趙紫陽 民主政治は必ず始まる 1993/12/14
宗鳳鳴《趙紫陽軟禁中的談話》開放出版社,2007年,120-121
1993年12月14日 趙紫陽(チャオ・ツーヤン 1919-2005)は考える。「中国で過去、マルクスレーニン主義を導入(引進)したのは必ずしも社会主義を実現するためではない。「中華復興」「国家民族の危機を救う(救亡圖存)」のためだった。のちにソ連のこの高度集中体制を導入したのは、まず重工業の発展に力を集中し、軍事工業をおこすためで、富国強民のためであり、社会主義を実現するためではなかった。毛主席が中国でいわゆる、工であって農、文でありまた武(亦工亦農又文又武),工,農、商、学、兵を集め一体の人民公社を実行したのは、彼のユートピア農業社会主義の理想を実現するためである。」
趙は一歩分析を進めて言う。「毛主席は基本は中国の伝統思想を尊重(奉行)している。すなわち農業社会的極楽世界だ。毛沢東は中国歴史上の五斗米の教えをとても賛美(贊賞)した。漢代の張天師は、無償で飯を食わせることで食を保証され(管吃),食が得られる(量腹取足)ところに住まいを保証されて、好きなところを行き来して自由自在に生活した。毛沢東はすべては「公」に従えと主張した。これ(この毛主席の主張)は革命戦争年代から実行した軍事共産主義的供給制であり、建設年代に回想された供給制回復の考え方であり、「五七」指示(毛沢東が1966年6月7日林彪にあてた書簡で示した指示。軍隊は軍務のほか、政治、文化、経済などさまざまなことをするべきだとするが、農民、学生、そのほかにも同様のことを求めている)や人民公社そのものに見ることができる。これは孔子の大同世界(これは「礼記(らいき)」が出典とされる古代中国世界での理想社会)、康有為の「大同書」その後の孫中山の「天下為公」思想これらはみな一脈相通じるところがある。毛沢東は外来の主義に対して、自身のユートピア理想に役立たせる実用主義(的)態度をとった。毛主席はソ連の官僚体制というものには反対だった。寄生虫のような官僚主義者階級をこれ以上の悪はないとした。」
趙は言う。「ユートピアは条件がないので、実現できない。(そこで)高圧強制的方法に頼り、権威的方法に頼り、個人崇拝(迷信)を生み出す方法に頼り、国家機構を惜しげもなく叩き壊すに至り、無産階級独裁というこの武器を取り出すに至り、人民内部さらに党内部の異なる意見の者に、独裁的な鎮圧手段すら取るに至った。その結果、国民経済は崩壊の淵に向かい、(この方法の)失敗が告げられている。」
ここまで話して、趙は廖季立(リアオ・チイリイ 1915-1993)の見方に同意している。「無産階級は国内で優勢になってから再び「独裁(専制)」を強調することはできない。そのようにすれば、ただ人民の政治が独裁化するだけである。(逆に)当然、革命時期にこのような厳密に高度な集権制がなければ、革命は勝利することはできない。すなわち建設が開始するとき、(趙は著しく力を込めて述べた)もし西欧の民主政治を実行すれば、あのような多党制を行えば、社会は決して安定できないだろう。発展途上の国家は社会矛盾が多いし、経済建設を順調にすすめることはできない。南アメリカ諸国がその例だ。」
趙紫陽は最後に述べた。「まとめると、後進国家で革命が勝利したあとは、まず商品経済を発展させる。生産力を全力で発展させる。中国の農村においては、さまざまな請負制(聯產承包制)が進められたことで、人民公社が解体(瓦解)した。都市においては非国有経済の発展が、計画経済体制を崩壊(解体)させた。株式制を実行したことは、公有制経済を転換させた。今後市場経済の発展とともに、経済多元化が出現すると、高度集中的独裁政治体制は必ず維持できなくなり、旧体制をは必ず改変されねばならなくなる。(そのとき)一党独裁の政治体制が終わり、現代民主政治が始まる(実行される)。」
なお廖季立の無産階級独裁についての見解とは、独裁は革命の勝利のために必要だが、勝利後は速やかに、民主と法治に戻るべきだというもの。廖季立は1993年5月16日に趙紫陽を尋ねて、自説を趙紫陽に直接のべている。参照 宗鳳鳴《趙紫陽軟禁中的談話》開放出版社,2007年,94-99, esp.96-97
なお廖季立は党の経済部門に一貫して務めた人だが、1915年生まれで1993年12月14日に亡くなっている。ここからは想像が入るが、廖が亡くなる半年前に趙紫陽を危険を冒して訪ねたのは、廖はすでに体調が悪く自身の死期を予感しお別れの意味も重ねて訪ねたのではないか。年齢も近い二人の間にはさまざまな交流があったと思われる。そして12月14日付けのこの会話に廖が登場するのは、偶然ではなく廖の訃報を受けたあと廖の発言を思い起しながら趙紫陽が述べたものではないかと想像する。
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