趙宏興「耳光」『長江文芸』2017年第12期
趙宏興(チャオ・ホンシン 1967- 安徽省合肥の人。この作家の細かな履歴は分からない。本作を自伝としてみれば、安徽省の貧しい農村出身かもしれない。なお合肥は安徽省の省都で、今では先端科学技術の都市との触れ込みで知られる。)の短編小説。両耳を両手で叩くことを「打耳光」という。子供の教育に望みをかける農民の気持ちが伝わる。この小説は最初に『長江文芸』2017年第12期に発表された。以下は《2018中国年度短編小説》灕江出版社2019,pp.81-95からこの。小説の要約である(写真は湯島聖堂)。
日曜の朝早く、父親が立って歯磨きをしてるところに、働き者の小妹がトランジスタ―ラジオ(半導體收音機)をもって現れるところから場面は始まる(時代はいつだろうか? 後段で生産隊が過去のものとされながら、隊長がなお尊敬されていることや叔父が出稼ぎにでているなどが手掛かりになるが、はっきりと時代は見えない。生産隊は人民公社制度のもとでの生産の在り方で、人民公社制度は1985年までに解体され、中国の農業は農家ごとの責任制に戻された。著者自身の年齢からは1980年代と推測。福光)。小妹は中学生で日曜になると、町から帰ってきて田畑の仕事を手伝うのだった。それだけでなく勉強熱心だった。小妹は英語のリスニングをしながら、草取りをしてたのだ。
母親は朝の食事の用意をしながら、生活費や小妹の学費のことを考えていた。そこで父親に、父親の弟である叔父に借金するように頼む。叔父は出稼ぎに出ていて小銭があると思われた。叔父とは、何かにつけてぶつかってきた父親はにわかには応じなかったが、母親は「我們家這些小老虎快要睜眼了(私たちの小さな虎に目を開けてもらいましょう)」と説得し、父親はため息をつきながら出ていった。
しかし父親は叔父のところにすぐに行かず、かつての生産隊の隊長のところに行く。生産隊は解散したが、隊長はなお尊敬され、村内で人望があった。
父親は隊長になんとか、借金の話を切り出すが、俺だって自分の子供の学費で精いっぱいでカネがない、お前は弟(叔父)のところで借りるのが筋だと逆に言われてしまう。
結局、隊長に連れられて父親は弟の家に行った。
叔父(弟)には、自分の子供が勉強しない、という悩みがあった。そこでその子供を説得しようと、町から自宅に帰っていた。
叔父(弟)は訪ねてきた二人の姿を見て、借金を頼みに来たと感づいて家の裏手に隠れてしまう。隊長が、叔父を見つけて、借金の話をするが、叔父の心は自身のこどもが勉強しないこともあり、折れ曲がってしまい、カネは自分の奥さんに渡したと嘘をつく。しかし、その嘘もまた隊長に見破られて、叔父はカネを出して父に渡してしまう。
ここでカネを借りれた父はやはり兄弟は兄弟と安心した。借金はしたが、ともかく学費を確保できたので母もとりあえず安心した。しかし一家は来週には小妹のお兄さんの学費も控えていた。日曜の午後、借金を知った小妹は複雑な気持ちで町に出発した。
3日後、隊長が父に今度は長兄の結婚話をもってきた。相手は木工職人の娘さんで、足が少し不自由とのこと。しかし父と母は自分たちのように貧しい一家に嫁に来てくれるとはと感謝し、隊長に心ばかりの料理を用意する。そのささやかな宴の席が始まろうとしたとき、叔父が現れる。叔父は自分の子供が進学せず、兄(父親)の子供たちが進学すれば、いずれ今度は自分が兄に比べ落ちぶれると考えた。そしてカネを取り戻そうと決心したのだった。
隊長のとりなしにも応ぜず、カネをすぐに返せと一点張りの叔父。叔父は帰ろうとしない。言い争う声を聴いた母は、割って入り、明日カネを返すと言い放ち、叔父に帰宅を促した。
その日の午後、母は父に次の日に町に行き、小妹を学校から家に連れ帰るように父に告げた。父は驚いて進学させないのか?と言った。どうすることもできない、と母は目を真っ赤にして、鼻水を手で拭って答えた。
翌日、父は町から小妹を連れ帰った。話を聞いた小妹は、ベッドの上でひとしきり泣き、泣きはらした目のまま、カネを母に返した。
父と隊長が、叔父の家に行った。隊長がカネを返しに来たといい、叔父はカネを数えて確かに(正好!)と答えた。隊長は「おまえの姪が退学するのが、わかっているのか?」と叔父に言った。叔父は考える価値もないかのように(不屑地說)「それは俺とは関係がない」と答えた。カネを返した父が、家路を急ぐと、はるか先に母と小さな小妹が働く姿が見えた。父は二人に申し訳なく思い、思いっきり自分の両耳を叩いた(狠狠地打了自己一個耳光)、はっきり響く音がただ父の耳だけに届いた。
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見出し写真は湯島聖堂。以下の写真も湯島聖堂の屋根飾りの神獣。
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