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北京普恵健康保について

 北京市医療保障局では基本医療保険(公的医療保険)を補完する商業補充医療保険である「北京普恵健康保」への加入を北京市民に呼び掛けている。なお「普恵」は広く様々な人に様々に良いことを施す、と言った意味。この保険の加入呼び掛け対象には北京在住の日本人も含まれている。この保険は、公的医療保険を越えた高額医療費、公的医療保険適用外の医療費などについて、ある条件を満たすことを条件に、一定限度までの給付を一人年195元という小さな保険料で可能にするもの。2021年7月26日に発売開始した時の給付内容は以下のとおりである。
 「北京普恵健康保」が発売開始(2021/07/26)(北京市 2021/08) 

給付内容(2021年8月時点) 各給付金額上限は100万元まで
1)公的医療保険適用内の医療費で自身支払ったもの(自付)について
       免責額:北京市基本医療大病保険起付標準額
  健康な方                       給付率80%
  特定病罹患歴のある方 給付率40%
2)公的医療保険適用外の医療費で自身支払ったもの(自費)について
  健康な方       免責2万元 給付率70%
        特定病罹患歴のある方 免責4万元 給付率35%
3)内外の特効薬100種について   
  健康な方       免責2万元 給付率60%
       特定病罹患歴のある方 免責4万元 給付率30%
注)免責とはその金額を超えたところから給付
  が開始されるという意味。そして給付率80%とは
  自己負担割合20%という意味。
「北京普恵健康保」はどのように「普遍的な優遇」を提供するのか
(北京市 2021/08)

なお2023年度からは加入対象が広げられ、2)3)の免責額が緩和されている。
「北京普恵健康保」が募集開始(北京市 2022/11)
2023年度の改正点。入院における免責を健康な方1.5万元、特定病罹患歴のある方2万元に緩和。内外特効薬についての免責額は廃止。また特効薬に国内特効薬40種を追加。無料で受けられる健康サービスを充実。以下を参照。
2023年度”北京普恵健康保”有哪些升级(北京市医療保障局2022/09/23)
北京普惠健康保(北京人民政府)
   個人が払う医療費用は、基本医療保険の目録外であるが医療費用として支払うもの=自費と、基本医療保険の目録内であるが、支払い開始金(起付钱,起付标准=基本医療保険における免責額)、自己負担金、保険超過分など個人で支払ったもの=自付とに区分される。上の給付内容の1)はこの「自付」に対応している。2)が「自費」に対応している。自費と自付、この2つの支払いの理解がまず必要である。
 また1)の免責額 北京市基本医療大病保険起付標準額は30404元とされている(北京市医療保険局2023/11/01)

2024年度「北京普恵健康保」の募集が1月31日まで延長(北京市 2024/01)
2024年1月時点での加入資格、給付の請求方法、加入により受けられる無料の健康サービスが紹介されている。

cf. 「恵民保」の出現 片山ゆき『十四億人の安寧 デジタル国家中国の社会保障戦略』慶應義塾大学出版会2024/09 p.177-180, esp.178  表5-3 この表は中国人民保険PICCのサイトから採録している。一つの疑問は北京市の医療保障局の原表を採録しなかったこと。なお現在、この表はPICCのサイトから消失している。ポイントは、現在の公的医療保険の給付水準の不十分さを、民間保険と役所とが組んで提供する「普恵健康保険」(「恵民保」と呼ばれる)が補っていること。この点で片山さんの指摘は正しい。
   片山さんの「公的医療保険の償還範囲内」という訳は、p.180の深圳市重大疾病・特殊疾病補充医療保険の説明に再度出てくる。そこで深圳市医療保障局の説明(産保人参加重特大疾病補充医療保険後、可享受那些待遇2019/10/15)で確認した結果、「医療保険目録範囲内」を片山さんは「公的医療保険の償還範囲内」と訳していることを確認できた。
 しかし中国では、公的医療保険が適用になる前に、支払い開始金(起付钱)分の自払いがあり、それがあってから、自己負担比率での支払いにうつる。また、保険適用を受けられる金額に限度(封顶钱)がある。これらの点が日本とは違う。そこで補充保険は、支払い開始金(起付钱,起付标准=基本医療保険における免責額)、自己負担金、保険超過分など個人で支払ったもの=自付に対して一定の給付をするものである。
    この深圳市の補充医療保険は2015年に開始され、毎年見直しがあるので、2019-2020年時点で内容をみると、年一人30元の一律の保険料で、第一に、「公的医療保険の適用範囲内」について自払いした分(=自付分)について、1万元を超える部分(支払い開始金に相当)を70%給付する(最高限度の規定はない)。第二に薬について、深圳市の重特大疾病補充医療保険の目録内にある薬の購入について15万元を限度に70%給付するもの(広東省人民政府 2019/04/21)。この保険は、深圳市から運営を受託した民間の保険会社が提供している。民間保険会社の力を借りて、極めて低い保険料で、中国の公的医療保険の難点とされる、自己負担率の高さを緩和するものといえる。


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