アメリカの学部留学は4年制単科大学へ
40年前と30年前にそれぞれ学部留学と大学院留学をした。行き先はアメリカであった。名古屋にあるカソリック系の大学に入学したときから留学することは夢見ていた。でも実際に行くまでは長い道のりだった。18歳のときから準備したこともありときどきひょっとしたらできないのではないか。あきらめるようなこともたびたびだった。それでも実際に行ってみるとそれぞれによかった。
それから学部留学のときにたまたま居合わせた友人の影響を受けた。友人たちは皆アメリカ人だった。彼らの考え方はこうだった。学部にきて学ぶのは大学院に進学するためだ。学部だけでは不十分。これが学部で学ぶ理由だという。そのことを聞いたのははじめてだった。4年制というのは大学院にいくための準備に過ぎないのか。
大学を卒業して働く。わたしはそれをあたりまえのように持っていた。ただし彼ら9人の考えははじめから決まっていた。法科大学院に行って弁護士になるか医学部にいって医者になるかのどちらかだった。わたしはあっけにとられた。
わたしはどちらの選択肢も持っていなかったのでまずいったん帰国した。その後大学院に行くことがなぜか忘れられなかった。行くのならばビジネススクールしかない。帰国後6年の準備をして再度留学した。
ただ振り返って学部の留学でもう一度同じようなところにいくかというとちょっと違う。総合大学よりも単科大学がいいのではないかという意見を持つに至った。それをこの文章で書いてみたい。
あるオンラインイベントでアメリカの学部は価値があるのかという話題が上がった。この話題が出る背景としてはいま授業料が高騰している。親が裕福でないとなかなかいけないという事情がある。いったとしても帰国してなかなか年収の高い仕事に就けない。物価高騰もある。ひとによっては大学費用の返済に十年くらいかかる。そういった悩ましい問題がある。
この学部に行く価値があるかという議論にはなかなか結論が出ない。というのは4年制の大学が投資に見合ったリターンを期待するようなところではないからだ。大学はビジネスのようには運営されていない。たとえ投資をするという覚悟でいったとしても大学側がそれに見合ったリターンをとれるように教育していないこともある。
そのためたとえ大学4年間で600万の授業料を支払おうがそれに見合う就職先は自分で探さなければならないだろう。また600万の投資に対して費用対効果を考えることはできない。ファイナンスであれば投資に対して収益率、回収期間、キャッシュフロー、そして現在価値といった尺度を用いる。そんな尺度はだれも使わない。たとえ卒業後の初任給を使っても無理が生じる。新卒がポテンシャル採用にすぎないからだ。
ならばアメリカの学部留学というのはどうしたらいいか。そこでよりいい教育を受けるならば総合大学を避けて単科大学に行く方がいい。その理由は教授、クラスメート、そして学習環境がある。
総合大学と単科大学の違いは何か。総合大学というところはかなり多くの学部を持ってきて研究環境の整っているところである。そのため教授は研究の居場所を求める。総合大学の研究室でじっくり研究することを望む。総合大学というのは研究をするところ。授業というのはどちらかというと研究のおまけみたいなもの。それほど時間を使いたがらない。それより研究をじっくりして論文を執筆し学術誌に掲載されることに注力する。
一方単科大学は教育に重点を置いている。教授といってもどちらかというと指導者に近くて研究論文を重視していない。教育を熱心にする。学習をとおして科目の理解を深めることはもちろん。それだけでなくまともな人間としてどう成長するかをしっかりと見てくれる。しつけが厳しい。教養を身に着ける場としては単科大学の方がよい。
二つ目は単科大学ではクラスや大学がこじんまりとしているためクラスメートと過ごす時間が長い。朝から晩までキャンパスにいてクラスメートと過ごす。キャンパスにある寮で暮らす学生が多い。その方がメリットが高い。というのは親を離れて同じ年齢のクラスメートと過ごした方が成長できるからだ。これが総合大学になるとやたら大きいだけということでクラスメートとも親密になれない。総合大学はマンモス化しやすい。きめ細かな指導を受けられない。一方総合大学というのは大学院としていくところである。
総合大学における注意点はなんとか学ぶ環境はあるにしてもさまざまな誘惑がある。特に総合大学はビジネス化しておりスポーツへの投資が半端なく多い。フットボールは知名度をあげるのに役立つしスター選手がいればそれだけひとが集まりやすい。バスケットボールについてもいえる。9月から1月までのフットボールと11月から3月まではバスケットボール。その試合を総合大学の学部生はスタジアムとアリーナで見ることができる。
試合のある日にはスポーツ観戦にどっぶりつかってしまう。その時間がもったいない。学習環境としては騒がしくてよくない。たまにはでかけてもいいが。
わたしは40年前には学部でミシガン大学を選んだ。そこはよく知られているし学びたいこともあった。しかし総合大学として当時でもキャンパスには教授、学生、職員が3万人がいた。学部としてもマンモス大学だった。100マイル西にいったところに単科大学のカラマズー大学がある。ミシガン州では著名なリベラルアーツの大学のひとつだ。そこの方がよい。
カルフォルニア州ロサンゼルスにはオクシデンタル・カレッジやパモナ・カレッジがある。これらもリベラルアーツの単科大学としてとても質の高い教育を提供している。
お金はかかるものだ。その元をとろうとあまり考えずに留学をしよう。そして単科大学の方にいこう。日本の大学に在籍しているのならアメリカの大学と提携をしているところが多い。まずそれを使ってこじんまりとしたところに1年行ってみるのがよい。