中国ビジネス必携 2012
『中国ビジネス必携』(菅野真一郎)2012。出版は今から7年前。きんざい(金融財政事情研究会)の発行。中々おもしろいので改めて読む。
冒頭、中国が輸入代替(輸入を国内生産に置き替えること)を進めていること、外資の投資制限項目(国内で供給過剰とみなされているものなど)に指定される前の進出すること、系列にとらわれない新たな取引関係の可能性が、早期進出すべき理由として上げられている(第1章)。
たとえば、土地使用権の現物出資にどのような問題があるかを指摘している。評価における水増し、無償割り当て土地使用権を買い取り使用権に見せかける、などの問題が横行しているとする。さらにその土地が、整備されかつ問題がない土地か確認する方法が細かく述べられている(2章中間)。このほか2章の最後。現地のゼネコンと日系ゼネコンとの比較で生じる見積もりの差の説明(日系ゼネコンは履行責任を意識して為替見通しや適性利潤を織り込むため割高になりやすいが現地ゼネコンは受注優先で受注後コストがかさむと平気で工事をとめる)、現地ゼネコンに依頼する場合の注意などの説明も重要で、この議論は海外での建設工事発注で一般化できる面もあるのではないか(2章末尾)。
交渉の留意点のところ。相手の発言を詳細にメモを取り、議事録を残すことやペンデイング(未解決)事項の記録(そして双方で確認署名)の重要性の指摘も、仕事で交渉する場合のポイントとして共感できる。交渉では感情的にならず、相手の話をよく聞くこと。事前に十分情報を収集するなどの指摘もよくわかる。また合弁に入る意向書(letter of intent)のサインには時間をかけるなど。ほかの分厚い書物にも類似の記述はあるが、共感しながら読んだ(3章)。
そして第6章。キックバック(回扣)や三角債(売上債権未回収問題)、乱収費(税金以外の金銭調達)が異常ではなく、習慣になっている中国社会でどのように経営を進めるか。この部分も読ませる部分だ。
三角債については、対策はCOD:cash on deliveryが原則だ、少なくとも取引開始時はと菅野さんはいっている。キックバックについてはそれが社会の慣習になっていることを指摘して、それを前提にしてあまりにも大きい場合に問題にするということであるようだ。ただ取引でキックバックがあたりまえということは、表に出ている数字からは、本当の実態が見えない、見えにくい経済社会だということでもある。こうした国の統計数字を扱うときに、キックバックが習慣化していることを、どのように処理すればいいのだろうか。そういった疑問も頭をよぎる。
最後。役員の訪中時に訪れるべきところに、菅野さんは、中国人の生活風景の見える朝市を挙げている(8章)。そしてサラリーマン役員が朝市は遠慮してゴルフ場に行きたがることをからかっている。
この本が出版されたのは2012年5月。2012年は無能としか形容の方法がない民主党政権(鳩山内閣2009年9月ー2010年6月:管内閣2010年6月ー2011年9月:野田内閣2011年9月ー2012年12月)により、対中関係が極度に悪化していった時期である(民主党内閣下で対中関係の悪化はいずれも尖閣諸島問題に関係している。一つは2010年9月7日 中国漁船が海上保安庁の巡視船と衝突したとして、その船長を公務執行妨害として逮捕した事件(その後処分せずに釈放)。領土問題が中国側からすればあるところで逮捕して勾留すれば、日中関係が緊張することはあきらかだったが、逮捕し取り調べにはいったことで中国世論は激高。日中関係は極度に緊張し、このあと中国政府は、尖閣諸島周辺で領海侵犯を頻繁に繰り返すようになった。もう一つは、2012年9月11日、地権者から日本政府が尖閣諸島ほかを購入する国有化措置をとったこと。再び中国の世論は激高し、反日デモは中国各地で暴徒化するに至った。こちらも両国でもめている土地について、国有化措置をとれば、中国の世論が硬化するのは常識的に考えてもわかることであった。)。
この本は日中関係が良好であれば、受けたであろう社会的関心と評価を受けないままになったように思える。
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