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資本主義の再構築 Rebecca Henderson, MBR Winter 2021 

Rebecca Henderson, Reimagining Capitalism, Management Business Review, Winter 2021(upload in Sept.2021 ), 18-23   抄訳

 資本主義は人類の偉大な発明の一つである。繁栄と革新、そして個人の自由の傑出した推進力であり、数十億の人々を貧困から引き上げた(功労者である)。1910年には17億5000万人の人々が極端な貧困にあった。今では世界の人口は(1910年の)3倍以上に増えたが、貧困にあえぐ人々は7億人前後に過ぎない。1950年代には(世界の)人口の半分が1日2ドル未満で生活していた。今ではその比率は(世界の人口の)13%に過ぎない。1820年には地球の人口の43%は5歳前に亡くなった。今ではその比率は4%に過ぎない。
 しかし多くの場所で不平等は1920年以来(かつて)見られたことがない水準にまで上昇している。合衆国と連合王国では、所得の最下層では過去20年間、顕著な賃金上昇がない。社会の流動性は劇的に減少した。今日生まれた子供が、彼らの両親より(多く)稼ぐ確率は50%より少ない。世界中で少数民族の人々は、大体において経済の主流から排除されている。たとえば合衆国において、スペイン系の人の平均的中位所得は、白人のそれの70%であり、黒人のその数値は50%に達しない。
 同時に地球は温暖化が進んでいる。制限されることがない地球の温暖化は、気候を不安定化し、世界の食糧供給を逼迫化させ、多くの偉大な海岸都市に洪水を見舞い、数百万の人々に移住を強いる脅威となっている。世界の800万の(生物の)種のうち100万は消滅(の危機)に直面している。他方で化石燃料は、毎年人類の健康に重大な被害を与え続けている。(温室効果ガスの)排出量はCOVID-19パンデミック(訳注 感染症の世界的大流行のこと)に直面する中で、わずかに減少したが、(今や)再び大きく又早く盛り返す準備を整えている。

 我々は我々の社会に均衡を根本的に崩すことを許してしまった。
 
我々が直面する問題には様々な原因があるが、その一つは我々が我々の社会に均衡を根本的に崩すことを許したことにある。1970年代と1980年代において経済発展は、成長の動因として過度に自由市場の力に焦点をあてた見解であるワシントンコンセンサスにより導かれていた。コンセンサスの結果、世界銀行やIMFらの強力な指導のもと、地域の政治あるいは社会組織の健全さに明確に注意することなく、途上国は徹底した規制緩和と私有化とに包まれ、その市場は世界貿易と自由な資本の流れに公開を迫られた。しかし1990年代以来、この戦略は、実証と理論の両面からますます挑戦を受けている。コンセンサスにしがみついた多くの国は、期待されたようにはならなかった。とくにソビエト後のロシアにおいて、市場の急速な自由化に続いたのは、クローニー資本主義(縁故資本主義crony capitalism)への堕落だった。他方でいわゆるアジアの虎たちーとくに台湾、シンガポール、韓国ーは、市場発展を政府の深い介入とを組み合わせることで、経済的に成功した。
 以下のことはますます明確になった。法による支配、よくデザイン(設計)された企業統治、反腐敗の防護措置(safeguards)、民主的政府、自由な情報媒体、そして適切な金融規制は、自由市場が高度な発展を促す上で不可欠である。また学者たちは、包摂的(inclusive)社会と排除的(extractive)社会とを区別し始めた。排除的体制は、政治的権力と経済的権力の双方を少数のエリートの手に集中している。対照的に、健全な包摂的社会は、自由市場、強力な市民社会、民主的に選出された、透明性が高く有能かつ責任ある政府という三つの(柱の)基礎上にある。(中略)

図1 強い社会の三つの柱
   自由市場    法の支配         良い政府
           自由な言論と情報     政治的自由
           少数者権利の尊重
           労働者擁護の発言

図1 強い社会の三つの柱

 我々の政府と我々の社会を再構築することなしに、直面する問題を我々は解決できない。我々は世界中の人々を、地球を加熱することそして我々が依存している生態系を破壊することを止めること、教育とヘルスケア(訳注 健康管理)の広汎な供給、労働者擁護の発言、本当の民族的包摂、不平等の最悪の効果を改善する再分配税制のようなもの、を求める、大衆的な政治的文化的運動に動員する必要がある。(中略)

 COVID-19パンデミックは、我々に我々の社会と組織を考え直す大きな機会を与えている。我々は(このことを)資本主義を再構築するチャンスととらえるべきだ。

 


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