宮田晃志さんと対談
宮田晃志(ミヤタコウシ)
鹿児島の社会人劇団「演劇集団宇宙水槽」代表。山口県出身。鹿児島大学に入学時に、鹿児島大学演劇部テアトル火山団に入部。大学卒業後、2012年に宇宙水槽を旗揚げ。全ての作品の脚本演出を務め、演劇だからこそできる表現方法を模索しながら、SFやファンタジーなど不思議な世界を描く。
はじめて
荒木：僕が宇宙水槽を初めて観たのはBAZU-FES(バズフェス)(※１)でした。宮田さんが初めてヒロシ軍を観たのっていつ頃か覚えてます？
宮田：実は・・・僕がヒロシ軍初めて観たのはDENGEKI(デンゲキ)(※２)でした。
荒木：わ！マジですか！？
宮田：はい。たしか、不思議少年が優勝した年です。ヒロシ軍は何かチキンを揚げている作品だったかな？
荒木：あ、不思議少年が優勝した年は僕が主役とヒロインの二役を演じる『オムニバスエンド』という作品でした。チキンを揚げる作品は次の年のDENGEKIでやりました。ちなみに何目的で熊本まで観に行ったんですか？
宮田：ほんとたまたまです。たまたま熊本に行って、何か演劇やってないかなぁって調べたら、DENGEKIがあってて、お？やってると思って観に行きました。
荒木：奇遇やったんですね(笑)
宮田：でも、不思議少年の前評判はいろいろ聞いていたし、過去に大迫さんが鹿児島にワークショップで来てくれたことがあって、それで知ってはいたんですが、DENGEKI観た時、ヒロシ軍すげぇ～～ってなったのを覚えてます。
荒木：ありがとうございます！
宮田：それで次の年のDENGEKIも観に行きました。
荒木：２年連続観に来てるんですね！
宮田：チキンを揚げる作品のタイトル、何でしたっけ？『ヌカルマ』？
荒木：『まみれまみれ』です。
宮田：もうその作品すごく好きで！ ヒロシ軍みたいに熱い芝居が僕も好きなんで、勝負したいと思ったんですよ～。その後、DENGEKIに宇宙水槽出たら、ヒロシ軍が出場してないと知って、あ～戦いたかったな～ってなりました。
荒木：俺らが出なくなってから、宇宙水槽が2年連続で優勝しましたよね？
宮田：そうです。
荒木：だから、直接的な接点はなかったんですが、宇宙水槽と言う名前だけは知ってて、気になっていましたね。
宮田：なんかヒロシさんが不思議少年と戦うために出場したと言ってて、そのあと追いかけるように劇トツに出てましたもんね。自分もヒロシ軍と戦いたかったんですが……
荒木：でも、劇団ヒロシ軍DENGEKIでは優勝したことなくて、2年連続3位だったような。それでも面白いと思ってもらえてたんすか？
宮田：特に『まみれまみれ』を観たときにそう思いました。
荒木：嬉しいっすわ～。てか、上通演劇まつり(※３)も観に来てくれませんでしたっけ？
宮田：観に行きました。あれ大好きでした。人肉饅頭。
荒木：それが『ヌカルマ』です。女の子がおしりの穴が大好きです～！って叫ぶ芝居。
宮田：ひっどい芝居だなぁ～と思って観てました（笑）
荒木：たしか、あの時に宮田さんが俺に話しかけてくれませんでしたっけ?
