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資金の内製と外製

「資金の内製・外製」概念の提起
 資金調達を考えるときに、内部資金・外部資金と表現することがあります。内部資金とは、主として利益の留保(内部留保)を指し、外部資金とは借り入れ、社債発行、増資(株式発行)など、企業の外からの資金の取入れを指します。この区分けの場合、企業間信用の問題は、外部資金の問題に区分けされます。
 しかし私は、企業のお金についても、商品を製造する時と同様に、内製・外製の区分けが可能ではないかと考えます。ここで内製とは企業内の判断や意思決定により、資金を生み出す様々な方法を指しており、これを利用することで、企業は外部に依存しないで、経営判断を進めることができます。
 企業は、このような判断によって、一方では資金の必要を生み出し(ex.設備投資の決定)、逆に資金の必要を中断し(投資判断の留保・中断)、さらには資金を生み出します(経費の削減、資産の売却)。

内製手段としてのCMS
 たとえば、生産コストの切り下げや営業経費の削減は、資金をそれだけ生み出す行為です。すでに見たCCCの短縮化も同じです。こうした資金内製の手段として注目されているものに、CMScash management systemと資産証券化asset sucuritizationがあります。
    CMSから見ましょう。これは、グループ企業を抱えているような企業が、グループ企業内で、資金のプーリングを行いグループ内で資金の効率的使用に努め、ネッテイング(グループ内企業間支払いを残高の付け替え調整で処理すること)、グループ外への支払代行などにより手数料、間接経費の圧縮を図るもの。大きな会社であれば、その財務部や、財務子会社の機能ですが、銀行としては銀行が提供するサービスとして展開することで、企業に売り込む商品でもあります。金利や手数料の節約にもなるこのサービスを銀行が売り込むのは矛盾して見えますが、銀行としては、このサービスを売り込むことで、企業との取引を自行に一元化、集約を促しているのだと考えられます。
 保有している資産の効率的使用で、資金を取り入れる必要をへらしたり、外部に支払われる利子や手数料の削減につなげることが想定されています。
 三菱銀行の資金財務効率化サービスCMS 説明を読むと他行口座も含めて、統合的な財務管理システムを提供するとしています。他行口座を含め全体を統括するシステムを提供する形を打ち出しています。これは複数行と取引する大企業の実態に即しています。
 三井住友銀行のCMS 連結子会社を有する企業グループに対して、グループ内資金の一元管理、効率化の方法として提案。機能としてはプーリング、資金繰り管理、貸付預入管理、支払代行など。導入効果として、財務決済業務の一元化、資金の有効活用、経理業務の統一、間接業務の集約を上げている。
 りそなCMSサービス 資金プーリング、支払代行(支払代行そしてグループ内支払いのネッティング)、定期性貸借の項目に分けている。
 CMSの議論を私たちは1990年代から、繰り返してきました。ですので今や大きな会社では導入していることは当然で、その効率の改善が求められている段階かもしれません。ABeam Consultingが2007年に行なった調査では、調査で回答した東証一部の企業283社の実に80%が導入済と回答しました。なお2003年に別の組織が行った調査では、導入済は43%でした。
 回答結果からは、資金の集約効率化や、資金調達コストの節約について満足感が高い半面、リスクコントロールや事務処理の合理化については満足感が少し低いこと、様々な理由から、複数行のCMSサービスを利用したり子会社の協力が十分でなく、資金の集中がさまたげられ、CMSの想定される効用が発揮されない場合も多いことが伺えます。
 CMSの現段階での課題は何でしょうか。kyribaはクラウドを通じて金融サービスを提供する会社です。同社のCMSの説明(内容から2014年制作と思われます)をよむと、口座の残高や入出金の可視化が、CMSの新たなポイントになっていることを指摘しています。もう一つのポイントは、送金決済などに係るコストをさらに低下させることです。
 この可視化に役立つとされるのがweb scrapingと呼ばれる技術です。決済については、「価値」の移転についてブロックチェーンシステムblock chain systemを利用すれば、スピードも速くコストを大きく下げることができると議論されています。つまりクラウド(ネット)における新たな技術を使うことで、大きな変革が起きる可能性が高まっているのです。
   子会社の数も限られた中小企業にとって、CMSのような大規模なシステムはオーバースペック(過剰投資)ではないか。という疑問もささやかれています。以下のスケルトンという会社(日本政策銀行G)は、skelton CMTというソフトの導入で、中小企業におけるニーズには十分対応できると主張
ています(キャッシュマネジメントツール(skelton CMT概要))。 

