肌が触れ合う場所ではない。同じ場所で空気を共有しているわけでもない。仮想空間である。
そうして長い期間そのような時期が続く。するといまでも孤立をしてしまっているのではないか。そう勘違いしてしまう。助けてくれる親がいない。寄り添える兄弟がいない。友達にも悩みをうちあけることができない。
そのような中で孤独感が増してしまうとどこにも行き場がなくなってしまう。デートサイトに誘導されていく。そんなときは市が運営する相談所に相談をしたほうがいい。ところがそういうことをせずに歌舞伎町にいってしまうという。
都内では20代の女性には未婚者が多い。将来に不安をかかえている。その不安の元は経済的なものである。また自分にふさわしい男性が周りにいない。4年間大学にいて見つからなかった。職場にはいない。見つけようとしても職場では出会う機会が少ない。
お世話をしてくれそうな人はいない。年配のひとも若い人たちのために面倒なことをしたがらない。関わりたくないからだ。そうなると身近なところへと移っていく。それが歌舞伎町だという。
歓迎をするホストの方も若い女性を搾取することを知っている。意図的に高いお金を請求する。弱みにつけこむ手口である。そういったことをする男性は都内出身ではない。田舎から上京している人たちが多いという。もともとは都内のセレブにあこがれて俳優になりたくて上京したひとたちだ。
しかし俳優にはなれない。歌手やダンサーといった芸能界やうらやまれるような有名人にあこがれて東京にきた。けれども夢はかなわなかった。なれないけど生活のために何かをしなくてはならない。そうするとホストクラブの店員になっていくという。稼ぎがそれほど悪くないためであろう。
しかし利用客の女性はたまったものではない。深みにはまっていく。借金をこしらえはじめて返済金が増えていく。やがてどうしようもなくなるとこうなってしまう。それはイベントに参加してきたひとりの女性がいっていたことだ。
奴隷として売りに出されてしまう。人身売買の道具として売られていく。海外では人身売買をしているところがある。人権はあるはずもない。たとえば中東では人身売買の広告がSNSで行われている。facebookでは人身売買の広告プラットフォームとして広告媒体として使われていた。そのようなところにいってしまうと抜け出ることはできない。50歳まで生きることができないともいわれている。短命である。
新宿区に規制があるわけでもない。ホストクラブというのはいかがわしいもだけど違法行為ではない。健全とはいえないものの、おもてなしという日本文化の一つとして認められている。その形態がどちらかおかしな方に向いてしまった。産業として暴走してしまった。それにより税収入があるため行政もブレーキをかけれない。
暴走を止められずとなるとクラブ内で交わされる会話というのはお世辞だけではすまされない。すべて嘘であり虚実であり罠である。相手が女性客をはめるプロということだ。甘い言葉にだまされてはいけない。それでも多くの女性客はいってしまう。
40年を振り返ってみる。わたしは若い女性が都内でどのような生活をするかはよくは知らない。いろいろな形態をとることがあるだろう。しかしながら周りの人たちを見て話しを聞いてみる。いろいろを不満はあるだろうがこういうことはいえる。パートナーといえる男性を近くで探した方がいい。そしていっしょにいること。長い時間過ごすこと。
結婚という形をとらないかもしれない。法的にパートナーとしていっしょに生活をするという形にはならないかもしれない。ボーイフレンドとしていっしょにいるのでもいいであろう。書類を市役所に提出していないというだけだ。家で一緒に生活をすることで事実婚という形態がある。パートナーと合意できればそのほうがいい。やがては婚姻届を提出する時期が来る。
いっしょにいることは男女にとって気持ちが安定する。犯罪の深みにはまっていかない歯止めの安全装置をどこかで探すことができる。家族を離れて周りの人のことまでお世話はできないというのが現実だ。しかし自分たちのことはできる。近くに誰かがいる。それで行ってはいけないということがわかる。
犯罪だけではない。コロナによって4年間仮想社会に入り込んでしまった。すると精神異常者というのはあちこちに現れる。偏執狂(パラノイア)という症状を持った人たちだ。その対応に行政が追われている事実がある。例えば千葉県千葉市。そこでは市長が毎週のように手紙に署名するという。
その手紙というのは精神科医の診断書が添付されている。精神異常者として認定され普通の生活ができない。反社会的勢力として危害を加える可能性が高いと判断された。すると市長が署名をする。そうして精神病棟へ送られることになる。たとえば海浜幕張にあるゾゾマリンスタジアムの隣の施設がある。
スタジアムのとなりに千葉県総合救急災害医療センターという施設がある。この名称からは一見わからないが実はここには精神科というのがある。つまり狂った人がいくところ。その中にはおそらく変態もいることであろう。
そうあってはならないがありえないことが起こる。孤独は誰でも感じる。そこでなにかまぎらす方策を考える。その行き先が歌舞伎町であるとなると問題であろう。代償は大きい。お金だけではない。長く生きられない。