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ゴルバチョフの経済改革 1985-91

Mikhail Gorbachev in New World Encyclopedia から抜粋

 事実上のソビエト連邦の支配者としてゴルバチョフは、1986年2月のCPSU(ソビエト連邦共産党)第27回会議で開始された、glasnost(openness公開性)、perestroika(restructuring再建)、そしてuskoreniye(経済発展のacceleration加速)の導入により、停滞する共産党と国家経済の改革を試みた。
 ゴルバチョフは、生活水準および労働者の生産性の改善を目指して、perestroika programに経済改革を加えた。しかし彼の改革の多くは、当時、ソビエト政府の伝統的官僚たちapparatchiksからは急進的だとみなされた。
 1985年にゴルバチョフはソビエト経済は止まっており、再組織化が必要だと述べた。当初、彼の改革はuskoreniye(acceleration加速)と呼ばれたが、のちにperestroika(reconstruction再建)という呼び方がより一般的になった。
 ゴルバチョフは真空(の中)で働いていたわけではなかった。Leonid Brezhnev時代は、通常、経済停滞の時代と思われているが、多数の経済実験が(とくにビジネス企業の組織や、西欧企業とのパートナーシップにおいて)行われた。多数の改革のアイデアが技術志向の経営者の間で、しばしば青年共産主義者同盟の会議室の設備を使って議論された。とくにバルト海諸国では、いわゆるKomsomol(青年共産主義者同盟)世代はゴルバチョフの最も熱心な聴衆だったし、共産主義後のビジネスマンや政治家の育成室だった。
 ゴルバチョフのもとで導入された最初の改革は1985年のアルコール改革であり、ソビエト連邦で広く広がっていた飲酒癖alcoholismと戦うものだった。ウオッカやワイン、ビールの価格が引き上げられ、その販売が制限された。仕事あるいは公の場所での飲酒は有罪とされた。長距離の列車そして公共の場所での飲酒が禁止された。多くの有名なワイナリーが破壊された。アルコールを消費する場面が映画から削除された。残念ながらこの改革はロシアの飲酒文化alcoholismにいかなる重大な影響も与えなかったが、経済的にはアルコール生産が闇経済に異動したことで、国家予算に深刻な打撃となった(Alexander Yakovlevによれば1000億ルーブルの損失)。アルコール改革は、6年後のソビエト連邦の崩壊と新たに成立する独立国家連邦の経済危機に終わる、一連の出来事の原因となることの、最初の引き金だった。
(訳注 なお史上最悪の原子炉事故とされるチェルノブイリ原発事故は1986年4月25日-26日生じている。技術者が実験を進めていたところ、核分裂が制御不能になり原子炉の爆発に到り、大量の放射性物質が大気にまき散らされたとされ、直接の原因として実験の設計が安全管理の面で杜撰だったと指摘されている。) 
 1988年5月に制定された集団経営についての法律the law on Cooperativesはゴルバチョフ時代の初期の経済改革の(なかで)もっとも急進的なものであった。Vladimir Leninの 新経済政策以来初めて、同法は、サービス、製造そして外国貿易の領域でビジネスの私的所有権を許した。同法は当初、高い税金の賦課と雇用制限をしていたが、後には私的部門の活動を妨げないように改定された。この規定のもとで、集団経営のレストラン、店舗、製造業は、ソビエト経済の法的に認められた一部になった。共和国の中には制限を無視した国があったことは記録されるべきである。たとえばエストニアでは集団営業で外国の訪問者の必要に応じることが出来たし、外国の会社とパートナーシップを組むこともできた。
 大きな全連邦(型)の産業組織も再構成され始めた。たとえば国家所有のソビエト航空であるAeroflotは、多数の独立企業に分割された。その幾つかはその後の独立航空会社の核になった。これらの新たな自律的ビジネス組織は外国の投資を求めることを奨励された。

中江幸雄 中ソの市場経済移行に関する比較体制分析:試論 『立教経済学研究』49(1), 1995, 47-66

中江幸雄 中ソの企業形態と市場経済化ー80年代後半期の比較分析 『立教経済学研究』49(2), 1995, 25-50

中江幸雄 中ソの国家経済機構と対外関係:ペレストロイカと「改革・開放」の比較分析 『立教経済学研究』49(3), 1996, 75-96

加藤志津子 ゴルバチョフ時代末期のソ連企業ー市場経済移行決定とソ連企業ー 明治大学社会科学研究所紀要44(2), 2006/03, 197-216

浅川あや子 ソ連からみた鄧小平の経済計画(1984-1992年):中ソ比較経済改革史の予備的考察 比較経済研究50(2), 2013/06, 38-53

浅川あや子 中ソ比較経済改革史序説:鄧小平とゴルバチョフの時代 RRC Working Paper Series No.46, July 2014


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