団塊世代の高齢化:人口ボーナスから人口オーナスへ
頻繁に引用される人口統計によれば、現在(2019年)いわゆる生産年齢人口(15歳以上64歳以下)の総人口に占める比率は60%を少し切った水準にある。また出生、死亡のほか、社会的異動(内外の流出入)を含め、日本の総人口は毎年0.2%程度減少が続いている。
ところで経済成長率は理論的には、人口成長率と労働生産性増加率とによって説明される。
経済成長率=人口成長率+労働生産性増加率
経済成長とともに、社会の産業構成は第一次産業から第二次産業、さらに第三次産業が中心の社会へと移ってゆくが、二次産業は資本集約的、三次産業は労働集約的な特徴がある。資本集約的な二次産業では、工程の機械化により生産性の改善を図りやすいが、三次産業は生産性の改善が困難だと指摘されている(現在、三次産業では、たとえばロボットの導入によって生産性の改善を図ろうとする動きがある。)。そのため経済成長に伴う、産業構成の変化とともに、労働生産性は低下、経済成長率が低下するとともに、経済成長において人口成長率の役割が大きくなると考えられる。
なおこのように経済成長とともに、産業構成が資本集約的な産業から労働集約的な産業中心に移行することで、労働生産性が上がりにくくなることはボーモル効果Baumol effectと呼ばれている。
人口成長率は、それ自体は総人口の成長率でとらえて良いが、働いている世代の役割を重視して、生産年齢人口の成長率に注目する考え方もある。ところで、近年、人口が突出して多い多い団塊の世代(1947-1949年生まれ)その次に人口の多いポスト団塊の世代(1950-1952年生まれ)が相次いで、生産年齢人口から外れることが生じた。これが起きたのは2011年から2016年の間である。もちろん、これらの世代の人が一斉に仕事を辞めるわけでは実際はないが、これらの人々の高齢化、現役からの引退が、経済成長率にとって巨大な押し下げ圧力になっていることは間違いないだろう。
これらの人口が大きい世代が生産年齢人口に加わるときには、成長率を押し上げる効果があったはずだ。こうした現象はpopulation bonusとか人口ボーナスdemographic bonusと呼ばれる。社会保障負担を増やすより付加価値を創造する面がはるかに大きかったはずだ。その経済的効果(=生産年齢人口の増加が経済成長にもたらす効果)はボーナス効果bonus effectと呼ぶことがある。逆にこの世代の現役からの引退は、年金や医療など社会保障負担を増やすとともに、付加価値を創造する面の縮小を意味している。社会の負担を増やすという意味だろうか。この度は後者の現象(生産年齢人口の減少が経済成長にもたらす効果)はpopulation onusとか 人口オーナスdemographic onusと呼ばれている(onusは義務とか負担といった意味)。これをオーナス効果onus effect と呼ぶ人もいる。
0-14歳 15-64歳 65歳以上
1985 21.5% 68.2% 10.3%
1990 18.2 69.7 12.1
1995 16.0 69.5 14.6
2000 14.6 68.1 17.4
2005 13.8 66.1 20.2
2010 13.2 63.8 23.0
2015 12.6 60.7 26.6
2017 12.3 60.0 27.7
人口成長率 生産年齢人口成長率 経済成長率 備考
2010 0.64% -0.56% 4.44~4.65% 金融危機2009の反動
2011 -0.20 0.38 -0.45~-0.57 東日本大震災の影響
2012 -0.22 -1.43 1.01~1.45
2013 -0.17 -1.45 1.36~2.11
2014 -0.17 -1.46 -0.03~0.34 消費税引上げが影響
2015 0.01 -2.01 1.22~1.35
2016 -0.28 0.36 0.93
2017 -0.17 -0.78
人口は2010,2015は国勢調査により他は厚生省社会保障人口問題研究所の推計値である。ただしこの推計値にはそもそも疑問もある。国勢調査との乖離がひどくこの表でも2010,2015の数値が少し浮き上がってみえる。人口問題研究所の人口推計は、さまざまな政策の根拠になっている大事な推計である。調べてみると、それが現実と乖離することについては、かなり前から問題にされてきた。日常生活で、在留外国人や訪日外客数などの増加がかなり大きなインパクトを与えつつある。このことの理論化もいまだ手つかずである。経済成長率(実質)は基準年をどうするかで様々な値が存在する。
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