内製手段としての資産証券化
 内製の方法のもう一つは、資産を流動化すること、資産を早く現金化することで資金を内製し、外部から借りるお金の節約につなげるというものです。
    資産証券化asset securitizationは、資産assetに基礎に基礎を置いた資金調達方法の一つです。資産担保に借入れasset based borrowing or lendingも考えられます。資産担保の証券asset backed securitiesが発行される。
 この方法はsales and leasebackという昔からある、資産流動化方法といろいろ違いがあります。sales and leasebackでは、資産は身内とか関係会社に形だけ売却され(売却はみせかけで状況が良くなれば買戻しを考えています)、売却後は賃貸料がこの身内あるいは関係会社に支払わます。資産証券化では、先ず資金の出所は第三者である投資家。かつ資産の売却は、特別目的会社などに本当に売却されています(真正売買)。
 第三者である投資家が、投資として納得して買えるように、この証券にはさまざまな証券化の技術が施されています。つぎのようなものがあります。
 証券から支払われる収益を証券に対して支払われる収益より小さく設計するspread account。証券発行額を、問題の資産より小さく設計するover collateralization。そして発行される証券に優先劣後構造senior subordinated structureがある階層化を施すこと。このような技術の駆使によって、高い信用格付けを求める投資家にも適合した金融商品が生み出されることになりました。

小口債権の証券化と事業の証券化
 証券化される対象は、小口の債権を集合債権にしたもの、それから大口の債権を小口化するものなどが出発点でしたが、やがてこれからおこなれる事業資金の調達にもこの技術が活用されるようになりました。これを事業の証券化(whole business securitization)といいます。いわゆるプロジェクトファイナンスは基本的には、この事業の証券化と同じものだといえます。
 事業の証券化 日本格付け研究所JCR 2012/06/01
 証券化は新しい金融手法として一時大変勢いがありましたが、2007-2008年、アメリカで住宅ローンの証券化でサブプライムローンで問題が表面化し、一挙に収縮しました。その後は、金融緩和が進む中、組成するのにコストがかかる証券化にかつての勢いを求めるのは無理な面があります。しかし、金融の手法として、資産を流動化するというこの手法は、市場で一定の規模を獲得しつつあります。
 証券化市場の残高調査(2019年3月末)2019年5月31日公表 これによると金融緩和が進む中、RMBS(住宅ローン債権、アパートローン債権などの流動化)、ショッピング・クレジット債権の流動化は残高を毎年増やしている。2019年3月末でこの調査で判明する残高は20兆2246億円、前年同期比5.7%増、RMBSの比重は87.7%である。この統計で判明するものは、小口債権を集合債権にしたものである。残念ながら2018年度以降の数字以降の数字は公表されていない。
 この残高調査で判明するのは、先ほどの小口債権を集合債権にしたものの流動化の数値で、先に議論した事業の証券化は入っていません。
 事業の証券化と小口債権の流動化では、それを推し進める動機にも違いがあるように思います。

事業の証券化を進める動機としてのオフバランスシート
 事業の証券化については、バランスシートを拡大すること避けて(あるいは不動産投資のリスクから自身は離して)、しかし事業自体は拡大を進めようとする不動産会社。電力、鉄道などさまざまな社会的インフラ整備の必要性。あるいは、民間の資金を動員することで公共工事を拡大しようとする政府などの意向です。その動機は一言でいうと、オフバランスシートにあるように思います。その結果、プロジェクトごとに事業主体が組織され、そのプロジェクトの資金調達を行うことは、かなり一般化しています。
 プロジェクトファイナンスの手法(PFIインフォメーション)
 オフバランス化により、1)事業からのリスクがスポンサーである親会社に遡及しない。2)資金調達は事業主体である特別目的会社が行い、親会社の財務の影響を受けないし、影響を与えない。など。
 不動産証券化の実態調査 国土交通省 平成29年度2017年度まで 2014~17年度 毎年1000件以上5兆円前後の証券化を確認できる。
 不動産証券化のメリット 都市経営戦略研究所 不動産がオフバランス化されること 2004-2008年ころ作成か
 不動産流動化 企業会計ナビ2017/03/10 オフバランス化による財務体質に改善効果が指摘されている。そうなるのは、不動産が切り離されること()資産規模が小さくなること)、そして資金調達も事業主体が行うことで、親会社への財務負担が軽減されること、など。
 不動産証券化 開発型証券化(FUJITA) 言葉の使い方として、開発型証券化というのは計画から作ってゆくものだと指摘されている。
   プロジェクトファイナンスに関する一考察 アナリシス52巻5/6号2018/09
 増加続けるプロジェクトファイナンス 新電力ネット2018/09/25
 三菱UFJ銀行 プロジェクトファイナンス
 オリックス プロジェクトファイナンスによる財務体質改善の提案
   事例 再生可能エネルギーファンドの設立 2019/02/14
                          住友商事ー三井住友銀行ー日本政策銀行
 5分でわかるPFI(2011年平成23年作成文書)
 PFIの現状 内閣府 平成11年1999年から始められたこの事業は2019年3月末までで累計で740件 契約金額は6兆2361億円とのこと。PFIというのは公共工事を民間のノウハウ、お金を使うことで進めようというもので、プロジェクトファイナンスの一部だと考える。


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