張五常 中国的経済制度 2009
この本は英語のあと中国語がくる。それで中国語の部分から読むといろいろ疑問が残った。で英語で見ると、主張は明確で疑問も残らない。ということは英語版を最初から読んだ方が良かったかもしれない。内容は彼、張五常がどのように、中国の改革にかかわってきたかを語ったもの。ところどころ自慢話に見えるところもあるが、それだけ天才肌で自信、自負の高いひとなのだろう。
第一節で提起される問題は、腐敗、言論統制など、極めて多くの問題を抱えながらも中国が急速に発展したことは事実、それをいかに説明するかーである(p.33, 116-117)。近年も見る空き家化している新設の建物、それでも賃貸価格は上がり続ける。それは人々が、上海が金融センターになることを期待しているからだと。労働人口の3分の1が流動している国で、戸籍人口をベースに一人当たり所得やジニ係数を議論することは現実から遠いとも指摘している(pp.37-38,120-121)。
第二節冒頭ではコースの経済学を中国に伝えたのは自分だという自負がまず語られる。孫冶方の価値規律第一条という有名な論文(1978)に張り合って、価値規律第一条という中国語論文を1979年10月香港で発表したと。重要だとした点は、競争は(資源)不足の情況では不可避的であり、勝ち負けを決める基準はいろいろあるが、ただ市場価格がレントの解消に有効だということ。そして市場価格は私有財産と固く結びついてること(pp.39-40, 122-123)。この論文は北京ですぐに広く読まれたと続けている。そして1982年5月に香港大学の経済学講座に迎えられたことで、中国の発展を追跡する最良の場所をえられたとする。
取引費用、そしてそれが中国では高く下げる必要がある、これは理解が容易だった。そして市場価格がレントの解消につながることも。しかし私有財産が市場価格に結びついていることは、社会主義を維持するという公式に立場と矛盾していた。そこで役に立ったのはコースの権利の限定(界定delineation)というアイデアで、1988年秋にフリードマン夫妻を趙紫陽主席に引き合わせた時、趙紫陽は権利の限定の重要性を詳しく説明することをミルトン・フリードマンに求めたとする。この趙紫陽とフリードマンの対話は記録の上、大量に印刷されたとのこと。(pp.42-43, 125-126)
そして、決定的だったのは所有権から使用権を分離するというアイデアだったとする。(つまり使用権を議論することで、私有財産権の問題から離れることができた。)(pp.43-44, 126-127)
既に述べたように、(資源)不足のもとで競争は不可避的であるが、同時に競争は、権利の構造によりさまざまに制約されるが、その状態を契約と呼んでいる。権利の構造には、①私有財産、②階級的地位(中国については 党内での資格履歴による序列を言っている)、③規制、④慣習や宗教の4つのタイプがある。中国で起きた奇跡は、②から①への契約状態の転換が、社会的動乱なく進められたことにあり、成功のカギは、二つの契約の中間のものとして責任契約が登場し、この契約システムを彼らが使いこなしたことにある(pp.46-47, 128-130 )。
この転換に関連して、張は腐敗(corruption)は、この転換の裏道になり、転換の抵抗を減らした面があるとの興味深い指摘をしている(pp.54-55, 137-138)。他方で、責任契約は農業での成功は疑いなかったものの、工業では旨くゆかなかった。とくに機械設備の陳腐化の責任をめぐって、政府と企業は争いがあり、うまくゆかなかった。そこでこの転換を進める上で、重要になってきたのは、土地の使用権を持つ県による、土地の地代を引き上げるための競争だったとしている(pp.63-65, 144-145)。
書誌事項は以下の通り。
Steven N. S. Cheung, The Economic System of China, 2009 edition
《中國的經濟制度》中信出版社2009年
走進我國經濟學家張五常 2020年6月5日
https://www.bilibili.com/video/BV1GZ4y1H7ew/
意見中國 經濟學家訪談錄 張五常 2010年4月27日 ここでは最初に中国の競争の主体が自治体(縣)であることを観察の末に理解したことがまず語られている。
張五常近影