宮田：話しかけました！
荒木：その時のことを何故か覚えてまして。鹿児島から熊本まで観に来てくれたんか～みたいな。すごい印象に残ってました。
(※１) BAZU-FES(バズフェス)・・・鹿児島の社会人劇団「劇団鳴かず飛ばず」(通称・ナカトバ)主催の演劇フェス。１か月間の土日にいろんな劇団が出演し、合計１０００人以上動員達成。
(※２)DENGEKI(デンゲキ)・・・熊本でNO.1を決める演劇イベント。会場は、築130年を越える早川倉庫。各劇団が25分の持ち時間の中で演劇作品を上演。お客様の投票により、最優秀作品を決めます。優勝団体には記念盾と「早川倉庫2日間貸切権」が授与される。2012年に初開催。
(※３)上通演劇まつり・・・熊本市内でも古くから賑わいを見せる上通（かみとおり）商店街。古書店・楽器店・文房具店など文化を支える店舗が多くあるこの商店街で、上通の文化をより一層高めていくべく、「上通アートプロジェクト」が立ちあがり、これまでに7つのアートプロジェクトが展開されてきた。そのなかで、熊本市現代美術館と上通商栄会とで発案されたのが「上通演劇まつり」。総合演出に劇団きらら（熊本）の池田美樹を迎え、演劇を観たことがないひとにも楽しめるプログラムに加え、「演劇初心者」としての上通商栄会や熊本市現代美術館の意見も多分に盛り込まれた企画になっている。
そういえば・・・
荒木：一度、劇トツ(※４)でナカトバが出場した時に宮田さん、脚本書いてませんでしたっけ？
宮田：はい。書きました。が、なかなか上手くいきませんでしたねぇ。
荒木：ちなみにヒロシ軍が優勝した年です(2017年)。
宮田：『あいしてる』ですね。あの作品も良かったな～。
荒木：んで、そのあとBAZU-FESでした！もうそれ以来、会ってなかったですっけ？
宮田：そうですね。去年、宇宙水槽が劇トツに出た時に、本当はお会い出来るはずだったんですが……
荒木：あ、そうでしたね！ 2020年はコロナで延期のため映像配信の特別版になって、2021年にやっと宇宙水槽観れると思ったら、まさかの俺がコロナ陽性なってしまって、司会出来なかったんですよね。だから、結局、俺は宇宙水槽を観れてない。
宮田：ちゃんとした芝居は観てもらえてないですね。見事にすれ違ってます。
荒木：ですね～。でも、宇宙水槽の活躍ぶりはSNSを通して、いつも拝見してて、ずっと気になってました。なのに全然ご一緒する機会もなく、ここまできましたね～。
宮田：ほんとですね。
荒木：去年、劇トツにはじめて出場してみてどうでした？
宮田：自分のやりたい事はやれたんですが、なんかやりづらかったですね。みなさん良い人ばかりなんですが、どうしてもアウェイ感を感じてしまって。
荒木：なるほど。脚本・演出でしたよね？
宮田：あ、でも、急遽役者が濃厚接触者で来れなくなり、自分がやることになって出ました！
荒木：わ！？ それは大変でしたね！
宮田：はい～。
荒木：宇宙水槽の作品って、いつも出演してる役者が多いイメージなんですが、劇トツでは役者3人までというルールがあるじゃないですか？
宮田：はい。だから、なかなかやりにくかったです。まぁ、それはルールなんで仕方ないことなんですが。
荒木：しかも、トップバッターじゃなかったですっけ？
宮田：トップバッターでした（笑）
荒木：それはきついですよ。俺も2016年と2019年の劇トツでトップバッターだったんすけど、ダントツ最下位でした。てか、今、気付いたんですが、宮田さんって、けっこうヒロシ軍の作品を観てくれてますよね！
宮田：はい。もう機会があれば観るようにしてます。ただ本公演だけまだ観れてなくて、短編作品が多いです。
荒木：ヒロシ軍自体が本公演をなかなかやらなくて、長編の新作はもう6年ぐらい新作書いてないです。逆に宇宙水槽は短編公演より本公演を主にやってますよね。
宮田：ですね。90分〜2時間くらいの長編を作ってますね。ドファンタジー、SF。
荒木：舞台セットとかめちゃくちゃ凝ってますよね！
宮田：めちゃくちゃ凝ってます。段ボール使ったりとかして。
荒木：クロイツ？(※５)なんかあれ2種類ありましたね？
宮田：はい。舞台美術をひっくり返して２種類にしました。
荒木：話自体も全然違うんですか？
宮田：話自体も全然違います。
荒木：同じ公演でやってませんでしたっけ？
宮田：やってました。表裏公演と銘打ちました。
荒木：二つとも同じキャストで？
宮田：それは別キャストでしたが、ちょい役とかは同じキャストでやってました。
荒木：ほえ～、すごそう～。あ、宮田さん、役者もやる時あるじゃないですか? BAZU-FESの時やってましたよね？青木さん家の奥さん。
宮田：やったなぁ～(笑)
荒木：役者もやるなら、作・演出・出演だったらどれが好きですか？
宮田：最近は演出が楽しいですね。脚本・演出が最近になってやっと楽しみがわかってきた。
