国家行政学院 中国経済新常態 2015
これは以下からの採録。大変分かりやすいが、要するに社会人向けの学習教材からである。
国家行政学院経済学教研部編著『中国経済新常態』人民出版社2015年。(写真はコロナ前の2019年9月3日、習近平総書記を迎えた学習風景。)
p.3 一、中国経済成長の新段階は経済の新常態を促している
中国は過去三十余年年平均成長率は10%近く、世界経済史で「中国の奇跡」を作った。現在、経済発展を内側で支える条件と外部の需要環境には深刻な変化が生まれ、経済成長速度の切り替え(換擋)を求め、経済成長の目標を合理区間に向け「収斂」進行することを求めている。習近平総書記が(補語 2014年5月と7月に)提起した経済新常態は、以下何点かの要素についての考察(考量)を含んでいる。
p.4 一つは、グローバル経済構造の大きい(深刻)調整である。我が国外部需要に委縮の常態が出現している。我が国の三十余年の経済高速度成長の重要要素の一つは、まさに不断に拡大する輸出という外向型経済発展道路を歩んだということである。しかし2008年の国際金融危機以来、世界経済には「総需要量成長速度の鈍化、経済構造の大きな調整」という特徴が現れ、我が国の外部需要には常態性委縮が出現している。米欧など経済強国は相次いで「再工業化」「2020戦略」「再生(重生)戦略」などの措置を提起し、新エネルギー源、新材料、新技術を結び付けて実体経済を発展させ、国際経済の管制高地(制高点)を力づくで占拠した(搶占)。同時に国際貿易規則を再設計を試み、太平洋を跨ぐ友人関係協議(Trans-Pacific Partnership Agreement, 略称TPP)と大西洋を跨ぐの貿易投資の友人関係協議(Transatlantic Trade and Investment Partnership、略称TTIP)の交渉を推進し、新たな貿易保護主義を実行した。途上国家はみな発展モデルの調整に努力するなか、比較優勢の保有産業の発展に努めている、これは中国経済の高速成長の外部環境に生じた巨大な変化である。
二つ目は国際創新駆動競争がさらに激しくなり、我が国産業構造の転型がその後滞っている。当面、第三次工業革命を正に迎えており、主要先進国家は次々に戦略性新興産業を発展させ、未来の科学技術創新と産業発展の管制高地を力で占領することを目指している。これらの新たな挑戦は我が国の経済発展方式がイノベーション(創新)駆動型転換に向かうことを迫っている。しかし長期にわたり、我が国の産業発展方式は粗放的で、「馬に乗って荒らしまわる(跑馬佔荒)」などの問題が存在しており、また科学技術創新能力が不足し、科学技術と産業を融合する力の不足から、多くの産業の競争力は強くなく、核心技術をほかの人に抑えられている。そこで政府投資がすぐに安定成長のカギになることは、政府の市場への関与であり、容易に市場の信号の機能喪失(失靈)をもたらす。このような面の打開のためには、われわれにはするべきことがあり、するべきでないことがある(我們需要有所爲,有所不爲)、するべきことは経済成長の速度を主導して遅くし、創新駆動経済転型のために、上に昇級する空間を作り、とどまって出る時間をつくることである。
三つ目は我が国の伝統である人口ボーナスは次第に減少し、資源環境の制約(約束)は今まさに強まっている。我が国の経済成長の構造はまさにいま歴史的に変化しつつある。目前、東部の先進(発達)地区の労働力供給の不足情況が次第に明らかであり、「ルイスの転換点」が正に到来し、外向型経p.5 済の伝統(的)人口ボーナスはまさに次第に弱くなっている。これとまさに対応しているのは、我が国の過度に投資と外需に依存した経済成長モデルである。すでに(それが)エネルギー、資源、環境を制約する影響はますます明らかで、石油、天然ガスなど重要な鉱産資源の対外依存度は不断に高まりつつあった、生態環境が受ける負担(圧力)も不断に高まり、(生産)要素の限界供給増量はすでに伝統的経済の高速発展の経路を支えることはできず、これもまた客観的には中国経済が逐次新たな平穏な成長区間に戻ることを促していた。
