証券会社securities firms
証券市場論について、とくに経営学部や商学部でこの科目をどのように展開するかを考えますと、証券会社のビジネスとして考えるというのが一つの方向です。経済学部で展開する場合は、証券や証券市場の経済的機能を中心に考えてはどうでしょうか。
しかしビジネスモデルを考えて、そこにどのような変化が生まれるかを考えるというのは、今では多くの経済学部生にとっても受け入れやすい考え方かもしれません。理論よりは、社会での実務から科目の内容を考えるという主潮は強くなっています。そこでこの証券会社の業務の話しを証券市場論の冒頭においてみることにしました。
証券会社には様々な業務を行う大きな証券会社がある一方で、業務を特定のものに特化させている、比較的小規模な証券会社も多数あります。
日本証券業協会が発表している統計資料によれば、2022年6月末現在で、同会員数は272社(内外国法人は9社)。従業員数は88,687人。外国法人を除く263社の資本金階層は、100億円以上が32社、10億円以上100億円未満が88社、10億円未満が143社となっています。なお同時点の同会員の国内店舗数合計は2008でした。2010年末と比較しますと、外国法人数の減少、国内店舗数の減少などの傾向が読み取れます。
各年月末 2022/06 2020/12 2015/12 2010/12
資本金100億以上 32 30 31 26
10億円以上100億未満 88 90 81 90
10億円未満 143 139 127 160
国内法人 263 259 239 276
外国法人 9 10 13 23
会員数計 272 269 252 299
国内店舗数 2008 2076 2130 2220
従業員数 88,687 88,170 88,108 92,056
証券会社の業務は、まず証券売買の仲介業務brokerageがあります。ここで言う証券には、株式、債券のほか投資信託が含まれています。証券会社は、売買の仲介を行い手数料を徴収しています。そのうち株式取引では、信用取引がありますが、信用取引で証券会社は顧客に対して、現金あるいは株式をの貸付を行っています。つぎに、証券の自己売買trading業務があります。自己売買はそれ自体で利益を追求する目的のほか、証券在庫を調整したり、リスクや手元資金量の調整をするためにも行われています。
証券会社の業務には、証券発行時の引き受け業務underwritingがあります。引き受けにその後の売出業務につながりますので、引受売出業務ともいいます。ここで証券会社は、証券を発行する会社から、手数料をとって発行引き受け業務を行います。ポイントは、この業務はその後、応募額が発行額に満たず、残額を証券会社が引き取るリスクがあるということです(これを残額引き受けといいます)。したがってその引き受け手数料は、発行に伴うリスクを引き受けることへの報酬の側面もあります。
この引き受け業務とも関係がある業務としては大きな証券会社の場合は、企業が証券を使って、企業買収や業務の再組織を行う場合のアドバイスあるいは顧問業務も行っています。ここでも証券会社が取得するのは、手数料です。
証券会社の収益構造は、開示資料だけでは正確に分析出来ません。以下がこれまでの開示の仕方ですが(資料は証券業協会による。協会の会員証券の集計値をもとに構成比を算出した)、最大項目のその他手数料を中身を正確に読み取れないないことが問題です。M&A関係の手数料がここに入っていますが、その他手数料の中身はそれだけではありません。それから傾向として見えるのは、募集売出手数料が減ったことです。これは投資信託手数料での「荒稼ぎ」が抑制されたことを示しています。投資信託の募集手数料の高さは問題です。またトレーディング収益つまり自己売買で証券会社は、かなり利益出していることは注目されます。なお信用取引で顧客から得る利息収入は金融収益に入ってきます。各種の配当金もこの金融収益に入ってきます。
年度 2021 2016 2011
受入手数料 61.0 53.9 60.3
委託 15.0 14.1 14.4
引受売出 4.7 4.2 2.8
募集売出 6.6 7.5 15.3
その他手数料 34.7 28.1 27.8
トレーディング収益 22.5 28.1 23.5
金融収益 16.1 16.5 15.0
営業収益 100.0% 100.0 100.0
証券の発行市場を一次市場、流通市場を二次市場secondary marketsとよぶことがあります。両市場に渡って、業務を全体的に展開している大きな証券会社を総合証券とよぶことがあります。
投資家の主体は、さまざまなファンドや年金基金など巨額資金を運用する機関投資家に移ってきたとされています。こうした機関投資家を顧客とし、
またとくに大企業向けに、証券の引受や企業買収でのアドバイスなどを行う投資銀行が注目されています。日本でも大手の総合証券は、こうした投資銀行を自身のビジネスモデルとして志向しているとみなされています。
2000年代に入って以降、個人投資家の売買は、ネット売買が中心になるオンライン化の傾向が顕著になりました。個人投資家の売買の中心的部分が、手数料の安いネット専業証券に移ったとされています。オンライン化で個人投資家は、自分で判断する傾向を強めているという指摘があります。証券会社のビジネスはこの面からも変革を迫られているといえます。
そこで次回は投資銀行について考えてみることにしましょう。
(なお、証券会社の経営破綻から個人投資家を守る仕組みとしては、まず証券会社に対して分別管理の徹底を求めるとともに、「日本投資者保護基金」という制度が置かれています。個人投資家の資産(金銭と有価証券)について、分別管理がなされてなかった場合、この基金により一人あたり「1000万円」まで補償しようというものです。)