荒木：なるほど。それまではもう必死にやってるって感じですか？
宮田：そうですね。あと自分は裏方人間なんで装置、照明、音響とかが大好きで全体的にやってるって感じでした。
荒木：え？ じゃあ、もともと演劇は裏方から始めたんですか？
宮田：はい。そこから役者もやってみたら役者も楽しくて、やるようになりました。けど、役者やるなら他の劇団でやりたいですね。自分の劇団だとやることが多すぎて……だから、客演がいいですね。
荒木：めっちゃわかります。俺もそうなんですよ。作・演・出演って、責任多すぎて疲れますよね。
宮田：もう大変です。
荒木：宇宙水槽は劇団員多いですよね。
宮田：今は10人ちょいです。
荒木：それだけ多いと作・演に徹することが出来るからうらやましいなぁ。
(※４)劇トツ・・・「劇トツ×20分」2013年から北九州芸術劇場で行われている九州各地の劇団による短編演劇バトル。「上演時間は20分以内」「登場人物は3人まで」というルールのもと短編作品を上演し、競い合う。
(※５)クロイツ・・・宇宙水槽の2019年公演『犯罪王クロイツ［表］』『犯罪王クロイツ［裏］』 ←クリックするとCM動画が見れます。
いつか言いたかったこと
宮田：いつか言おうと思ってたんですが、2017年の劇王(※６)で審査員の西田シャトナーさんに褒められてましたよね？
荒木：あ、はい。
宮田：うわ！ すげぇと思って！
荒木：好きなんですか？
宮田：大好きです！ だから、うらやましいなと思って！
荒木：そうなんすね！ 作品が『まみれまみれ』で、観客投票ダントツ最下位でしたが、シャトナーさんはけっこう高得点を入れてくれてて、べた褒めでした。それで気分は上昇しましたが。
宮田：僕もSNSで拝見してて、うらやましい～ってなりました。
荒木：その時に『今回の団体の中で、1番戯曲としては下手くそでしたが1番元気をもらえた』って言われて嬉しかったなぁ。でも、今、その時の情熱とかを忘れてしまいそうだったから、その時の気持ちを思い出したくて対談企画しました。
宮田：そうなんすね。
荒木：そしたら、宮田さんが劇団ヒロシ軍をけっこう観てくれていたという事実が発覚しました。
宮田：隠れファンです。言ってなかったですが。
荒木：まじですか？
宮田：まじです！ まじです！
荒木：わ～、嬉しいなぁ。今後、機会があれば、ご一緒したい、てか、戦いたいですね。
(※６)劇王・・・2017年に長久手で行われた『劇王XI～アジア大会～』劇トツで優勝した劇団ヒロシ軍は九州代表で出場するもダントツ最下位になる。
劇トツとDENGEKIの違い
荒木：そういや今年は劇トツ出てなかったですよね？
宮田：今年はイベントと被ってて、出れなかったです。リベンジしたいとは思っています。
荒木：なるほど。イベントのやつって、DENGEKIで優勝したジャンケン(※７)のやつですよね。
宮田：そうです。あの作品、けっこう前の作品なんですが、クソくだらなくて大好きですね。
荒木：DENGEKIの優勝特典は公演の権利がもらえるんですよね？
宮田：そうです。だから、熊本で2回公演しました。
荒木：劇トツも優勝特典は公演の権利でした。ヒロシ軍が劇トツで2回優勝してる時に、宇宙水槽もDENGEKIで２回優勝して、別々の場所で2回公演してると。
宮田：そうです。場所が違うだけで、同じ状況でしたね。
荒木：だから、気になってました。劇トツとDENGEKIどちらも出てる団体は少ないと思うので聞きたいんですが、この二つの違いって何でした?
宮田：DENGEKIはアウェイだけど、何度も出ているのでホームみたいな感じで、お客さんにすんなり受け入れてもらえたかなと。客席の距離も近いですし。劇トツは初めてでしたし。めちゃくちゃいいホールで、憧れ劇団や気になる劇団がたくさんいたので、だいぶ緊張してしまいました。なので2回3回と出場して慣らしたいな〜と思いました。本当は今年、劇トツ出たかったんですけどね。何回か出て、仲良くならんとなって感じです。
荒木：(確かにヒロシ軍も劇トツ最初は２連チャン最下位で３度目でやっと優勝出来て、２連覇し、3連覇がかかった劇トツでダントツの最下位だもんな。・・・う、胸が痛い)
（ちなみにDENGEKIは観客投票のみで、劇トツは観客投票と審査員投票の合計で競う）
(※７)ジャンケン・・・2022年6月12日(日)に行われた鹿児島演劇イベント 「わけもんフェス」にて宇宙水槽が上演する演目 『劇闘！虹ヶ原学園Z』
創作で重きに置いてること
荒木：宮田さんが創作で重きに置いてることってなんですか？
宮田：重きに置いてること。
荒木：ヒロシ軍はお客さんとの対話というか巻き込むことを重きに置いてるから、稽古の時にある程度つくるけど、本番で観客との空気によって変化しながら合わせて出来上がってく感じですね。
宮田：おお、なるほど。わかります。
荒木：宇宙水槽の作品のイメージはかなり作り込まれているイメージです。
