民国小学生作文(1936) 2011
この本のもとは、吳繼銓編寫《小學模範作文》上海三民圖書公司,民國二十五年(1936年)。これを分類整理したものとして2011年に以下が出版された。『民国小学生作文』九州出版社 2011年。ここで紹介するのは後者である。当時の中国の子供たちの優秀作文を集めたものだが、整理が繰り返されたなかで、どの程度元の作文が改変されているかや、正確な採録場所はわからない。しかしそれでも1930年代前半の空気をよく伝えている。
この本を最初に読んだのは本書刊行の2011年から間がないときで、小学生とは思えない表現の豊かさや巧みさに、驚いた。おそらく当時の中国で作文教育が重視されていたことを、この本は示しているのだろう。現代の中国人も実は同じように感じるのではないだろうか。しかし作文の内容から読み取れることは、それ以上に1930年代前半の中国の社会事情である。
1930年代前半の中国である。小学校から上にさえ進学することがむつかしいということが、家庭の経済的事情などで少なくなかったことが読みとれる(學校生活的一斷片pp.8-9, 升學和就業pp.32-33)。何らかの事情で、就学が遅れたため年齢の高い子供が小学校に交じっていたこともわかる(一个刻苦自励的学生p.82)。
衝撃的なのは、同世代の女の子が母親によってわずか2元で売られるのを目撃した作文である(萬惡的金錢pp.106-107)。そもそも就学できない子供たちがたくさんいたわけで、そこには民国のこどもの現実がみえる。
→ 一個車夫 巴金 巴金がこどもの車夫に出会った驚きを書いている
もう一つは注目するのは国産品(囯貨)愛用運動に代表される、愛国教育である(用國貨可以救囯p.156, 服用國貨宣誓禮中之演說p.194)。愛国教育は列強に侵略されていた中国(cf.怎樣紀念中山先生p.123, 鴉片戰爭的經過p.129, 覆友詢上海情形書pp.213-214)の教育として当然である。その中で国産品愛用を進めるには、国産品の研究改良を進め、国産品の弱点を減らし、またそのコストを下げて価格を下げることが必要だと指摘した文章に着目した(提倡國貨的演講pp.195-196)。愛国の熱狂のなかで、品質やコストで国産品が負けないように目配りするのは理性的で、この作文を評価して採録した背景に合理的な教育を目指す開明的な姿勢がうかがえる。