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地域金融機関の経営

 地域金融機関は今厳しい立場に置かれている。経営環境の悪化が急速に悪化しているのである。地方では人口減少による低成長の影響が資金需要の低迷として、首都圏より大きくでている。固定費の削減が急務だが、急速な人口減少に店舗の閉鎖が追い付かない、との指摘もみられる。金融庁はこうした情況に対して、地域金融機関の合併・統合を進める方針のようだ。2018年4月に発表された「金融仲介の改善に向けた検討会議」(金融庁)の報告書『地域金融の課題と競争のあり方』は、地域金融機関の経営統合という金融庁の方針を肯定する内容になっている。
 経営統合については理解できる。ただ分からないのは、その続きだ。どこまでの統合が合理的で、どこからが行き過ぎなのだろうか?ハーフィンダール指数HFIという市場の寡占度を示す数値の分析では、金融機関のHFIが小さいほど貸出金利が低くなること、また金融機関のHFIが小さくなるほど地域経済水準が高いことが分かっている。これは地域経済規模が大きいところに、金融機関が立地を集積し金融機関間の競争が活発であると解釈される。ここからさらに進めて、寡占度を上げると貸出金利が上がるかを分析したレポートがある。その可能性は否定されていない。つまり合併統合を進めるにあたっては、そのマイナスの影響にできるだけ配慮する必要がある。
 背景にある問題は、日本銀行による超金融緩和政策のもとで、長期金利が低下。貸出の利ザヤが減っているうえに、資金需要の低下によって、地域金融機関は貸し出し競争で自ら自身を苦しくする状況に追い込まれている。他方、かつては金融機関の収益を支えた国債投資をはじめとする有価証券投資から利益がでにくくなっており、地域金融機関の経営環境は厳しい。
 長期国債の金利は超金融緩和政策のもとでゼロに近くなっている。投信で稼ごうとしても株安の場合は含み損が生まれる。その結果、一部の地銀は、利回りを稼ごうと外国債券の運用に走った。ただ外国債券の運用には金利上昇のリスクが大きい。求められるのは、高度なリスク管理をこなせる人材だが、地銀ではなかなか人材の確保がむつかしいとされている。同様に大手行の場合は、国内の貸し出しが減っても、海外での貸し出しを増やすことができるが、地域金融機関の場合、同様の対応はむつかしい。
 地域金融機関は、厳しい経営環境を乗り切るために、合併・統合以外ではどのような経営戦略が可能だろうか。理屈としては、人口減少という地域の経済環境のもとでも、成長のタネをみつけて頑張っている企業に融資をすればよいわけだが、実際にそれは言葉で言うほど簡単ではない。農林中金の古江は、実際に地域金融機関によって採用されている戦略を「広域化戦略」と「深堀り戦略」と名付けている。確かに足元の市場が縮小するなかで、優良融資先を発見するための対応は広域化と深掘りになるだろう。
   また世界的に進展するデジタル化の動きの中で、店舗を軸にした既存の銀行のビジネスモデルの見直しが急がれていることは論を待たない。ただその議論を詰めてゆくと、地域とかコミュニティにこだわる議論までもが、根拠を失うようにも思える。あからさまに言えば、ネットを通じてサービスを供給できるのであれば、物理的に地域に存在する必要すらないのかもしれない。デジタル化の問題は地域金融機関の存在理由を厳しく問い、業態を超えた競争を示唆しているのかもしれない。
 日本銀行金融機構局「銀行・信用金庫におけるデジタライゼーションへの対応」『金融システムレポート別冊シリーズ』2019年5月, 1-36
   内野逸勢・長野智「顕在化する地域銀行の”再編の芽”」『大和総研調査季報』2019年新春号(2019年1月)Vol.33, 14-25
  古江晋也「マイナス金利政策下における地域金融機関の経営戦略ー生き残りをかけた広域化戦略と深堀り戦略」『農林金融』2018年5月, 2-14
  金融仲介の改善に向けた検討会議(座長村本孜 金融庁)『地域金融の課題と競争のあり方』2018年4月11日
  金融庁『地域金融の現状と課題について』2018年1月 
  中野悠理「Digital Bankがもたらす金融サービスデジタル化~国内金融機関に求められるDigital Bank活用~」Mizuho Industry Focus, Vol.204, 2018年1月16日, 1-23
  金融庁金融研究センター「地域金融市場では寡占度が高まると貸出金利は上がるか」DP2016-5, 2017年1月, 1-22
  日本銀行金融機構局「人口減少に立ち向かう地域金融ー地域金融機関の経営環境と課題ー」『金融システムレポート別冊シリーズ』2015年5月, 1-20


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福光 寛  中国経済思想摘記
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