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囲剿(いそう) 中国経済用語

   近代中国史で避けて通れないのは、中国共産党と国民党との間の戦争についての考察である。とくに強大な国民党軍が何度も包囲作戦(囲剿 圍剿ウェイチアオ)を行いながら、ついに共産党軍を駆逐できなかったのはなぜか。(写真は成城大学1号館中庭)
 手元にある『戦略の本質』(原著は2005年 手元にあるのは2008年出版の日経ビジネス文庫版)第2章はこの点を論じた手頃な読み物になっている。これを読んでいくつか気付いた点がある。チアン/ハリデイ『真説毛沢東』(原著2005  手元は2016年出版の講談社+α文庫)を見ていると毛沢東は逃げ回っているようにみえるが、ここ(戦略と本質)ではしぶとく遊撃戦で戦っていると肯定的に書いている(資料として毛沢東に好意的な資料をそのまま使っているようにも見える)。兵力だけでなく武装の面でも劣勢にある紅軍は、逃げ回ってチャンスをみつけて攻撃するのは、当然だと「戦略と本質」は書いているように思える。
 なお紅軍がなぜ善戦したのかを考えると、指揮官にあたるもののモラルの高さは見落とせないのではないか(紅軍将校は「ものども続け!」であって「ものども進め!」ではなかった 日経ビジネス文庫p.111)。
 ⇒ この議論は確かに一面正しい。しかし同時に、共産党内であった肅反という、裏切りを摘発する政策の評価も必要だ。というのは裏切りを見つけて摘発することは、どの軍隊でも必要だろうが、周囲を囲まれて情況は必要以上に疑心暗鬼を生んで、常識では考えられないほどの多数の人間を身内で拷問して殺したからである。過度の肅反を肯定する気持ちにはとてもなれないが、緊張感を高めたことは事実だろう。
 蒋介石による共産党討伐を妨げた要因としては、国民党内の造反、さらに日本軍の侵攻(1931年9月18日満州事変の発生)があった(日経ビジネス文庫pp.90-91)。日本が起こした満州事変が、蒋介石の中共掃討作戦を妨げ、中国共産党を助けた点は遠藤誉さんの『毛沢東』(新潮新書 2015年)でも強調されている点だ(同書p.74)。
    他方でコミンテルンの指導に従う中国共産党側もいくつかの誤りを犯した。一つは1933年暮れに国民党第19路軍が起こした「反蒋抗日」を掲げた福建人民政府と連携できなかったことである。これについて石川禎浩さんは、コミンテルン自体がなお統一戦線の方針に切り替わってなかったことを理由に挙げている(『革命とナショナリズム』岩波新書 2010年 pp.134-136 日経ビジネス文庫pp.95-96)。中国共産党はコミンテルンの方針・指導を超えることはできなかったというのが、石川さんの解釈だ。
 もう一つはコミンテルンの軍事顧問の指導下で、紅軍は多大な犠牲を伴う正規軍戦、消耗戦を強いられたことだ(日経ビジネス文庫 pp.96-97)。そしてそのことが戦局の転換、根拠地の放棄につながったように思えることだ。おそらくこのような人的犠牲の思い出は、コミンテルンへの不信につながるものではなかったろうか。

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福光 寛  中国経済思想摘記
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