四つ目は我が国が直面している「中等収入の落ち込み(中等収入のワナともいう)」を跨いで超える挑戦である。改革のボーナス(紅利)が開放されることが強く期待されている。2013年にわが国の一人当たりGDPは6000米ドルを超え、すでに中等収入国家の列に加わり、今まさに「中等収入の落ち込み」を跨いで超える重要な歴史段階である。国際経験から見て、この段階の国家と地区において、求められるのは経済構造の一段上への昇級(優化昇級)である、これには社会構造の変革が伴い、利益で固まったモノ(屏藩)を打ち破ることに役立ち、社会の流動性を強め、経済社会に活力を充満させる。これに反して、中等収入のワナに落ちることもありうる。経済の新常態のもと、我々は必ず少しずつ、高速成長経済モデルを調整せねばならず、新たな成長動力を求め、民生を保障、改善し、改革を努力して実現し、(改革の)成果(紅利)の全員享受を発展させねばならない。
二、新常態は一段上に昇級した全方位経済である
習近平総書記は指摘している。「中国経済に現れている新常態には、いくつかの主要な特徴がある。一つは高速成長から中高速成長への転換である。二つは経済構造の不断の一段上への昇級であり、第三次産業や消費需要が次第に主体になることであり、都市と農村の区域差も次第に縮小、居住民収入の(訳者補語 GDPに占める)比率は上昇し、発展成果の恩恵はさらに広大な民衆に及ぶ。三つ目は要素駆動からであり、投資駆動から創新駆動に転換(転向)する」(習近平「持久発展を求めて」『人民日報』2014年11月10日)。習近平総書記の「新常態」の特徴に関する論述を学習することで、我々は考えた。
p.6 新常態経済の突出した表現は、経済構造の全方位一段上への昇級にあり、具体的に述べると、経済成長速度の転換に包含されていることだが、産業構造の調整、経済成長動力の変化、資源配置方式の転換、享受を含む経済福祉など、豊富な内容と特徴である。
一つ目は成長速度の高速から中高速への転換である。これは経済新常態の基本特徴である。(中略)
二つ目は産業構造の中低エッジから中高エッジへの転換である。これは経済新常態下の経済構造の一段上への主として攻める方向である。(中略)
三つ目は成長動力を要素駆動、投資駆動からイノベーション(創新)駆動に転換することである。(中略)
p.6
四つ目は資源配置を市場に基礎性作用をさせることから(政府が職能を変化させて)市場に決定的作用をさせるように転換することである。(中略)
五つ目は経済福祉の非均衡型から包容共同享受(共享)型への転換である。(以下略)
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以上の説明のうち、p.6のところは本文の説明を読んでもわかりにくいので、手元の資料を読んで意味を考えてみた。
まず四つ目について、この時、李克强が行った工作報告の関連資料によれば、登記制度、融資や価格の面で一段と自由化を進めたことが、対応しているように思われる。以下を参照、『図解 政府工作報告』人民出版社2015年, pp.50-55
五つ目の包容共同享受(共享)型の意味は、わかりにくい。福祉で最大の問題と考えられるのは農村問題であるが、農村の経済的立ち遅れや顕著になるなか、農村に資金を入れる方向への転換が進んだことを、わたしはこの共享の意味として考えたが間違っているだろうか。
農業税の廃止、農村の義務教育無償化(2006年)、農村のインフラへの投資(2007-2012年)、糧食買い入れ価格引き上げ(2009年)など農業支援が続いた。新常態のまえのことだが、農村問題の切迫性から農業政策の方向に転換があったとみるべきではないだろうか。都市だけが一方的に豊かになるのではなく、都市の豊かさを農村に回す方向への転換。それまでの農業生産の改善に傾いた考え方とは異なるのではないか?
また新常態の時期に重なるものとして注目されるのは、「国家新型城鎮化規画(2014-2020)」と呼ばれる計画である。これは農村を小都市に再編することで、都市に比べて遅れている農村のインフラを改善するというもの。都市と農村の生活格差是正に役立つのであろう。農村の都市化、底辺を引き上げて、両者の差を小さくする、そこに共享という問題があるのではないか。以上の農業問題については以下を参照, 石霞『建設強富美新農村』人民出版社2015年。