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逆イールド reverse yield
イールドとは債券の利回りのこと。通常は長期になるほど利回りが高くなるこれを順イールドと呼ぶ。短期の方が長期より高い状態。これが逆イールド(reverse yield)である。
利回り曲線=イールドカーブの形状は、将来の金利の予測によって、形成されている。投資家が将来の金利が低下すると考える情況で、逆イールドが生まれる。典型的なのは景気の悪化である。
2019年3月20日米連邦制度準備理事会FRBは、連邦公開市場委員会FOMCで2019年中の利上げを見送り(利上げを予測した日本の一部の金融機関アナリストは正しくなかった)、9月末で(2017年秋から進めていた)資産縮小も停止する方針を示した。海外経済の下振れの懸念が強まる中、引き締め方針を転換したもの。FRBは金融正常化から「ハト派」への姿勢転換を明確にした。問題はその影響でまず米国内で、長期金利が低下し、10年物金利が3ケ月物金利を下回る長短逆転=逆イールドが発生した(3月22日)。
景気の先行きが悪化するとの見通しから、世界各国で株式ー株価先物が売られ株価が暴落した。とくに銀行は短期で調達した資金を長期の貸し出しや債券運用で稼ぐビジネスモデルであるため、「逆イールド」で利ザヤが圧迫され、収益が悪化する。そして銀行の収益の悪化は、結果としては経済全体を冷やす懸念、財務リスクを抱えた企業の破綻なども考えられる。このように株式投資のリスクの高まり株式から資金が引き上げられ、債券に資金運用がシフトする。債券に買いは入り債券相場は上昇、(長期)債券利回りは低下、逆イールドの傾向が強まるとされる。
米国の金利が低下に転ずることの国際的影響は複雑である。まずこれまで資金流出に悩んでいた新興国に資金が戻り、新興国株価が上昇するという考え方がある(しかし今回は金利逆転となる国が、ドイツ、カナダ、メキシコ、中国、トルコに広がり、景気悪化懸念はグローバルだという理解もある)。米国の利回り低下は、日米金利差の縮小からドル安(日本の場合は円高)要因になると考えられている。しかしそう簡単ではない。
円安の基調を決めているのは、国際収支の状況である。まず日本の貿易収支をみると、貿易摩擦や中国経済変調の影響で、輸出の鈍化が目立っている。ただ配当金や投資収益の受け取り(第一次所得収支)が大きく経常収支段階では黒字となる。しかし企業は海外で稼いだお金を直接投資の形で海外に還流させておりこれが(円売りの原因となって)、円安の基調を支えている。海外で稼いだ金を日本国内で投資をするべきというのが、しばしば側聞する政府見解だが、円高を抑制するということ(輸出を促し企業の収益を改善する)からすれば、対外直接投資の増加は、日本の国益に合っている。この直接投資の流れを決めているのは、日本国内の成長余力の低さ(あるいは長期的な収益率の低さ)であり、対外直接投資は経済的に合理的である。企業は、日本より成長が高い海外に投資を振り向けそれが結果として円高を防いでいる。また海外で稼いだお金が海外への直接投資として還流することは、国際的な経済摩擦を避ける点からも好ましいと考えられる。
国際収支の状況(資料:財務省HP 単位 億円 2019/03/28採録)
暦年 2016 2017 2018(暫定値)
経常収支a+b+c 210,615 219,514 190,932
貿易サービス収支a 43,887 42,297 2,891
貿易収支 55,176 49,554 11,877
輸出 690,927 772,855 812,070
輸入 635,751 723,301 800,193
サービス収支 -11,288 -7,257 -8,986
第一次所得収支b 188,183 198,374 208,102
第二次所得収支c -21,456 -21,457 -20,061
資本移転など -7,433 -2,872 -2,000
金融収支 282,764 176,642 201,289
直接投資 145,293 168,271 148,822
証券投資 296,496 -59,680 96,067
金融派生商品 -16,582 34,561 845
その他 -136,662 6,972 -71,073
外貨準備 -5,780 26,518 26,628
誤差脱漏 79,583 -40,000 12,356
注)金融収支のプラスは純資産の増加、マイナスは純資産の減少を示す。
(2019年7月から8月。7月末FRBの利下げ。市場では再びアメリカにおける逆イールドが話題になった。厳密には2年債のあたりが低く。そこから10年債にかけては上昇していたが(8月14日 2年債より10年利回りが低くなる形に・・・12年ぶりに出現)。ただ10年債利回りに比べて1か月、3ケ月といった短期金利の方が高い形。逆イールドは景気後退が近いことを示すとされる。実際には逆イールドのもとで米株価は上昇を続けた。しかし逆イールドが景気後退のサインなら、投資家は株から手を引くべきか。折から米中貿易摩擦の激化もあって一時、米株価は不安定になった(逆イールドショック)。その後は9月にかけて、米中貿易摩擦緩和の演出。低金利による金融相場で株価は回復を続けた。)
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