中国：居民（住民）医療保険の退保潮（保険加入者減少の大波）。

　中国の基本医療保険（公的医療保険）には、自愿参保（任意加入）の居民基本医療保険と、強制参保の職工基本医療保険の二つがある。近年、居民基本医療保険については2000万人台の加入者の減少が続いており、結果として基本医療保険全体でも加入者は減少。これが「退保潮」（保険加入者減少の大波）を示すものかが議論されている。
　退保潮について、中国を批判的に見る人の間では、居民医療保険の保険料が毎年上昇を続けていることが減少の主因であるとして、中国の基本医療制度の崩壊を指摘する意見がある。これに対して、中国の当局の説明は、この減少は、主として加入の重複の整理によってもたらされたもので、問題ではないと説明している（このほか、居民医療保険参加者の減少要因としては、学生が就職により職工に移る要因、参加者の死亡による自然減、などが知られる）。（参照: 中国农村出现医保“退保潮”？ 国家医保局：说法不准确    中国新闻网  2024/03/26)
　事実、中国の政府側のサイトを見ると、基本医療保険の重複加入の解消を求めていることから、この当局の説明は基本的には正しいと私も感じる。
　重複加入はいかにして生じるのか。背景には中国の保険制度が自治体単位で運用されている問題がある。①まずもともと居民に参加していたものが、就職により職工に参加する場合。②戸籍地・当住地（現住所）で居民に参加している者が、当住地・戸籍地でさらに居民に参加する場合。③もともと職工に参加していた者が、別の就職先でさらに職工に参加する場合。（参照　什么是基本医保重复参保    人社通2024/08/12)。つまりシステムが自治体単位で管理され、居民と職工がさらに別れて運用されているので、重複加入を、加入申し込み時点で排除できないことが背景である。
　では政府や自治体が、重複加入を整理しようとする背景は何か。私の推測が入るが、居民医療保険についての財政負担の削減ではないかと考える。実は、政府からみると、職工医療保険は雇用主と勤労者からの保険料で賄われているが、居民医療保険は財政補助に大きく依存している。加入者が多いほど財政負担が膨らむ。また統計的に保険のカバレッジを正確に把握できない問題もあるだろう。
　では、特に居民医療保険でなぜ重複加入が膨らむのか。私の推測が入るが、医療保険が自治体単位で運用され、受診できる医療機関が加入している保険に紐づけされている中国の制度のありかたが背景ではないか。例えば、農村から働きにでてくると、農村（戸籍地）と当住地とで、それぞれ居民に入らないと、医療機関を受診する上で不便だということが現実にあるのではないか。つまり重複加入をしたいという二―ズがあるのではないか。
　ではこの問題全体を、結論としていかに評価するか。先ほども述べたように私も「退保潮」の主原因は、確かに当局の説明するように、重複加入の解消にあるとみなしている。これは中国の自治体のサイトを見ると、重複加入を止めることを促していることからも間違いない。しかし疑問はある。
　一つは重複を解消したあと、戸籍地と当住地で等しく医療サービスを受けたいというニーズに対応できるように、制度を変えてゆく必要がなおあるということ。この点、現状の問題や課題をさらに知りたいところだ。
　もう一つは中国経済が悪化するなかでの、居民医療保険の保険料の高騰（2003年から2023年で23倍とされる）は問題で、とくに家族がたくさんいる低収入の家庭では、保険料負担に耐えかねて保険からの離脱＝無保険化も起きているのではないかということである。つまり重複の解消だけでなく、離脱も起きていないかという疑問である。いろいろな対策が考えられるが、居民医療保険について、現在の一律の保険料を止めて、とくに子供の保険料を思い切って引き下げることも一案ではないだろうか。

なお　以下の記事は居民医療保険に多額の政府補助が入っていることをもって、居民医療保険に入ることの有利さ言うまでもない（不言而喻）とする。ただそこの実感に問題があるという反省も必要である。
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