宮田：ガチガチに作りますね。
荒木：あと音響照明のきっかけが多い気がします。
宮田：いつもですね(笑)
荒木：だから、覚えて演じるだけでも、かなりハードの中、お客さんを巻き込むってのはどういうイメージなのかなぁと。
宮田：自分はけっこう演出は戦略的に作ってます。セリフ言うタイミングなどなど、お客さんを置いていかないように丁寧に作っています。
荒木：それって役者と稽古をしていくうちに作っていくのか、それとも台本を書く時点で作り込むのか。
宮田：もちろん稽古してる時にやるんですが、その前から、台本を書いている時もけっこう細かく作ります。立稽古だと、一歩下がったり、一歩前ねとか、そういう微調整レベルで。お客さんが一番観やすくするために。
荒木：なるほど。
宮田：それらをきっちり作った後の最後の仕上げで、感情入れの練習がめっちゃ楽しい。動きをしっかり作った上で、一番美味しいところを作り上げてく。細かいこと考えない状態にして、感情出させるのが楽しい。
荒木：最後の味付けかぁ。
宮田：だからなのか、鹿児島の劇団は稽古時間が長い。今、ナカトバが隣で稽古してますけど。
荒木：(隣で稽古してるってどういうこと？ ここ、宮田さん家だよな？)……たしかに鹿児島の劇団は、しっかり作り込んでるイメージですね。どれぐらいのペースで稽古するんですか？
宮田：3ヶ月前から週2日で3時間程度。どんどん本番が近づくにつれ、週5日で稽古やったりしてます。他の劇団に聞いたら1ヵ月前くらいでやってるとか。驚きました。うちはこういう作り方しか知らないから。
荒木：俺は短編(20分)なんですが1ヵ月前に客演さんに台本だけ渡して、小屋入りの前日に来てもらって、1日だけで作って本番やったことあります。全然拘束しないから、客演さんにとっては割に合う仕事だけど。でも、ある程度の稽古時間は必要ですよね。ただ俺はあんまり考えすぎてもダメというか。宮田さんは計算で作ってるけど、俺は計算ができないから経験で行くしかないと。
宮田：それもすごい！ 作り方は人それぞれだし、何でもありだと思うので。
荒木：(宮田さん、めちゃくちゃ褒めてくれるから、これも聞いておこう)……ちなみにヒロシ軍で印象的な作品ってあります?
宮田：『ヌカルマ』ミニチュアで京都へ行くって叫ぶのは印象的で！ 人肉饅頭って歌うのも！ 歌いあげてる時の「何を観せられているんだ自分は！？」みたいな！ 演劇じゃなくてライブ！ この体験はこの芝居でしかで見れないなぁと！ だって、そんなに歌がめちゃくちゃ上手いわけでもなく、プロの歌手が目の前で歌ってるわけでもなく、歌もめちゃくちゃで共感する歌詞でもないのに、心をグッと掴まれました。すごかったですよ！
荒木：(やっぱ、めちゃくちゃ褒めてくれた。嬉しいなぁ)……劇トツでは観客投票ダントツ最下位でしたか上通演劇祭でやったら、めちゃくちゃ盛り上がった。ヒロシ軍の作品の中で何が好きですか？
宮田：まとまってるのは『あいしてる』だと思うんですが、好きなのは『ヌカルマ』です。
荒木：もしも、ヒロシ軍と戦う機会があれば、もちろん新作ですか?
宮田：そうですね。
荒木：まぁ、でも、今、勝負しても勝てる自信がないなぁ。作品作ることで必死だから。
え！？噓でしょ！？
宮田：そういえば稽古場を作ったんですが。
荒木：ん？ 稽古場を？
宮田：はい。劇トツが終わってから稽古場を買いました。去年だいぶ無茶をして、元コンビニの抜き地を買って、半分はDIYにして人が住めるようにして、半分は稽古場にして、今ナカトバがとなりで稽古してます。
荒木：(あ、さっきのナカトバがとなりで稽古してるって、そういうことだったのかぁ！！！)
宮田：だから、今、家に稽古場があるって感じです。
荒木：めちゃくちゃ凄いじゃんですか！
宮田：そのためにお金を貯めてました。人生一度の切り札を使ったって感じです。
荒木：ちなみにそこでアトリエ公演とか出来るんですか？
宮田：出来ます！ 去年、柿落とし公演をやりました。
荒木：すげ～！ もしも、鹿児島でやる時はそこでやりたいなぁ～。
宮田：まぁ、でもキャパ25席くらいですね。
荒木：それでも全然かまいません！
宮田：ぜひ遊びにきてください（笑）
荒木：じゃあ、これから宇宙水槽はバリバリ活動していきますよね！？
宮田：はい。今まで以上に無茶が出来るようになったって感じですね。
荒木：いつか戦いたいですね。
宮田：それに尽きますね。
荒木：今度は俺が宇宙水槽を観に行くか戦うかのどっちかですね。
宮田：ですね！ それか僕がヒロシ軍を観に行くか。
荒木：多分、そっちのほうが早いかも(笑)宮田さん、フットワーク軽いから。その時まで楽しみにしてます！
いよいよ来週です！！！
鹿児島のみなさーん、九州のみなさーん、興味ある方は是非とも！！！
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